↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/85

━━━案件73 竜司郎とモリン 銅二級に昇級す━━━

 

「では、こちらの魔導契約書にサインをお願いしまッス」


 浄化場から帰ってきたモリンが、竜司郎がOS物流時代に使っていた伝票処理用のバインダーを差し出した。プラスチックのバインダーに挟まれた異世界言語で書かれた羊皮紙製の魔導契約書というは、竜司郎から見て何ともシュールな光景であった。


 当初の施行箇所は24か所で、それぞれ個別に契約書が存在していたが、イルゼの手によって、それらをまとめて一枚の契約書にまとめたので署名はまとめた契約書に一か所だけでいいのだ。


 水路ギルドの水路頭ロナルドと衛生組合の衛生頭バレフは、モリンとスキンシップを取りながらにこやかに署名していった。




「本当に助かったよ竜司郎くん、モリンくん。また困ったことがあったらよろしく頼むよ」


「西風団のみなさん、これを機会に我々とも良いお付き合いをお願いしますよ」




 ロナルドとバレフは、竜司郎とモリンと、西風団全員と丁寧に握手を交わした。


 水路ギルドと衛生組合にとっては、他ギルドに先んじて西風団と、竜司郎とモリンとの関係を深めることに成功した。


 そして西風団にとっては、ロナーシアの有力組織の重鎮たちとコネクションが形成できたわけで、ロナーシアの側溝清掃は、双方が金銭以外の価値を手にれた仕事となったのである。






「竜司郎さん」


 振り返るとマリーナがいた。誘導棒は腰帯に差し、僅かな魔力を溜めた掌をこちらに向けていた。『浄化』の魔法である。


「お願いしますマリーナさん」


 竜司郎は、三鑑定の儀のようにマリーナに向かい合うと直立不動の姿勢を取った。マリーナが軽く呼吸を整えて、キリリと表情を引き締めた。竜司郎とモリンが称賛して止まないマリーナの表情である。




「『浄化』」


 竜司郎に、魔法陣がふわりと被せられくるくると回り始めた。竜司郎とマリーナは目を合わせたままだ。


 くるくると回る魔法陣が足元に消えると、マリーナはキリリと引き締めた表情を崩してにこりと笑った。




「おっけ!」


 竜司郎とマリーナが掌を叩き合うと、後ろから元気な声が聞こえた。


「は~~い! マリーナ次あたし!」


 チャコとルークとマーカスが順番待ちをしていた。マリーナは順番に『浄化』をかけ、最後に自分にも『浄化』をかけようとしたところ……




「俺に、『浄化』をやらせてくれない?」


 竜司郎が言った。驚く西風団のメンバー。言った竜司郎自身も自分の行動に少し驚いていた。大仕事を無事に終えて精神が昂っているのだろうか。


「大丈夫? 竜司郎さん。この前みたいにならない?」


「大丈夫。ローファイン卿の所にいる時に練習したんだ。後半は結構暇だったからね」


「それじゃ、お願いします!」


 マリーナはクスリと笑って竜司郎を真似、直立不動の姿勢を取った。竜司郎のようにどこか鯱張ったようなぎこちなさの無い、お手本のような「気を付け」であった。




 竜司郎はマリーナを真似てキリリと表情を引き締めたつもりで真面目な顔を作ると、両掌に魔力を込めた。


 魔導重機や魔導車を展開する時のように、野放図に魔素を魔力に変換するのではなく、まず魔素を少し魔力に変換し、それを蛇口のようなイメージで操作して魔素を取り出しつつ、少しづつ魔力に変換していけば……




「『浄化』!」




 ヴンッという魔法の発生音とともに、魔法陣が形成された。いつぞやの膨大な魔力で生成された『浄化』の魔法陣ではなく、ごく一般的な魔力を帯びた魔法陣である。


 後方のチャコとルークとマーカスが「おぉ~」と小さく拍手した。彼らもマリーナから、竜司郎が魔力を持て余した話を聞いていたのだ。




(この魔法陣を……よっ……と!)




