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営下暗流―静かに渦巻く憎悪の流れ

雨は三日間、断続的に降り続いた。

長江の水かさが増し、収容所の土塀の根元はぐずぐずと溶け、泥は人の足首まで呑み込む。鉄条網には雨粒が垂れ、風が吹くたび、冷たい水滴が捕虜たちの肩に落ちる。空はいつものように鉛色に重く垂れ、晴れ間など、この土地にはもう訪れないかのようだった。

雨のため、屋外の労働は一時停止になった。

捕虜たちは狭い木造の兵舎に押し込められ、湿った空気の中で黙り込んでいる。息をするたび、土と腐った藁、古い汗の臭いが鼻をつく。誰も大きな声を上げず、それぞれ自分の思いに閉じこもる。

森川雪は壁際に座り、膝を抱えて雨音を聞いていた。掌の傷は包帯の下で少しずつ癒えているが、心の奥のざわめきは収まらない。先日の負傷兵の手当てをきっかけに、同じ捕虜の中から冷たい視線を向けられるようになった。「裏切り者」と囁く声が、雨音の隙間から漏れてくる。同じ国の者からさえ、疑いの目を向けられる。

兵舎の外では、馬宝玶が雨に濡れた塀の陰で、腹心の兵士二人と低い声で話し合っていた。

雨が騒音を隠してくれる。南京で焼かれた町、路地に横たわった同胞の姿が、いまも彼の瞼の裏に鮮明に残っている。敵の捕虜、特にこの日本の女看護婦が、厳旅団長の庇護を受けていることが、彼には耐え難い屈辱に思えた。

「戦争の規則に従っていたら、仇は討てない。」馬宝玶は雨に濡れた頬を引きつらせ、低く呟いた。「この収容所の中で、夜を待って私的に始末する。上層に報告せず、全て事故として処理すればよい。」

側の兵士は黙って頷く。南京の惨劇を目撃した者たちにとって、復讐だけが心を支える拠り所になっていた。

馬宝玶は兵舎の方を一瞥し、瞳に暗い決意を宿した。時機をうかがうだけだ。雨が続き、監視が緩む夜を待てばよい。

厳硯秋は、馬宝玶たちの密談の気配を、薄く感じ取っていた。

旅団長として、捕虜の扱いには軍の規則を守らねばならない。私的な報復が起きれば、規律は一瞬で崩れ、無用な血がさらに流れる。南京で見た無秩序な殺戮の悪夢が、また蘇ってくる。彼はそれを二度と繰り返したくない。

夕方、雨が少し弱まったとき、厳硯秋は兵舎を巡視に来た。

扉を開けると、湿った空気が流れ出す。彼は部屋の中をゆっくり見渡し、最後に雪の姿を捉えた。

「同じ捕虜から、疎まれているのか。」

問いかけは柔らかく、雨音に紛れるほど低い。

雪は顔を上げ、静かに頷いた。

「私はただ、苦しむ人を救いたかっただけです。皇国の命令でも、敵への心変わりでもありません。」

「それでも人は、簡単には理解してくれない。」厳硯秋は雨に濡れた軍服の裾を軽く直した。「憎しみは戦場だけでなく、この収容所の隅にも潜んでいる。お前の身に危険が迫っている。気をつけろ。」

雪はその言葉に息を呑む。

敵兵である自分を、この若い将校が危険から守ろうとしている。理屈では説明できない重みが胸に落ちる。彼女は口を開こうとしたが、言葉が見つからず、ただ雨に濡れた窓の外を眺めるだけだった。

厳硯秋は長く留まらず、その場を去った。

兵舎を出ると、馬宝玶が遠くの柱の陰に立って、こちらをじっと見ていた。二人の視線が一瞬交わり、言葉なき対立が雨の中に漂う。厳硯秋は眉を少し寄せた。馬宝玶の復讐心が、もう抑えきれないほど膨らんでいるのだと悟った。

一方、戦線の奥にある日本軍司令部では、森川雪に関する報告書が重ねられていた。

「敵軍将校と私的に交信、同胞の治療を敵の面前で実施。叛心確実。」

書類の一行一行が、雪に対する罪を刻みつける。軍部の見解は固まっていた。万一生還したとしても、彼女はもう、故郷へ帰ることは許されない。

雪はこの事実を知らない。遠い故国で、自分が裏切り者として扱われていることなど思いもよらず、ただ雨音を聞きながら、戦争の重さを噛み締めていた。

夜が訪れ、雨はまた強まる。

収容所の中の誰もが、静かに嵐の予感を感じていた。憎しみが潜む暗闇は、もうすぐ動き出そうとしている。

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