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9話 リモーネ

馬車で無事町までたどり着くと、俺たちは御者さんにお礼を言って降りる。町に入るとすぐにアリーチェは注目の的となった。

「リモーネ!」

「リモーネちゃん、今日はレモンを売りに来たのか?」

「あら、みんな。出迎えに来てくれるなんて嬉しいわ。そうよ、レモンを売りにきたの」

多くの男性に囲まれて、高価なはずのレモンが飛ぶように売れていく。

「......」

あまりにアリーチェの態度が変わったので絶句してしまったが、それより町の人からの呼び名が気になった。

「えっと...リモーネ、って君のことかい?」

「そうだ、名乗らなかったらそういうあだ名になったんだ。本当の名前は呼ばないでくれ、魔女だとバレる訳にはいかないからな」

アリーチェは小声で耳打ちすると、また町の人達に向かってにこにこと笑った。

「リモーネ?なんだ、その男は」

よく分からないが俺は町の男性達に睨まれる。なんだか良くない状況に思えるが、どうしたものだろう。

「...!その左手の指輪っ!リモーネ、結婚したのか?」

「け、結婚!?結婚なんてしてない!」

目聡い男性がアリーチェの左手の指輪を見つけ、狼狽した様子でアリーチェを問い詰める。それに対してアリーチェは女性らしい口調も忘れ、頬を赤く染めて否定した。そんな表情で答えても本当の否定と思われるはずもなく、男性はなおも言い募る。

「結婚じゃなかったら婚約か?」

「...こっ...!ち、ちが...」

アリーチェは真っ赤になって俯いてしまった。そんな彼女をみて男性達は絶望した顔になる。

「くそっ、そうか。こんな男前連れてこられたら俺らじゃ敵わないな...」

しょんぼりした顔の男性達はとぼとぼと去って行く。完全に勘違いされているのだがアリーチェはこれで良いのだろうか?

「アリーチェ、誤解を解かなくて良いのかい?」

「わっ、私は...。恋とか愛とか、そういう話が苦手なんだ。照れてしまって上手く話せなくなる」

意外に初心らしいアリーチェは赤く染った頬と涙で潤んだ瞳で俺を見上げてきた。そんな顔で見つめられると心臓に悪いのだけれど...。

「お前の分のレモンが余ってしまったな。そうだ、王族に果物を売っている果物屋があるんだ。そこで買ってもらおう」

「そうか。売れるあてがあって良かったよ。俺のせいでせっかくの収入がなくなったら申し訳ないからね」

「ふん。...お前の見た目だったらご婦人達が奪い合ってでも買っていくと思うが」

「アリーチェ?何か言ったかい?」

「いや、なんでもない。早く行くぞ」

何やらぼそぼそと独り言を言っていたアリーチェは怒ったようにそっぽを向くと、俺を置いて歩いていってしまう。

「俺は土地勘が無いんだから置いていかないでくれよ、アリーチェ」

「ぼーっとしている方が悪いんだ。ほら、そこの大きな果物屋。見えるだろう?あ、おばさん、お久しぶりです」

「まあ、リモーネじゃない。男達が騒いでいたわよ。婚約したんだって?泣いてる奴もいたくらいよ。」

「そんな...、ち、違...!」

「あの、勘違いですよ。俺たちは婚約なんてしてません」

赤くなって震えているアリーチェがあまりに可哀想なので、俺は誤解を解こうと会話に入る。

「そうなの?...あら、恥ずかしがらなくてもいいのよ。お揃いの指輪をしてるんだからわかるわよ」

「「.........」」

俺もアリーチェも無言になる。この指輪があるかぎり、婚約をしていないと言っても皆信じてくれないようだ。


ーー結局、レモンは全部売れたものの真っ赤になったアリーチェと無言で帰路についたのだった。

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