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━━━案件65 竜司郎 道路使用許可申請書を提出す━━━

閲覧ありがとうございます。意欲がわきます。


ブックマーク登録ありがとうございます。励みになります。




申し訳ありません。追加で挿入したいくつかの小話のため、側溝清掃の汚物描写はもうしばらく続きます。

 

 竜司郎が側溝清掃の依頼を全て受諾した翌日の夕方。


 朝から夕方にかけて、手分けして側溝清掃の現場回り、清掃現場のご近所さんに挨拶回りを終えた竜司郎とモリン、西風団の面々は、冒険者ギルドの半個室で側溝清掃の施工計画を立てていた。


 イルゼチーフから借りたロナーシアの町の地図をテーブルの中央に置き、同一縮尺の定規を当てながら清掃現場の巡回順を決めていくのだ。


 浄化場から3km内の清掃現場で、3tダンプが満タンになるように、近隣住民からの要望、時間帯別の道路事情を考慮しつつ、である。


 遠かったり、回り込んだりといった、巡回計画に組み込めさそうな清掃現場は、最後の巡回に組み込んだ。それで約3kmすべての依頼個所の清掃が完了できる。




 竜司郎とダンプが離れすぎると、折角モリンの中継スキルで広がったダンプの稼働範囲の利点を生かせない。遠い清掃現場でダンプが満タンになれば、竜司郎自らがダンプを駆って浄化場まで運ばなければならないのだ。


 前世界と違い、竜司郎が展開できるダンプは一台。実際問題、現場でダンプを一台しか回せないのはかなり痛い。購入もレンタルもできない異世界で、そのハンデを可能な限りなくすように計画するのが今回の竜司郎の腕の見せ所だ。


 そこで竜司郎は、満タンになったダンプが浄化場で汚泥を引き取ってもらっている間に、竜司郎たち現場チームは、浄化場から3km以内の次の現場に移動する、という段取りを計画に加えたのである。


 これなら、モリンの魔導車中継スキルの利点を活用しつつ、ダンプもバックホウも遊ばせずに現場を回せるはずだ。






「リュウ、この通りは日曜日は賑やかになる。やるなら平日だ」


「湾口に近いこことここの通りは昼間荷揚げの往来が多いので、夕方にしましょう」


「こっちは美味しいお店が多いから、ご飯時は避けたほうがいいね~~」


「ここはボンゴス親方の現場と近いから、挨拶しておいた方がいいかも」




 さすが勝手知ったるロナーシア気鋭の冒険者パーティーである。出てくる意見は竜司郎の計画を実に的確に補完し、修正していった。




「……こちらの通りは広いですが市場が近く、人通りは常に多いです。昨日拝見した”ダンプ”を通行させる時はお気を付けください」




 イルゼチーフが注文した飲み物を運んできてそのまま、西風団の側溝清掃施工計画会議に出席していた。彼女もまた、昨日の魔導車両お披露目で心を奪われたのだ。


 そして出来上がっていく施工計画を確認しながら、イルゼはふと、何か思いついたように眼鏡をクイっと直した。それが竜司郎豹変のきっかけだった。




「それと、僭越ですが、ここまで綿密に計画をお立てなったのなら、各方面の警備隊にも一言話をつけておいたほうがよろしいのではないでしょうか?」




 竜司郎はイルゼの提案を聞き終えたとたん、隣のモリンがビビッてマリーナに抱き着くほど急に、中腰になってイルゼの方に身を乗り出した。




「っそれです! イルゼさんっ! 書きたい書類があります! 思い出しながら書式を書くんで協力してください!」




 荒い紙に夢中でなにやら書き始めた竜司郎を見ながら、モリンと、西風団の面々はやや引き気味に体を傾げた。






 翌日。


 ルークとチャコは西風団の馬を使って、計画したダンプの運行計画通りに実際の道路を下見していた。


 マーカスは西壁区警備隊長のゴードンを起点に、ロナーシアの各警備隊長に側溝清掃の計画を提出し、協力を仰いでいた。


 そして竜司郎とモリンとマリーナは……






「……卿らか」


「お久しぶりです、ローファイン様」


 領邦治安官の館。三階の執務室でローファインと相対していた。ローファインは白いカップの茶を一口すすると、気難しそうな顔を竜司郎に向けた。


「卿の国では、三日ぶりを久しぶりというのか?」


「地方によっては」


 竜司郎は軽口半分の冗談だったが、ローファインには通用しなかった。ローファインはゆっくりと立ち上がり、右壁際の大きな本棚に向かうと”大晨帝国総覧”というタイトルの本の花切に指を引っかけて傾けた。


