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7話 収穫

俺たち3人はレモンの木のあるところまで、段々畑の斜面を登っていく。そして目的地にたどり着くと、アリーチェが大きなバスケットを地面に下ろした。


「いいか?レモンは全部手摘みで収穫しているんだ。大仕事だから司教様がいるのは正直助かる。そうだ、レモンの木は棘があるから気をつけろよ?その...せっかく実ったレモンが傷付いたら困るからな」


そう言いながらバスケットの中に入っていたらしい、手袋を差し出してきた。行動から考えると、俺の手が傷付かないようにと気を使ってくれているらしい。

やはりアリーチェは少し天ノ弱な所があるようだ。しかし、言葉は乱暴でもちゃんと俺のことも気遣ってくれているのは行動から読み取れた。

「ああ、ありがとう。アリーチェ」

「何にやにやしてるんだ、お前は!」

どうやら微笑ましいなと思ったのが顔に出ていたらしく、怒ったアリーチェに上目遣いに睨まれる。

そこでナタリーナの怒った声がした。

「人間!私のアリーチェとイチャつくな!!」

「「イチャついてない!」」

ナタリーナの言葉に返事をしたのだが、ちょうど言葉が重なってしまった。アリーチェの方を見ると意外にも怒った様子はなく、頬を赤く染めていた。

「どうしたんですか、顔が赤いですよ。アリーチェ?」

「...………え?い、いや何でもないぞ?こほん。あのな、リーナ?私は司教様にレモンの収穫について教えているだけだ。変な勘違いはやめてくれ」

「そうだよ。俺だって足は引っ張りたくないからね」

「ふん、世間知らずの教皇に何ができるって言うんだ?」

俺はナタリーナにまた睨まれる。彼女と仲良くなれる気がしないのだけど、どうしたらいいのだろうか。

アリーチェも腕を組んで、眉間に皺を寄せているし、空気が重かった。

「だったらリーナ。お前が司教様にレモンのとり方を教えるか?」

「な…っ、そんなの嫌です。アリーチェ」

「そうだろう?ならば私が教えなければな。わかってくれるだろう、リーナ?」

「………アリーチェが決めたことなら、従います。」

こうして、空気の重い中アリーチェが俺にレモンの収穫方法を教えてくれることになったようだ。

「司教様、リーナは人嫌いなんだ。気を悪くしないでくれ。それでレモンの収穫方法だが、最初にレモンの実から少し離れた部分を切ってくれ。それからレモンのヘタのところで平らになるように切ってくれ。レモンが傷付かないように2回に分けて切って欲しいんだ。」

「わかったよ。こう、かな?」

俺が初めて切ったレモンを見せるとアリーチェは渋い顔をした。

「いや、うーん。もっと平らになるように切れないか?」

「平らに...」

「ちょっと待て!実まで切るつもりか!?」

アリーチェは慌てて俺のことを止めると嘆息する。

「はあ...。司教様は思った以上に箱入りのようだな。手本を見せるから見ていてくれ」

そう言うと慣れた手つきで実の付いた枝を切り、レモンのヘタぎりぎりに綺麗にカットして見せた。

「ありがとう、アリーチェ。うん、イメージは掴めたよ」

俺がもう一度枝をカットしてみせるとアリーチェはううん、と難しい顔をして唸る。

「そうだな...。まあ、及第点だ。司教様、くれぐれもレモンを傷付けないでくれよ?」

「...精一杯努力するよ」

「期待しているからな。じゃあ、リーナ、司教様。このバスケットの中に収穫したレモンを入れてくれ」

アリーチェは地面に置かれた3つ重ねてあったバスケットから2つを取ると、ナタリーナと俺に1つずつ渡した。両手で抱えてちょうどいいほどの大きなバスケットだ。


それから俺はレモンの木の鋭い棘に悪戦苦闘しつつも、少しずつ綺麗にレモンを収穫出来るようになっていった。

アリーチェはというと少しも無駄のない動きでレモンを収穫している。いわゆる熟練の技だ。鼻歌混じりに柔らかな笑顔でレモンを見つめる彼女は...綺麗だった。

ナタリーナもアリーチェほどでは無いがテキパキと作業をしている。

2人に負けてられないな、そう思って俺も作業に没頭した。




♢◆


「うん、そろそろ今日はいいだろう」

アリーチェの満足気な声が響いて、俺ははっと現実に引き戻される。

夕焼けに染まるレモン畑の青々とした葉が風に揺れていた。

「リーナも司教様もお疲れ様。司教様、どんどん上手くなって凄いじゃないか。...ちょっと待て、手を見せてみろ」

「手?そういえば痛いかな」

手袋を外すと出血まではしないものの無数の傷がついていた。手袋がなかったらと思うと恐ろしい。

アリーチェは真剣な眼差しで俺の目を見つめた。

「まったく...こんなになっても作業に没頭していたのか。司教様、思ったより真面目なんだな」

「思ったよりって。君は一言余計だよ」

俺が苦笑いして、そう言うとアリーチェは小声で呟いた。

「ありがとう、司教様。...いや、ロレン。たまになら、名前で呼んでやってもいい。たまにならな」

「アリーチェ...」

彼女の声はレモン畑の風に溶けて消えていく。でも、その声はちゃんと俺に届いた。

「さあ、2人共。城に帰ろうか」

夕焼けに照らされた3つの影が重なり合って見えた。

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