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拾った卑弥呼は、ポンコツでした。  作者: もちむぎ


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第十九章 兄ちゃんの分

第十九章 兄ちゃんの分


 隣のクラスの迷路は、入口から暗かった。


 段ボールで作った壁が、人の背より高く並んでいる。


 航平は級友のあとへ入った。


 卑弥呼もついてきた。


「ここ、道が分かれるそうです」


 卑弥呼が言った。


 見れば分かった。


 航平は何も返さず、右へ曲がった。


 級友が先へ進み、すぐに戻ってきた。


「行き止まり」


 左へ行く。


 卑弥呼が航平のそばへ寄った。


 曲がり角の向こうから人が来ると、また少し身を引く。


 しばらく歩いたところで、航平は卑弥呼へ小さく尋ねた。


「出口、占える?」


 卑弥呼の顔が上がった。


「よろしいのですか」


「半々やったな」


「道が二つでしたら……」


 航平は分かれ道を見た。


 右、左、まっすぐ。


「三つあるで」


 卑弥呼も見た。


「……少し、お待ちください」


「三浦、こっちやと思う」


 級友に呼ばれ、航平はそのあとへ続いた。


 卑弥呼が袖を押さえてついてくる。


「お待ちいただけませんでした……」


 進んだ先は、また行き止まりだった。


 級友が壁を見て、それから航平を見た。


「ちゃうかった」


「見たら分かるわ」


 二人で笑った。


     *


 出口へたどり着くころには、思ったより時間が過ぎていた。


 廊下へ出ると、明るさに目が慣れるまで少しかかった。


「腹減ったな」


 級友が言った。


「さっき焼きそば作ってたのに」


「俺、まだ食べてへん。家族の見てただけ」


「ほな、何か食べよ。下、ワッフルやってる」


 航平は財布の中を確かめた。


 今日は使える分だけ入れてきていた。


 家の分とは別だった。


 階段を下り、ワッフルの看板が出ている教室へ入る。


 甘い匂いがした。


 級友はチョコレートのかかったものを選んだ。


 航平はメニューを見た。


 何もかけていないものと、クリームの乗ったものと、チョコレート。


 値段は少しずつ違う。


 双子へ持って帰るなら、小さく分けられるだろうか。


 そう考えかけて、航平はスマートフォンを出した。


 母からメッセージが来ていた。


『着いたで。二人とも楽しかった言うてる。あんたも何か食べときや』


 航平は画面を見て、財布へ目を戻した。


『ワッフル買う。小春らに持って帰ろか?』


 送ると、少しして返事が来た。


『それはあんたの分。二人は帰りにパン買うて食べてる』


 続けて、写真が届いた。


 陽太がパンを持ち、小春は袋から次の一つを出そうとしていた。


 航平は笑い、スマートフォンをしまった。


「決まった?」


 級友に聞かれ、航平はメニューへ顔を上げた。


「クリームのやつ」


     *


 ワッフルは焼きたてだった。


 紙皿を受け取り、空いている机へ座る。


 級友も向かいへ座った。


「お前、クリーム好きなん?」


「嫌いちゃうで」


「何か、いつも値段だけ見てるから」


「値段も見るわ」


 航平はプラスチックのフォークを取った。


 卑弥呼が横からのぞいていた。


 白いクリームと、焼き色のついた生地を見ている。


 航平は小さく一切れにした。


 口へ入れる。


 外側が少しさくっとして、温かかった。


 クリームが柔らかく溶けた。


「うま」


「な」


 級友がうなずいた。


 航平はもう一切れ食べた。


 家族の分を残しておく必要はなかった。


 食べ終わるまで、時計も見なかった。


     *


 級友が、同じ班の生徒の話をした。


 今朝、焼きそばの看板を上下逆に持ってきたらしい。


「字が逆やって言うたら、裏から見てるからやって」


「裏でも逆やろ」


「せやねん。本人、最後まで看板回してた」


 航平はフォークを置いて笑った。


 級友も笑いながら、チョコレートのついた紙皿を押さえた。


 卑弥呼は二人を見比べた。


 初めは不思議そうにしていたが、航平が笑うと、少し口元を緩めた。


 隣の机では、別の生徒たちが次にどこへ行くか相談している。


 廊下を誰かが走りかけ、先生に止められていた。


 航平は最後の一口を食べた。


「次、展示見よか」


 級友が立ち上がった。


「あと、どれくらいある?」


「二時からやろ。まだ回れる」


 航平は時計を見た。


 思っていたより時間があった。


     *


 次の教室には、絵と工作が並んでいた。


 級友は奥の展示へ進んだ。


 航平は紙で作った建物の前で立ち止まった。


 小さな窓が、きれいに切り抜かれている。


 机の上の双子のお守りを思い出した。


 角が少しずれていて、片側が開いていた。


 あれはあれで、ちゃんと箱へ入れておきたかった。


 卑弥呼が隣へ来た。


「よう、お作りになりましたね」


「うん。細かいな」


 航平が返事をすると、卑弥呼は別の工作も見た。


 しばらくして、小さく言った。


「今日は、よう笑われますね」


 航平は卑弥呼を見た。


「俺、いつも笑ってるやろ」


「はい。せやけど……」


 卑弥呼は言葉を探し、航平の顔へ目を戻した。


「お忙しそうなお顔では、ありませんので」


 航平は少し考えた。


 双子の帰る時間も、夕飯の支度も、今は父と母が引き受けてくれている。


 次の担当までは、好きなところを見ていてよかった。


「……今日、楽やな」


 航平が言うと、卑弥呼はうなずいた。


「それは、ようございました」


 奥から級友が呼んだ。


「三浦、こっち見て。めっちゃでかい亀おる」


「亀?」


「段ボールの」


 航平はそちらへ向かった。


 卑弥呼もついてきた。


     *


 二時前に教室へ戻った。


 焼きそばの注文は、まだ続いていた。


 航平は鞄を置き、片づけの係へ声をかけた。


「どこからしたらええ?」


「空き箱、先まとめよか」


「分かった」


 箱を畳み、決めた場所へ重ねる。


 机を拭いている級友が、ワッフルを食べたか聞いてきた。


「食べた。クリームの」


「ええなあ。俺、まだや」


「次、交代したら行ってきたら?」


 級友は時計を見た。


「せやな」


 航平は最後の箱を畳んだ。


 終わるころには、みんなで片づけなければならない。


 家へ帰ったら、明日の準備もある。


 それでも今日は、文化祭で働いただけではなかった。


 卑弥呼が机の横に立っていた。


 航平が顔を向けると、何か聞きたそうにしていた。


「何?」


「あの迷路の出口なのですが」


「まだ占ってたん?」


「東やったのでは、と……」


 航平は畳んだ箱を持ち上げた。


「出てから言うたら、何とでも言えるわ」


 卑弥呼は、少し笑った。

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