「大晨帝国の、どこの地方の事だ? 興味がある。教えてもらおう」


 ことさらに嫌味な風もなく、ローファインは淡々と竜司郎に視線を刺したままだ。竜司郎はあっさりと降伏した。


「……参りました」


「冗談はもう少し故郷を思い出してからにすることだ」


 そう言って席に戻ったローファインは、引き出しから小ぶりな砂時計を取り出して、机の前に置いた。




(マシウス先生の時より小さい砂時計ッスよ……!)


(たぶん、三十分用より二回りは小さいから、十分用の砂時計ね)




 モリンとマリーナの小声はローファインにも聞こえていたはずだが、ローファインは意に介さなかった。


「で、要件は? 卿も知っての通り、私も多忙な身でね」


「詳細はこちらに」


 竜司郎はローファインの多忙な身を案ずることなく、持ち込んだ書類を提出した。


 異世界奉行と咎人という立場であったが、現時点でローファインは竜司郎が出会った異世界人で、実は一、二を争うほどに相対した時間が長い人物である。


 先ほどの冗談は竜司郎の”迂闊さ”が原因で返り討ちに遭ったが、竜司郎としても、ローファインのこの程度の舌鋒なら、返り討ちは無理でも、躱し、往なすくらいは対応できるほど慣れていたのだ。




 竜司郎が提出したのはイルゼの協力のもとにフォーマットを作成した、異世界道路使用許可申請書であった。


 荒い紙を何枚も使って大元の一枚を完成させた後は、教会に帰り、マリーナと、マシウスと、ルミーナに手分けしてもらって、全ての工区の申請書を作成したのであった。




「……道路使用許可申請書?」




 ローファインは訝った。通常の工事であれば、提出されるのは”公道占用・施工許可”である。


 書式は違うが、竜司郎が提出したこの書類はそれに類するものとみていい。だがこの綿密さと詳細さはどういうことだ。




 占有目的は側溝清掃。施工区間は24か所。施工日時は許可が下りてから一週間。作業員は竜司郎とモリンと西風団。作業内容は魔導重機と魔導車両を使用した側溝の浚渫作業。


 竜司郎が、前世界の道路使用許可申請書の内容を思い出しながら大枠を書き出し、冒険者ギルドフロントチーフのイルゼと、フィーズ教会南支部総出で作成した渾身の力作である。


 側溝清掃の施行区間24か所全ての計画が個別にまとめられ、それぞれに詳細な現場作業状況を想定した人員と魔導車両の配置が記されていた。




 特にローファインの目を引いたのは添付された安全対策の書類である。




 通行人への安全対策として誘導員と作業帯の設置。歩行者、馬車の誘導方法から、仮設通路の設置。魔導トラックの運搬ルート。『浄化』魔法を利用した汚泥の飛散防止対策まで、飛野竜司郎を現場責任者として名を記載しているのだ。


 大規模な公共施設を建築するというのならば、ローファインも納得したであろう。だが、たかだか側溝清掃でここまでの書類を揃えて来た者を、ローファインは飛野竜司郎の他に知らない。




 無言で道路使用許可申請書を読み進めるローファインを見て、竜司郎は隣のマリーナとモリンに、勝利を確信した笑顔を向けた。マリーナとモリンも、タイミングを計ったように竜司郎に笑顔を向けた。


 そして二人と一匹は、同時にローファインの方を向き、書類作成の労が報われたのを知った。




 ローファインが落ち切る寸前の砂時計を、ひっくり返したのである。


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