↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾った卑弥呼は、ポンコツでした。  作者: もちむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/20

第十七章 兄ちゃんへ

第十七章 兄ちゃんへ


 目を開けると、陽太が航平を見ていた。


 布団の横に座っている。


 小春もその後ろにいた。


「……何時?」


「お母さん、ご飯できたって」


 陽太が答えた。


 航平は時計を見た。


 寝坊したわけではなかった。


 体を起こすと、小春がすぐに近づいてきた。


「兄ちゃん、今日、先に机来て」


「着替えてからな」


「先に」


 陽太にも言われた。


 航平は髪を押さえ、立ち上がった。


     *


 机の上には、小さな箱があった。


 昨夜は気にも留めなかったものだった。


 その横に勾玉がある。


 卑弥呼は机のそばに立っていた。


 航平が来ると、少し目を上げた。


 すぐに双子へ視線を移した。


 航平も箱を見た。


「これ?」


「うん」


 小春が蓋を開けた。


 中から、折り紙と手紙を出す。


 陽太も手を伸ばした。


「こっち僕の」


 二人が同時に差し出してきた。


 航平は両手で受け取った。


「……何?」


「プレゼント」


「兄ちゃんに」


 小春と陽太が順番に答えた。


 航平は手紙を開いた。


 大きさの違う文字が、一つずつ並んでいた。


 にいちゃん、いつもありがとう。


 小春の手紙には、宿題を教えてくれてありがとうとあった。


 陽太の手紙には、ご飯を作ってくれてありがとうとあった。


 その下に三人の絵がある。


 いちばん大きい人が、航平らしかった。


 陽太の絵では、目の前に大きな皿が描かれている。


「……ありがとな」


 航平が言うと、二人とも笑った。


 小春が折り紙を指さした。


「これも」


 航平は手の中の折り紙を見た。


 小春のものは、二つの端が少しずれていた。


 陽太のものは、片側が開いている。


 どちらも、同じ形に折ろうとしたようだった。


「これ、何?」


「お守り!」


「元気になるやつ!」


 二人が一度に言った。


 航平は顔を上げた。


「ちょっと待って、一人ずつ」


「学校で折ったやつ、おうちでも作ってん」


 小春が言った。


「兄ちゃん、眠そうやから」


 陽太が続けた。


「お守りあったら、元気なるかもしれんやん」


 航平は二つの折り紙を見た。


 机の上には、勾玉があった。


 その横に、何も言わない卑弥呼がいる。


「ほな、大事にするわ」


 航平は折り紙と手紙を、箱へ戻した。


 陽太が少し身を乗り出した。


「持っていかへんの?」


「鞄入れたら、折れてまうやろ。ここ置いとく」


「もう折ってあるで」


「そういうことちゃうねん」


 航平が笑うと、小春も笑った。


     *


 台所へ行くと、母が弁当箱に蓋をしていた。


 父は双子の茶碗を食卓へ運んでいる。


「おはよう。もろた?」


 母に聞かれ、航平はうなずいた。


「手紙と、お守り」


「昨日、二人で作ってたんよ」


 小春と陽太が食卓へ座った。


 航平も座り、箸を取る。


「いただきます」


 卑弥呼は机のある部屋に残っていた。


 居間からは、その姿が少しだけ見えた。


 父が航平の隣へ座った。


「昨日、お母さんと話しててな」


 航平は顔を上げた。


「来月の勤務、早う帰る日を増やせるか相談してる。まだ決まってへんけど」


「うん」


「私も、夕方の時間変えられる日がないか聞いてるわ」


 母が言った。


「全部いっぺんには変わらへんけど、あんたが学校から急いで帰らんでええ日、増やしたいねん」


 航平は茶碗を置いた。


「別に、今も帰れるで」


「うん。帰ってくれてるのは分かってる」


 母が弁当箱を航平の鞄のそばへ置いた。


「それで助かってる。でも、毎日それでええとは思ってへんから」


 父もうなずいた。


「バイトの予定、今度、一緒に見よか。家のこと、どの日をこっちでできるか考えたい」


 航平は少し考えてから答えた。


「……分かった」


 小春が自分の茶碗を持ち上げた。


「私もお皿運ぶ」


「僕も」


 陽太が続ける。


「ほな、食べ終わったら頼むわ」


 父が言った。


 母は冷蔵庫の紙へ目を向けた。


「文化祭の日は、二人とも行けるようにしてるから。小春らは私らが連れて帰る」


「そうなん」


「うん。あんたも、友達と遊んどいで」


 航平は焼き魚を箸でほぐした。


 文化祭が終わったら、双子を連れて帰るつもりでいた。


 その時間が空く。


「……ほな、ほかのクラスも見られるな」


「そうし」


 母が笑った。


     *


 朝食を終えると、双子は約束どおり皿を運んだ。


 陽太は二枚重ねようとして、父に一枚ずつでいいと言われていた。


 航平は顔を洗い、制服へ着替えた。


 机の前へ戻る。


 小さな箱の蓋をもう一度開けた。


 二つのお守りが並んでいる。


 手紙の端を箱の中へ収め、蓋をした。


 卑弥呼はそばにいた。


 航平が箱を見る間、何も言わなかった。


 航平も、声をかけなかった。


 昨日の言葉を思い出すと、まだ少し胸が固くなった。


 それでも、昨日と同じように家へ置いていくかどうかは、考えなかった。


 机の上へ手を伸ばした。


 勾玉を拾い、制服のポケットへ入れる。


 卑弥呼の目が、航平の手元を追った。


 少し顔が上がる。


 航平は鞄を持ち、部屋を出た。


 卑弥呼も、黙ってついてきた。


     *


 玄関では、双子が靴を履いていた。


 陽太は新しい靴の面ファスナーを、しっかり押さえている。


 小春が航平を見た。


「お守り、なくさんといてな」


「机に置いたから大丈夫」


「箱、捨てたらあかんで」


「捨てへんよ」


 航平は靴を履いた。


 母が弁当を持ってきた。


「忘れてる」


「あ、ありがとう」


 受け取り、鞄へ入れる。


 双子が先に外へ出た。


「行ってきまーす!」


 航平も戸を開けた。


「行ってきます」


 背中へ、父と母の声が返ってきた。


 卑弥呼はその声に小さく頭を下げ、航平の横へ出た。


 小春と陽太は、少し先を並んで歩いている。


 航平は二人の姿を見ながら、鞄の持ち手を握り直した。


 横には、卑弥呼がいた。


 何も尋ねてこなかった。


 航平も、何も言わなかった。


 勾玉は、今日はポケットに入っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。