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3話 魔女様と“ローマ司教”

「ひとまず、自己紹介でもしようか」

「…………」

殺伐とした空気が流れるまま、俺は空元気が丸わかりの声で提案した。

“魔女様”は黙ったまま、またじっとりと俺を睨みつける。

更に、もう1人の赤髪の悪魔からは睨むなんて可愛いものじゃない、まるで射殺さんばかりの穴が空いてしまいそうな殺気のこもった視線を頂戴していた。

見目麗しい2人の女性から理不尽に睨みつけられ、泣きたいやら帰りたいやら。いや、女性と言っても相手は魔女と悪魔だが。

「…着いてこい」

やがて魔女様はため息を吐いて目を伏せると、背を向けて歩き出した。

どうやらどこかに案内してくれるつもりらしい。

「アリーチェ!こんな男を連れていく必要なんてありません!」

すかさず歩き出した主への抗議の声が上がった。

どうやら俺は相当嫌われているらしい。会ったばかりで話もしていないので、全く身に覚えがないのだけれど。

むしろ、一方的に殺されそうになった俺の方が抗議をしたいくらいだ。

「はぁ…仕方ないだろう、リーナ。この指輪が私に外せない以上、こいつに協力してもらうしかないだから」

凄く嫌そうな声で、ため息混じりに答える魔女様。

…というか俺はこいつ呼ばわりなのか。

「ですが…」

納得できないという様子だが、主には逆らえないらしく言葉を飲み込んで押し黙る。しかし、歩き出したはいいものの、移動中俺はずっと睨まれたままだった。

「…着いたぞ」

長い間黙ったまま歩き続けていた魔女様がちらりと振り返ると古びた城の門をくぐって、そのまま中に入っていった。

「え?魔女様?君、お姫様か何かだったのかい?」

「お、お姫様だと?馬鹿をいうな!私はもっと生産的だ!農家だからなっ」

まるで心外だとばっかりに農家と宣言すると、魔女様は何故か誇らしげに胸をはってみせた。

「…女の子って農家よりもお姫様って言われた方が喜ぶのかと思っていたんだけど。君は違うんだね?」

俺が小さく呟くと、魔女様は呆れたような目でこちらを見た。

「何がお姫様だ。城と言っても小さいし、手入れもされず放置されていたから魔法で私が手入れして保全してやっただけだ。た、ただの善意だぞ?別に最初は住もうとか考えてなくてだな…ただ、その。畑に近かったから…。こほん。質問についてだが、市民に税金を要求して生きている奴らより、こうして食べ物を育み提供している方がよっぽど世間のためじゃないか?まあ、農家だって金はとるが…」

薄暗い石造りの城の廊下を進みながら、責めた訳でもないのに魔女様はごにょごにょと言い訳を口にした。

どうやら勝手に城に住み着いていることについては、後ろめたく思っているらしい。


またそれからしばらく歩いて、城の中の居間にあたる場所に通された。そこには品の良いアンティークの椅子と机が置いてあり、俺と魔女様は向かい合わせに座る。

しかし、彼女はしばらく俺の顔を眺めると眉を寄せながら何か考え込む様子を見せた後、席を立って別の部屋に行ってしまう。

当然赤髪の少女も魔女様について行ってしまい、俺はしばらく居間に1人で残された。流石に放置は酷いんじゃないかと思っていると、突然目の前に飲み物が置かれ、俺は魔女様の行動を意外に思った。

「一応、客…だからな。飲み物くらい出してやる。…シャルバートだ。飲め」

「アリーチェ、こんな奴に飲み物をくれてやる必要なんて…」

「少し静かにしていてくれ、リーナ。話が進まない。おい、それは別に毒ではないから安心しろ。」

主に蔑ろにされたのが悔しいのか、歯噛みしながらまた赤髪の少女は俺に射殺しそうな視線を向ける作業に戻った。

「シャルバート…ってなんだい?」

「ああ、知らないのか。中東の方から伝わった、果汁にハチミツ、香辛料を混ぜたものだ。」

魔女様も同じものを飲んでいたので、恐る恐る少し飲んでみる。すると、甘い果汁にスパイスが効いていてとても美味しかった。

「美味しいね。飲んだことのない味で新鮮だよ。ありがとう、魔女様」

「ふ、ふん。口にあったなら良かっ…じゃない、私が作ったのだから当然だな」

…なんだろうか。セリフの割には、魔女様は嬉しそうで少し頬が紅く染まっている。女性にしては言葉使いが荒いが、性格が悪いようには見えない。少し素直じゃなさそうだけれど。

「おい、そのにやにやした顔をやめろっ!」

俺の何だか微笑ましいな、という気持ちが伝わったのか、魔女様はガタッと音を立てて立ち上がると真っ赤になった顔で抗議の声を上げた。

「いや、魔女様って意外と親切なんだなって思ってね?」

俺の言葉にはぁ、と深いため息を吐くとまた少し眉を寄せた。

「……アリーチェ。……アリーチェ・パヴァローロ。何時までも魔女様は止めろ。私にだってちゃんと名前があるんだからな」

正直名前は彼女の使い魔が何度も呼んでいたので分かってはいたけれど、本人から教えて貰えるとやはり嬉しいものだった。

「ああ、ありがとうアリーチェ」

「…それで?」

「え?」

「自己紹介しようとか言い出したのはお前だろう?さっさと名乗れ」

アリーチェは焦れたように言うと、また(しか)めっ面に戻った。

「ああ、ごめん。俺はロレンツォ・エウジェーニオ・オルランディ。ローマで司教をしているよ」

「長いな、ロレンで良いか。それにしても司教か…いや、待て。“()()()()()”と言ったか?」

ああ、エリオットもそうだけど、やっぱり皆して俺の名前を短縮するんだね。俺は心の中でため息を吐く。

「言ったけど、それがどうかしたかい?」

「いや、どうかしたかい?じゃないだろう!司教は司教でもローマ司教がどういう立場だか分かって言っているのか?」

はっ、と馬鹿を見るような目になったアリーチェが腕を組んで眉を(ひそ)める。

「どういう立場か知っているかって?当たり前だよ。俺はローマ司教、ローマ()()だ」

「……………」

アリーチェが無言のまま、自分の飲んでいたシャルバートのグラスを落とした。

少し間が空いてしまいましたが、出来るだけ2日に1度は更新できるようにしますので、読んでくださると嬉しいです。

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