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拾った卑弥呼は、ポンコツでした。  作者: もちむぎ


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第十三章 開運にも値札

第十三章 開運にも値札


 翌日の昼、台所には焼きそばの匂いがしていた。


 母が大きなフライパンを動かし、父が皿を並べている。


 小春と陽太は、新しく買った靴を玄関で見比べていた。


 陽太が歩くたび、小春が後ろをついていく。


「外で試してきてええ?」


「ご飯食べてからな」


 母に言われ、二人が居間へ戻った。


 航平は、テレビの前で洗濯物を畳んでいた。


 卑弥呼もその横にいる。


 画面では、昔のお笑いのネタを集めた番組が流れていた。


 航平が陽太の靴下を裏返したとき、テレビから声が上がった。


「卑弥呼さまー!」


 卑弥呼が顔を上げた。


 長い髪を持ち上げた男が、画面に映っている。


 卑弥呼はテレビを見た。


 航平を見た。


 もう一度、テレビを見た。


「航平さん」


「ん?」


「なぜ、この方は私の名を連呼するのでしょう」


 航平は靴下を重ねた。


「そういうネタや」


「私、この方、存じ上げませんけど……」


「向こうもあんたに会うたことないわ」


 画面では、客席が笑っていた。


 卑弥呼の両手が、袖の中へ戻る。


「……お返事したほうが?」


「せんでええ」


 航平は笑いをこらえ、小春の服を畳んだ。


 卑弥呼は番組が次のネタへ移ってからも、しばらくテレビを見ていた。


     *


 焼きそばは、うまかった。


 小春も陽太もよく食べ、航平もおかわりした。


 洗い物を終えてから、母に頼まれた乾いたタオルを近所の家へ届けた。


 少し前、双子が外で遊んでいて泥だらけになったときに借りたものだった。


 借りたままになっていたのを、母が思い出したのだ。


 届け先は、三軒向こうの藤田さんの家だった。


 年配の女性で、双子を見るといつも声をかけてくれる。


 航平が呼び鈴を押すと、藤田さんはすぐに出てきた。


「まあ、航平くん。お休み?」


「今日は夕方からバイトです。これ、ありがとうございました」


「ああ、ええのに。わざわざ」


 藤田さんはタオルを受け取った。


 卑弥呼が航平の横から、小さく頭を下げる。


 藤田さんは気づかず、家の中へ向いた。


「お母さん、昨日喜んではったねえ」


「宝くじですか」


「うん。朝、会うたときに聞いたんよ。三万円、よかったねえ」


「助かります」


 航平が答えると、藤田さんは笑った。


 けれど、すぐに何か思い出したように眉を寄せた。


「航平くん、ちょっと聞いてもええ?」


「はい」


「若い子、こういうの詳しい?」


 藤田さんは玄関の棚から、一枚の紙を取った。


 光沢のある紙だった。


 真ん中に、丸い石をつないだ腕輪の写真が載っている。


     *


「これ、どう思う?」


 航平は差し出された紙を見た。


 大きく、開運と書かれていた。


 健康運、家庭運、金運。


 いくつもの言葉が、写真を囲んでいる。


 下のほうに価格があった。


 一万九千八百円。


 航平は、その数字をもう一度見た。


「……高いですね」


「そうなんよ。買おうか、迷うてて」


 卑弥呼も紙をのぞいていた。


「こちらの石で、運を……?」


 航平は返事をせず、説明を読んだ。


 持つ人を災いから守り、必ず幸せへ導く、とあった。


 卑弥呼が首を傾けた。


「必ず、でしょうか」


「何か、気になる?」


 藤田さんに聞かれ、航平は顔を上げた。


「あ、ここ。必ずって書いてるんで」


「ええことありそうやろ」


 藤田さんは腕輪の写真へ目を落とした。


 航平も見た。


 石の形はそろっていて、きれいだった。


 百円と言われた自分の勾玉を思い出した。


 こちらは一万九千八百円。


 差は、何なのだろう。


 卑弥呼が口を開いた。


「占いも、いつも当たるわけではございませんのに……」


 航平は紙を裏返した。


 申し込み方法と、購入した人の喜びの声が載っていた。


「藤田さん、これ、何かのために欲しいんですか」


「ん?」


「金運とか、健康とか。どれが気になって」


 藤田さんはすぐには答えなかった。


 紙の端を、指で撫でた。


「娘がねえ」


 航平は顔を上げた。


「この間、電話したら、疲れた声してて」


 藤田さんの娘は、離れた町で暮らしていた。


 子どもが二人いて、仕事もしていると、母から聞いたことがある。


「大丈夫って言うんやけど、親にはなかなか言わへんこともあるやろ」


「……はい」


「これ、離れてる家族も守ってくれるって」


 藤田さんが説明の一行を指さした。


 航平はその文字を見た。


 卑弥呼の視線は、紙から藤田さんの顔へ移っていた。


「本人に送ったら、そんなんいらんって怒りそうやし。私が持っとくだけでええなら、と思ってなあ」


 航平は、昨日の祭りを思い出した。


 神輿の上の神さんは、遊びたいと言っていた。


 卑弥呼は占いが半々だった。


 この腕輪には、何が入っているのだろう。


 紙を眺めても、そこは書いていなかった。


「娘さんとは、そのあと話しました?」


「ううん。忙しいやろし、何度もかけたら邪魔になるかと思って」


 藤田さんは笑おうとして、少し困った顔になった。


 航平は紙を返した。


「買う前に、もう一回電話してみません?」

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