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【連載版】竜の器と囚われの贄姫  作者: 神崎右京
第六章

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第68話 ファーストダンス (Side:シャロン)

 カルロたちから十分に距離を取り、間違ってもすれ違ったりしないようにしているうち、いつの間にか全ての貴族が入場し終えたようだった。


 夜会の開始は、主催――王家からの言葉で告げられる。

 歓談用の音楽が止まり、国王からありがたい言葉を賜る。


「建国以来、最大の危機――だが、我らならば必ずや乗り越えられると信じている。愛すべき祖国を守るため、我ら王家も、貴公らとともに今こそ一丸となり、国難に立ち向かうと誓おう!」


 王者に相応しい力強さで演説が締めくくられると、会場中に割れんばかりの拍手が響き渡る。

 大好きな兄を、国を脅かす存在として討伐する方針は、わかってはいても気分は良くない。王家を讃えるために過激な言葉が飛び交う会場から、逃げ出したい気持ちになるが、歯を食いしばって足を踏ん張った。


 今、ここに居るのは、アルヴィンを慕うか弱い妹ではない。

 国一番の肥沃な大地を治める、フロスト領の次期女当主だ。

 感情は切り分け、貴族としての務めを果たさねばならない。


 王が壇上を降り、歓声が落ち着くと、音楽が始まった。

 軽快なテンポの柔らかな音色は、”パートナー探し”の合図だ。


「さぁ、シャロン。ここからが本番だ。頑張っておいで」


 父が励ますように言って、背を押してくれる。

 音楽が鳴り止むまでの間に、私は、ファーストダンスを誰と踊るかを決めなければいけない。

 

「最後は、心に素直に――お前の幸せを、祈っているよ」

「お父様……」


 父は娘を案ずる言葉を最後に壁際へと下がっていく。

 常に隣で時に周囲を牽制していた大貴族『フロスト卿』がいなくなった途端、一斉に注目が私に向けられるのが分かった。


「シャロン・フロスト嬢」

「!」

「私と一曲、踊ってはいただけないだろうか」


 最初に声をかけてきたのは、アシュビー卿だった。どうやら、最初から私に声をかけるつもりで、王の演説の時からすぐそばに待機していたらしい。……マダム・ガードナーの指示だろうか。

 仏頂面の、寡黙な男。熊みたいに大柄な身体を折り曲げる仕草は、洗練された貴族の所作とは言い難いが、失礼はない。


 婚約者のいない令嬢のファーストダンスは、注目度が最も高い。現時点で一番有力候補と考えている相手を選んだとみられるのが普通だ。

 慎重に選ばなければいけないが、女性に選ぶ権利があるのは、複数の男性から同時に声を掛けられたときだけだ。

 このまま手を取るべきかどうか、悩む。


 もう少し待って他の男性から声がかかるのを待つか――でももし誰からも声がかからなかったら――


 逡巡は、一瞬だった。


「シャロン嬢! ファーストダンスは、ぜひ私と!」

「家格と年齢を考えても、私を選ぶことをお勧めしますが」

「あぁ、現世に舞い降りた美しい女神。その手を取る栄誉をどうかお与えください――!」


 横手から一斉に手を差し伸べられて、思わず一歩後退る。

 最初に父とあいさつ回りをした男たちを中心に、ずらりと視界いっぱいにダンスを申し込む手が差し伸べられていた。中には、声をかけた覚えのない男まで混じっている。

 全員、自分が選ばれたいと、鼻息荒くギラギラとした目でこちらを見つめていた。


「ぇっ……」


 予想していなかった展開に、心から戸惑う。

 こんな婚期を逃した令嬢に、これほど多く声がかかるなど、誰が予想するだろうか。


 見知らぬ男性は、怖い。

 つい、助けを求めるように視線で父を振り返ってしまうが、父は困ったような顔で苦笑するだけだった。


「っ……」


 父は、助けてくれない。――当たり前だ。ファーストダンスの相手すら自分で選べなくて、何が次期当主か。

 ごくりと唾を飲んでぎらつく男たちを視界に収める。

 震えそうになる手を押さえ込んで、深呼吸をした。


 頭の中に叩き込んだ貴族名鑑の情報と、目の前に並ぶ男たちの顔を一致させていく。

 ――最も、フロスト家にとって”利”となる相手は、誰なのか。


 早くしないと、音楽が終わってしまう。相手選びの曲が終わる前に男性の手を取って、ダンスフロアに行かなければいけないのに。


「そ……それでは……」


 一度唇を噛みしめ、私は意を決して――アシュビー卿を振り返る。

 寡黙な戦士上がりの新興貴族は、じっとこちらを見つめていた。

 

 これで、いい。

 これで――


 震える手を伸ばして、差し伸べられた大きな掌に重ねようとした、ときだった。


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