第六章 うちは二人分
第六章 うちは二人分
「給食、一人の分で、二人食べたらあかんの?」
小春が尋ねた。
航平は椅子に座ったまま、妹を見た。
「そら、あかんなぁ」
「なんで?」
返事はすぐに来た。
「うちら、まだ小一やで。そんな食べへんし」
「うん」
「丸山くんは、いつもおかわりしとるねん。ご飯も、おかずも。それでも給食費、一人分やん」
小春は自分の前にある空の皿を見た。
「うち、お金ないねんから、一人分でええんちゃう?」
航平は口を開き、少し考えた。
横で卑弥呼も小春を見ていた。
「給食いうんはな、国の大事な制度で……」
「むつかしいこと、分からへん」
早かった。
航平は口を閉じた。
「給食費、払わん人もおるって聞くし」
「……うん。確かにな、そういう人もおる」
航平はテーブルに肘を置きかけ、やめた。
「でもな、そういう人ばっかりになってもうたら、給食出んくなるんやで」
小春が顔を上げた。
「出んくなる?」
「うん。そんなん、嫌やんな?」
小春は少し考えた。
「……嫌や」
「せやろ」
航平は椅子から立ち上がった。
「うちは、ちゃんと二人分払います〜」
小春が航平を見上げる。
「丸山くんがおかわりしてずるい思うんやったら、小春もおかわりしー」
「私、そんなに食べられへんもん」
「ほな、食べられるだけ食べといで」
食べる量を量ってお金を払うわけではないし、集めた給食費だけで全部が賄われているわけでもない。
けれど、今それを一つずつ説明し始めたら、双子も航平も学校へ行けなくなる。
航平は小春の皿を持った。
「よその家はよその家。うちは二人分。で、封筒どこ?」
小春の指が、パジャマの裾に触れた。
航平は待った。
「……ある」
「うん。持ってきて」
小春は椅子を下りた。
*
小春は寝ている部屋へ行き、布団の脇から絵本を一冊出した。
開くと、間に封筒が挟まっていた。
航平は後ろから見ていた。
さっき調べた絵本とは、別の本だった。
「ここかぁ」
小春が封筒を差し出した。
自分の名前のところを指で押さえている。
「なくしたって言うて、ごめんなさい」
航平は受け取った。
「次は、隠す前に聞いてな。探すん、時間かかるから」
「うん」
「お金もちゃんと入ってる?」
「出してへん」
中を確かめ、航平は封筒を閉じた。
「ほな、顔洗って着替え。急いでや」
小春が洗面所へ向かった。
入れ違いに、着替えた陽太が部屋へ来た。
「兄ちゃん、まだご飯食べてへんやん」
「今から食べる」
「卵、冷めるで」
「もう冷めてると思う」
陽太は台所へ走り、航平の皿をのぞいた。
「ほんまや」
「触った?」
「ちょっと」
「触らんといて」
*
航平は立ったまま、ご飯を口へ運んだ。
その間に、自分の弁当箱へ残りの卵焼きを詰める。
卑弥呼が横にいた。
「お金、ございましたね」
「うん。助かった」
航平はお茶を飲んだ。
「東やなかったけどな」
卑弥呼が寝ている部屋を見た。
続いて、窓のほうを見る。
「……あちらは、何の方角でしょう」
「今から確かめて、当たりにせんでええ」
卑弥呼は袖の中へ手を戻した。
航平は最後の一口を食べ、茶碗を流しへ置いた。
「でも、小春に聞いてみようって言うたんは、助かったわ」
卑弥呼が顔を上げた。
「そうでしょうか」
「俺、ずっと床見てたし」
鞄に弁当箱を入れ、航平は居間へ戻った。
小春が制服に着替え、ランドセルの前に座っている。
航平は封筒を渡した。
「これ、入れとき」
小春は今度こそ、ランドセルへ入れた。
「陽太もあるな?」
「あるー」
返事は玄関から来た。
航平は小春のランドセルを閉じ、背負うのを手伝った。
玄関へ行くと、陽太が靴を履いて待っていた。
「丸山くん、今日もおかわりするかな」
小春が言った。
「するんちゃう?」
陽太が答える。
「昨日、じゃがいももおかわりしてた」
「今日、何やっけ」
「知らん」
双子は給食の献立を思い出そうとしながら、外へ出た。
航平は二人を見送った。
「気ぃつけてなー」
「行ってきまーす」
卑弥呼も、航平の横から小さく頭を下げた。
双子はそれを知らないまま、並んで歩いていった。
*
航平は玄関を閉め、母へ短いメッセージを送った。
小春が給食費のことで気にしていたこと。封筒は見つかり、二人とも持っていったこと。
送り終えると、自分も靴を履いた。
卑弥呼が鞄のほうを見ている。
航平は制服のポケットを軽く叩いた。
「こっち。入ってるで」
卑弥呼が、ほっとした顔をした。
家を出たところで、スマートフォンが鳴った。
母からだった。
『ありがとう。夜、小春と話すわ。あんた朝ご飯食べた?』
航平は歩きながら打った。
『食べた。陽太に卵触られた』
すぐに返事が来た。
『すまんな』
航平は少し笑い、スマートフォンをしまった。
「お母様からですか」
「うん」
卑弥呼は前を向いた。
通学する生徒が二人、向こうから歩いてくる。
卑弥呼が、そっと航平の反対側へ回った。
航平はそれを見ながら、学校へ向かった。
朝の探し物は終わった。
あとは、せめて一時間目に眠らないようにしなければならなかった。




