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拾った卑弥呼は、ポンコツでした。  作者: もちむぎ


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第十四章 まず電話してみましょうか

第十四章 まず電話してみましょうか


「買う前に、もう一回電話してみません?」


 航平が言うと、藤田さんは家の奥を見た。


「今、出るかなあ」


「出えへんかったら、あとでかけ直してもらえば」


「そうやね」


 藤田さんは少し考え、腕輪の載った紙を玄関の棚へ置いた。


「ちょっと待っててくれる?」


「はい」


 家の中へ入り、スマートフォンを持って戻ってきた。


 画面を押す指が止まる。


「何て聞こ」


 航平は藤田さんを見た。


「普通に、元気かって」


「この前も聞いたんよ。元気やって言うてた」


「ほな、今日何してるん、でも」


 藤田さんは小さくうなずき、画面を押した。


 航平は少し脇へ寄った。


 卑弥呼も同じように寄る。


 電話の向こうの声は聞こえなかった。


 藤田さんがスマートフォンを耳へ当てたまま、玄関の上がり口へ座った。


「あ、今ええ?」


 航平は視線を庭へ向けた。


 植木鉢が三つ並んでいる。


 その一つに、小さな花が咲いていた。


「何してたん?」


 藤田さんが尋ねた。


 返事を待つ。


「……まだ?」


 航平が顔を向けると、藤田さんは眉を上げていた。


「もう昼過ぎてるで」


 また、返事を待った。


 それから、肩が小さく揺れた。


「そうかあ。そら寝るわなあ」


 笑っていた。


     *


 電話は思ったより長くなった。


 藤田さんは、さっきから何度も笑っていた。


「もう、あんたも早う寝たらええのに」


 少し間があく。


「うん。うん。仕事のほうは?」


 航平は庭の花へ目を戻した。


 卑弥呼がそばへ顔を寄せた。


「お声、明るくなられましたね」


 航平はうなずいた。


 藤田さんがこちらを見て、片手を上げた。


「ほな、またな。うん、分かった」


 電話を切った。


「ごめんなあ、待たせて」


「いえ」


「今、起きたとこやって」


 藤田さんは、スマートフォンを膝へ置いた。


「子どもらと夜中までゲームして、三人とも寝坊したらしいわ」


「……そうなんですか」


「この前は、仕事で遅うなったあと、ご飯作って洗濯してたんやって。ちょうど座ったとこに、私が電話したらしい」


 藤田さんは自分の膝を撫でた。


「疲れてたんは、ほんまやったんやねえ」


 航平はうなずいた。


 ご飯を作り、洗濯をして、ようやく座ったとき。


 そこで元気いっぱいに喋れと言われても、困ることはある。


「気になることあったら言いや、とは言うといた」


 藤田さんは玄関の棚を見た。


 光沢のある紙が置かれている。


「腕輪、見てたことも言うたんよ」


「何て?」


「そんなん買うなら、こっち遊びにおいでって」


 藤田さんは笑った。


「交通費のほうに使うことにするわ」


     *


 航平が帰ろうとすると、藤田さんは玄関まで見送ってくれた。


「ありがとうな、話聞いてくれて」


「いえ。俺、ああいう石のことは分からんので」


「電話してよかったわ。昼ご飯どうするんて聞いたら、今から作る言うてた」


 藤田さんはスマートフォンを見た。


 画面に何か届いたらしかった。


「ほら、孫から写真」


 航平へ向けてくれる。


 皿の上に、焼いたパンが載っていた。


 端が少し焦げていた。


「これ、昼ご飯やって。上の子が焼いてるらしい」


「ええですね」


「お母さんには内緒で、先に焦げたとこ食べたって」


 藤田さんは笑いながら返信を打ち始めた。


 航平は頭を下げ、家へ向かった。


 卑弥呼も横で頭を下げてから、ついてきた。


     *


「買わずに済みましたね」


 卑弥呼が言った。


「うん」


「必ず幸せになるとは、ずいぶんな自信です」


 航平はポケットの勾玉へ手を触れた。


 ひとつだけなら、百円。


 写真の腕輪は一万九千八百円。


「……これにも開運って書いたら、高う売れるんかな」


 卑弥呼が足を止めかけた。


「航平さん」


「冗談や」


「今、そちらを触りながらおっしゃいました」


「石が入ってるからやん」


 卑弥呼はまだポケットを見ていた。


 航平は手を離した。


「売らへんて。それに、絶対幸せになるか分からへんしな」


 卑弥呼が顔を上げた。


「そうです。占い師でも、絶対とは申しません」


「体調のせいにはするけどな」


「体調は、大切ですので」


 卑弥呼は前を向いた。


 航平が笑うと、少しだけこちらを見た。


     *


 家へ戻ると、陽太が玄関へ来た。


「兄ちゃん、どこ行ってたん?」


「藤田さんとこ。タオル返しに」


「長かったな」


「ちょっと話しててん」


 靴を脱ぐと、小春も居間から顔を出した。


「藤田さん、おった?」


「おったで」


「昨日、お祭りで会わへんかったな」


「今度会うたら、お菓子取った話したら?」


 陽太がうなずいた。


「兄ちゃんが取ったって言う」


「うん」


 航平は部屋へ戻った。


 バイトへ行くまで、まだ少し時間があった。


 机の上の課題を開く。


 卑弥呼も横へ来た。


「こちらは、何をなさるのでしょう」


「勉強。分からんとこ残ってる」


 卑弥呼が問題集をのぞく。


 航平は鉛筆を持ち、昨日解いたところを読んだ。


 しばらくして、卑弥呼が小さく尋ねた。


「……占ってみましょうか」


「これ、四択やけど」


「四つから、お選びになるのですね」


 航平は問題集を少し自分のほうへ寄せた。


「俺は正解したいねん」


 卑弥呼の手が、袖の中へ戻った。

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