 竜司郎は不慣れな手つきながらも、自らが生成した魔法陣をマリーナにふわりと被せた。魔法陣は無事くるくると回り、マリーナの足元へ落ち始めた。心中でホッと胸をなでおろす竜司郎。


 竜司郎とマリーナは、揃って魔法陣の行く先を見つめ、足元に落ちた魔法陣が無事消散するのを見届けると、予め示し合わせていたかのように、両掌をパンッっと合わせて魔法の成功を祝った。




 周囲からも歓声と拍手が起こった。まだ残っていた見物人たちが、東方人のいい男とフィーズ教会の器量佳しに、冷やかし半分の声をかけた。


 竜司郎は照れくさそうに頭をかき、マリーナは堂々たる態度で彼らの歓声に手を上げて応えたのであった。






 ゴードンに何度も礼を述べ、竜司郎たちは、胸を張って冒険者ギルドに足を向けた。


 ただ、何故かゴードン隊長率いる警備隊は詰所に帰らず、当然のように西風団の後をついてきたのだ。不審に思って声を上げたのはモリンだった。




「ゴードン隊長? こっちに何か用でもあるんッスか?」




「さっきルークたちから面白いことを聞いてな。それでちょっと寄り道をしようってわけさ。なに、俺たちの仕事も、お前らの仕事と同時に終わってるから心配すんな」


 何処か含みのあるゴードンの物言いだが、”面白いこと”というのが悪い意味ではないことは、ゴードンと隊員たちの表情から見て取れた。


 後方で、竜司郎とモリンに仕掛けたサプライズに、西風団のメンバーが顔を見合わせながら笑っていた。先頭を歩く竜司郎は気づかなかった。






 冒険者ギルドに着いた西風団一行は、早速居合わせた冒険者たちに声をかけられた。


 何処からか知らないが、既に依頼完了の報告は届いていて、正面奥のフロントたちすら西風団を待ち構えているようであった。




「本当にあの依頼を全部終えたのか?」


「魔導車召喚士、おそるべし……」


「まだ一週間も経ってないぞ」


「24か所全部を……マジかよ……」




 ルークは満面のドヤ顔で彼らの声に応えながら、フロントへと向かった。


「依頼内容、全て完了しました。署名の確認をお願いします」


 差し出された魔導契約書を若手のフロント係が慌てて手元の逓信板に置く。逓信板は翠玉光に似た緑の光を発し、サインが本物であることを示した。




 魔導契約書の確認が済むと、後方からイルゼがトレイを運んできた。トレイには人数分の革袋が乗せてある。




「依頼達成ありがとうございました。こちらが報酬となります。ご確認ください」


 イルゼの口調は相変わらず冷静であったが、西風団に向けられた表情はいつもより幾分柔らかであった。




 相互信用のため、報酬をフロントスタッフの前で確認するのは冒険者ギルドの規則である。高額な報酬になると、安全のため別室での確認作業ともなるのだ。今回の側溝清掃ならば、カウンターでも十分な報酬額であった。




「……確かに依頼内容と相違ありません」


 マーカスが一同を代表して応え、それぞれに報酬を受け取った。


 竜司郎とモリンは、ずしりとした革袋をそれぞれの収納スペースに収納し、カウンターから立ち去ろうとしたが、それを西風団が囲むように引き留めた。




「こっからは、お前らが主役だぜ、リュウ、モリン」


 ルークが少年のような笑顔でずいっと、モリンが入ったトートバッグを担いだ竜司郎を、カウンターへと押し戻した。


 カウンターではイルゼが後方からフロント係の若手が持ってきた何やら豪華な赤い布を敷いたトレイを受け取っていた。赤い布の上には革袋が二つと、小さな箱が二つ置いてある。




「飛野竜司郎さん。聖獣モリンさん。お二人におかれましては、この度の依頼達成により貢献度が累積され、銅二級に昇級いたしました。……おめでとうございます」




 イルゼの言葉と微笑みに、竜司郎とモリンは目を見開いた。




 竜司郎とモリンの貢献度がこれほど一気に累積されたのには、それなりの理由があった。


 まず、側溝清掃の依頼は、冒険者の依頼受諾を促すため、一件ごとに貢献度が割り増しされていたこと。竜司郎はその側溝清掃の依頼を24か所全て受諾したこと。そしてイルゼと交渉して、まとめ受諾による報酬と貢献度の割り増しを勝ち取ったこと。


 その結果、竜司郎とモリンの貢献度は銅二級まで一気に蓄積されたのだった。




 イルゼから徽章を渡される竜司郎とモリン。


 彼らを囲んでいた西風団のメンバーから、その後方にいた冒険者たちから、そしてついてきたゴードン隊長と隊員たちから、そしてフロントスタッフたちからも、一斉に、祝福と、賞賛と、冷やかしが、沸き起こった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。