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8話 離れられない2人

古城に着いた時にはもう日が沈んでしまっていた。すぐに3人で夕食をとった後、アリーチェが今日収穫したレモンを見てから笑顔で言う。

「さて今日は疲れただろう、ゆっくり休んでくれ。リーナ、司教様」

「ああ、そうさせてもらうよ」

「部屋に行きましょう、アリーチェ」

「そうだな。おやすみ、司教様」

アリーチェが手を振ってからナタリーナと並んで去っていく。

そうして早々に俺も客室に戻り、眠りについたのだった。


そして、翌日。

「さて、このレモンを隣町まで売りに行くぞ」

アリーチェはバスケットを3つ並べてにこにこしながら宣言した。

「わざわざ隣町まで?3人で行くのかい?」

「いや、私1人で行ってくる。リーナが悪魔とバレる訳にはいかないしな」

アリーチェとナタリーナは何故だか互いに目配せすると、ナタリーナは頷いた。

「...そうですね」

「じゃあ、俺はどうなんだい?男手があった方がいいんじゃないのかい?」

「いや、私1人で大丈夫だ。司教様は城の礼拝堂にでも行ってみるといい」

「へえ?礼拝堂があるのか。さすがお城だね。わかった、俺は礼拝堂に行くから懺悔でもしたくなったら俺のところに来るといいよ」

「それは...遠慮しておこう」

アリーチェは苦笑いするとバスケットを1つ抱えて城を出ていった。

ナタリーナと古城に残され、痛いほどの静寂に支配される。俺沈黙に耐えかねて思い切って、その静寂をやぶることにした。

「ナタリーナ?アリーチェのことを教えてくれないかな」

「知りたいなら自分で聞くんだな、人間。お前と話す気はない」

「………そうか」

身も蓋もないほどの拒絶によって、会話をすることを断念した俺は城の礼拝堂へと1人移動する。

白い壁で統一された礼拝堂はあまり広くはなかったが、気持ちが引き締まる神々しさがあった。

そうして祭壇の前に行き、手を合わせた時だった。指輪から電流が走るような痛みが走り、俺は祭壇の前で倒れ伏す。

どれくらい経っただろう。暫くしてバスケットを抱えたアリーチェが慌ただしく礼拝堂に入ってきた。

「司教様!何なんだこの指輪はっ!って、おい。大丈夫か?」

「はは...。大丈夫だよ。アリーチェ、懺悔しに来た...って訳じゃなさそうだね?」

「冗談をいう余裕があるなら大丈夫そうだな」

アリーチェはほっとしたように息を吐くと、眉間に皺を寄せた。

「この指輪、司教様から一定の距離離れたら痛みが生じるような魔術がかかっているみたいなんだ」

「...この指輪に魔術が?」

「その様子だと本当に何も知らないみたいだな。まさか司教様にまで魔術が効いていたのは予想外だったが...」

アリーチェは目元を手で覆うと床に座り込む。そうして深く息を吐きだした。

「はあ...。これでは四六時中司教様と行動しなくてはならないじゃないか。困ったな、このままだとレモンを売りに行けなくなる」

「よく分からないけど、そういうことなら俺も隣町に一緒に行くよ」

アリーチェは暫く俺のことをじっと見ていたが、やがて肩を竦めて口を開く。

「...仕方ない、か。わかった。一緒に来てくれないか?司教様」

「喜んで。なら残りのバスケットは俺が持つよ」

「大丈夫か?肉体労働が得意なタイプにはどう見てもみえないが...」

それを言われると痛いところだ。もう少し頼りにしてもらいたいのだけれど。

「ああ、それもそうだね。だったらせめて1つはバスケットを持つよ」

「そうか。そうしてもらえると私も助かる。その...ありがとう」

「へえ?素直じゃない君がめずらしいね?」

「うるさいな、早く行くぞ!」

照れ隠しなのか怒ったような口調で、踵をかえすと早足で礼拝堂から出ていってしまう。仕方がないので俺は黙ってアリーチェの後を追った。


そして俺たちは2人でレモンの入ったバスケットを抱えながら暗い森の中を進む。

「アリーチェ、このまま隣町まで歩くのかい?」

「なんだ、そんな心配をしていたのか?大丈夫だ徒歩で進むのはあと少しだから」

「どういうことだい?」

「まあ、安心してくれ。もうすぐだから」

しばらく歩いて森を出ると開けた大きな道にでる。そうすると、アリーチェはバスケットを道に下ろして、太陽の位置を見ると頷いた。

「そろそろだな」

よく分からないままアリーチェの隣に立っていると、行商らしい荷物をたくさん詰んだ馬車が通りかかる。すると驚くべきことに御者に向かってアリーチェがウインクを飛ばし、その馬車は俺たちの前で止まった。

「御者さん、私達を隣町まで乗せてくれないかしら?」

「!?」

いつもと違う女性らしい口調のアリーチェに驚きを隠せずに、思わず彼女の顔を凝視してしまった。

「ああ、お嬢ちゃん。またレモンを売りに行くのかい?」

「ええ、そうなの。荷物も多くて申し訳ないのだけど、お願い出来ないかしら」

「はは、君みたいな美人の頼みなら断れないさ」

「あら、ありがとう」

相手は完璧にラテンのノリだ。驚いて固まっていると、アリーチェに肘で小突かれる。

「...何してるんだ、早く乗るぞ?」

「あ、ああ。わかったよ」

アリーチェが馬車の荷台に腰掛けたので、隣に俺も座ることにした。

「座ったかい?行くよ、お嬢ちゃんたち」

「ええ、お願いね」

「ははは、お嬢ちゃんの為なら喜んで」

こうして、俺が唖然としている内に馬車は隣町に向かって出発していた。

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