第十二章 臨時収入や!
第十二章 臨時収入や!
母と合流してから、双子はたこ焼きを買ってもらった。
小春が一つ食べ、熱さに目を丸くする。
陽太はそれを見て、何度も息を吹きかけていた。
「航平も食べ」
母が容器を差し出した。
航平は一つもらった。
熱かった。
卑弥呼が横からのぞいていた。
「……そちらも、熱いのですね」
航平はうなずいた。
言葉にすると、口の中を見られそうだった。
祭りの通りを歩き、父とも合流した。
双子はまた、金魚すくいと射的の話を初めからした。
父が航平へ顔を向けた。
「金魚、連れて帰らんかったんやな」
「飼う相談してへんし」
「そうか」
父は双子へ、持って帰るなら先に家を用意しなければならないと話した。
小春も陽太も、うなずいて聞いている。
神さんの話は出なかった。
双子にとっては、兄が金魚を一匹すくい、射的でお菓子を取った日だった。
航平にとっては、五穀豊穣の神を接待した日だった。
誰にも言えないうえに、経費も出なかった。
*
帰宅すると、陽太は靴を脱ぎながら言った。
「来年は黒い金魚取る」
「先に水槽やで」
父に言われ、小春が振り返る。
「お城みたいなん入れてええ?」
「金魚が泳ぐとこなくなるほどは、あかんな」
双子はそのまま、水槽に入れるものの相談を始めた。
航平は鞄を置き、財布を机へ出した。
空なのは分かっていた。
けれど、一度開いた。
やはり空だった。
横に立つ卑弥呼が、そっと目を下げた。
「……申し訳ありません」
「神さんの分やろ。あんたに請求してもしゃあないわ」
航平は財布を閉じた。
机の上には、出かける前によけておいた金がある。
次の給料日までに使う分だった。
そこへ戻すものは、何も残らなかった。
「楽しかったそうです」
卑弥呼が言った。
「うん。それはよかった」
航平は椅子に座った。
膝の上で、両手を開いた。
「財布は軽なったけど、腕は疲れたな」
卑弥呼は返事をしなかった。
けれど、その口元が少し緩んだのは見えた。
*
「航平!」
居間から母の声がした。
航平は顔を上げた。
「何?」
「ちょっと来て!」
卑弥呼も顔を上げた。
航平はポケットの勾玉をそのままに、居間へ向かった。
母はテーブルの前に立っていた。
片手に紙を持ち、もう片方にスマートフォンを持っている。
双子が下からのぞいていた。
「臨時収入や!」
母が言った。
「宝くじ、三万円当たってる!」
航平は母を見た。
紙を見た。
もう一度、母を見た。
「……三万円?」
「三万円!」
父も台所から来た。
「ほんまか?」
「ほら、ここ。番号一緒やろ?」
母が券と画面を並べた。
父が顔を寄せる。
航平も横から見た。
母の指が、一つずつ数字を追った。
「あんた、お祭り行く前、今日はお金使う日やなあ言うてたやろ。帰ってきて、この券まだ確認してへんかったと思い出してん」
「いつ買うたん?」
「先月。買い物行ったとき、ちょっとだけ」
母はもう一度、番号を見た。
父も確認してから笑った。
「合うてるな」
「やろ!」
陽太が跳ねた。
「三万円って、いっぱい?」
「いっぱいやで」
母が答える。
「金魚のおうち買える?」
「それはまた相談」
小春が父の袖を引いた。
「お米も買える?」
「買えるで」
父が言うと、小春も笑った。
航平はテーブルの券を見ていた。
三万円。
今日、屋台で払った金より、ずっと多い。
卑弥呼がそっと航平へ顔を寄せた。
「……神様から、でしょうか」
航平は横を見た。
卑弥呼は母の手元を見つめていた。
祭りへ行く前から、券は家にあった。
当たっていることに気づいたのが、今だった。
神さんに聞けるわけでもない。
航平は小さく肩を上げた。
「どうやろな」
母が券を封筒へ入れた。
「なくしたら大変や。これはちゃんとしまっとこ」
小春が、その封筒をじっと見た。
航平と目が合う。
「……絵本には挟まへんで」
「頼むわ」
小春は笑い、陽太と一緒に父のところへ行った。
*
母は、もう一度封筒を確かめてから引き出しへ入れた。
「助かるわあ。靴、陽太の小さなってたしな」
「俺、明日休みやから、一緒に見に行けるで」
父が言った。
母がうなずく。
航平はその話を聞きながら、居間の入口に寄りかかった。
陽太の靴。
この間、履かせるときに、つま先を気にしていた。
買い替えられるならよかった。
米も買える。
母の声も、父の顔も、少し明るかった。
航平はポケットの上から勾玉を押さえた。
その横で、卑弥呼も家族を見ていた。
母が航平を振り返った。
「あんた、疲れたやろ。ありがとうな、二人連れてってくれて」
「うん」
「先、お風呂入ってええで」
航平はうなずき、部屋へ戻った。
机の上に、空の財布がある。
卑弥呼がそれを見た。
航平も見た。
さっき居間で喜んでいた三万円は、家のお金だった。
航平の財布へは、一枚も入っていない。
「……できれば、先に欲しかったわ」
ぽつりと言うと、卑弥呼が顔を上げた。
「何をでしょう」
「臨時収入」
航平は財布を机の端へ寄せた。
「焼きそば、食べ損ねた」
卑弥呼は少し眉を下げた。
居間から、母が呼んだ。
「航平、明日、何食べたい?」
航平は入口へ顔を向けた。
「焼きそば!」
「ほな、そうしよか!」
返事が来た。
航平は卑弥呼を見た。
「……明日、食えるわ」
卑弥呼は、今度は笑った。




