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穢語と白骨―戦乱に穢された人の尊厳

収容所の夜は静かではない。

眠りに就こうとするたび、遠方から砲声が地鳴りのように伝わってくる。木棚の隙間を抜ける風が、鉄条網を擦って細い泣き声を立てる。寝苦しい夜が続き、誰も深い眠りに落ちることができない。

森川雪は板の上に横になり、掌の傷の疼きを感じながら目を閉じていた。厳硯秋から渡された包帯はしっかり傷を覆っている。薬の冷たさはすでに消えたが、あの時の矛盾した感触だけが胸に残っている。敵の将校からもらった薬で、自分の傷が癒えていく。この事実は、彼女の中にあった戦争の輪郭を少しずつ崩していく。

隣に寝ている日本兵たちは、夜になると故郷の話を囁き合う。

北海道の畑、九州の海、母の作る味噌汁。戦場で殺し、殺される毎日の裏に、誰もが穏やかな日常を持っていた。だが時折、皇軍の武勲を語り、敵を罵る声も混ざる。雪はその言葉を聞くたび、胸の奥で違和感が膨らむ。

自分たちが踏み込んだ土地で、どれほどの人が家を焼かれ、肉親を失ったのか。その真実を、軍は決して伝えようとはしない。

三日後、収容所の外から新しい捕虜が連れ込まれた。

負傷した兵士で、腹部に大きな傷を負っている。血が服に滲み、担架の上で苦しげに呻き続ける。収容所には医師が少なく、看護に当たれる者がいない。看守たちは戸惑い、厳硯秋に報告に走った。

厳硯秋が来たとき、空は灰色に曇っていた。

彼は傷の様子を一目見ると、すぐに雪の方へ視線を向けた。

「お前、看護婦だな。手伝え。」

命令というより、切実な頼みに近い声だった。

雪は一瞬ためらった。敵軍の負傷兵を看護すること。同じ皇軍の兵士の手当てをするということは、この収容所の他の捕虜たちから白眼視されることを意味する。だが傷ついた人の苦しみを見て、見て見ぬふりをすることはできなかった。彼女はゆっくり頷いた。

簡単な布と湯、残り少ない薬で処置を始める。

傷口はひどく化膿していた。雪は慣れた手つきで汚れを拭い、薬を塗り、包帯を巻いていく。呻き声が細くなり、兵士の呼吸が少し落ち着いていく。作業に没頭している間、周りの雑音は遠くなる。戦争も敵味方も、すべてが薄れ、目の前には苦しむ一人の人間だけが残る。

処置が終わった頃、周囲には数人の日本兵が黙って立っていた。

中には顔をしかめ、雪を非難するような目で睨む者もいる。「敵の前で同胞の手当てをするとは」、その視線にそんな言葉が滲んでいる。

雪は何も弁明せず、器具を片付ける。

厳硯秋はその様子を黙って見守っていた。

「よくやった。」短い一言だ。褒美ではなく、事実を認める言葉。

「人の命に敵も味方もない。だが、この道理を受け入れられない者も多い。気をつけろ。」

その言葉が、雪の心に深く刺さった。

これまで軍から教えられた「敵は悪、皇国は正しい」という単純な構図が、音を立てて崩れ始める。戦場で見た焼けた民家、泣き叫ぶ民衆、この収容所で見る人々の苦しみ。それらすべてが一つにつながり、彼女は戦争そのものの罪を知り始める。

木柵の陰では馬宝玶がこの一幕を見届けていた。

彼の唇はきつく結ばれ、瞳の中の憎しみが濃くなる。女の日本兵が、我々の将校の前で同胞を救う。厳硯秋はこの敵の少女を庇おうとしている。馬宝玶にとって、これは許しがたいことだ。南京で殺された同胞の血を思い、密かな計画をまた一歩進める。

一方、日本軍側では森川雪の行動が次々と報告されていた。

捕虜収容所で敵将と接触し、敵の前で同胞の治療を行った女看護婦。軍の参謀部の文書には、「叛意を固めた者」と記載が追加される。もし生きて戻ったとしても、軍法会議にかけられる運命にある。雪はそのことをまだ知らない。

日が暮れ、長江の水面が灰色に沈む。

雪は宿舎に戻り、板の上に座って遠くの雲を眺めた。

敵味方という札を剥がせば、誰もが戦争に引きずり出された哀れな人間に過ぎない。その思いが、彼女の心に静かに根を張っていく。

砲声が遠くから響き、夜がまた収容所を包み込む。嵐はまだ来ていないが、空気には緊迫の予感が漂っていた。

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