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4話 敵討ち

「お、お前がローマ教皇だと!?…い、いや。馬鹿をいうな。絶対的な権力を持つはずの教皇がこんな片田舎に来るはずがないだろう!」

自分の故郷を片田舎と言い切り、勝ち誇った顔をするアリーチェが何だか可笑(おか)しく思えてしまう。

「まあ、確かに今は()()の教皇なんだよね。」

「…暫定?どういうことだ?」

「確かに俺は“教皇選挙(コンクラーベ)”で3分の2の表を得て、白い煙が焚かれた。そして教皇になるか、という問いにもSi(はい)と答えたよ、でもね」

俺は一旦言葉を区切って、“魔女様”…アリーチェを見つめた。

「な、なんだ?いきなり、私をじっと見て」

「君が殺した“前教皇”…俺の祖父なんだ」

しん、とただでさえ静かだった夜の古城の一室が更に静まり返る。

しばらく沈黙を守ったあとで、アリーチェは静かに口を開いた。

「そうか、それは悪いことをしたな。だが、あいつは…」

「そう、腐りきっていた。孫の俺から見てもね」

「孫のお前ですらそう思っていたのか…」

アリーチェは考え込む様子を見せると、静かに俺を見据えた。

「敵討ち、に来たのだろう?」

「そうなるかな。教会の思惑では、ね」

「どういうことだ?お前の意思ではないとでも?」

まるで不可解なものを見るような目をしながら、アリーチェは俺に問いかける。

「そうだよ。“俺個人”では君に復讐しようなんて露ほども思ってはいない。教会の腐った部分を排除してくれたと感謝しているくらいさ。ただ、教会側は君を(ゆる)さないだろうね。どんなに腐った人であろうと教皇であったことに違いはないのだから」

「…それで、孫のお前に前教皇殺しの魔女を排除させて一件落着、としたい訳か。孫のお前に直接手をくださせることでお涙頂戴にもなると?」


アリーチェは(あざけ)るような眼差しを俺に向けると、静かに席を立った。

「…殺せば良いだろう。お前が私の殺した前教皇の孫なら、大義名分はお前にある。今の私はこのよく分からない指輪の力のせいで魔法も(ろく)に使えない、無力な魔女だ。倒すのは容易(たやす)いぞ、お前にとって絶好の好機だろう?」

「アリーチェ…!!」

今まで沈黙を守っていた赤髪の悪魔が、魔女の前に走り寄り、両手を広げて護るように立ち塞がる。

「…リーナ?」

「失せろ、人間!アリーチェは殺させない!アリーチェ、貴女が自分を無力だと言うのなら、私が貴女を守る力になります!こんな教会の狗の人間に殺させたりしません!…貴女は、私の生きる理由なのですから」

彼女は俺のことを教会の狗と言ったが、彼女の姿こそ大切な主人を護る忠犬のように見えた。

「…アリーチェ」

「気安く呼ぶな、人間!!」

俺のことを精一杯睨みつけながら、ナイフを握る手に力を込める。けれど俺は静かに続けた。

「俺には君が死にたがっているように見えるよ」

「なっ…!人間、何を馬鹿なことをっ」

「ふふっ…そうか。そう見えるか?なるほど、血縁でありながら、あの男とは器が違うようだ」

「…アリーチェ?」

突然愉快そうに笑い声を上げる主を見て、使い魔は戸惑った表情を浮かべる。

「わかった、わかった。今のお前にはまだ私を殺す気はないのだろう?では、話の続きをするとしよう。けれど、後悔しないようにな。次に命を落とすのはお前になるかもしれないのだから」

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