━━━案件63 竜司郎 側溝清掃の依頼を受ける━━━
閲覧ありがとうございます。意欲がわきます。
今回、次回、竜司郎たちの側溝清掃業務にともなう汚物描写があります。
「どうだリュウ、次の仕事はお前が選んで仕切ってみないか?」
ルークは悪戯を思いついた少年の笑顔を浮かべた。元々は銅三級の竜司郎とモリンを冒険者として鍛える、という名目で、銀級の西風団は竜司郎とモリンとパーティーを組んでいるのだ。
竜司郎に仕事を選ばせ、仕切らせ、必要に応じてアドバイスして軌道修正するというのはOJTとしても、竜司郎の能力を測る意味でも有効と思われた。
「え? いきなり俺が?」
「いきなりじゃないだろ。ボンゴス親方救出の時、俺とモリンを仕切ったのはリュウだし、切通しの復旧作業も、あの仕切り屋のボンゴス親方が後方支援顔して見てるくらいにリュウが仕切ってたじゃないか」
「そうそう! あれだけ手馴れてる竜司郎さんだもん。いきなり任せても大丈夫よね兄さま」
マリーナが速攻で賛成する。少なくとも西風団に、竜司郎の能力を疑う者はいなさそうだった。
「いや、あれは、俺が魔導重機を扱うから便宜上そうなっただけで……」
「にしてもです、竜司郎さん。あなたの現場の仕切り方は実に堂に入ったものでした。現在、竜司郎さんの冒険者階級は銅三級ではありますが、私が思うに、竜司郎さんは欠けた記憶の中から無意識に、技術や経験を発露させているのではないでしょうか? そうでなければ、高度な魔法や、年齢にそぐわない豊富な知識や経験を身につけている理由が説明できません」
マーカスの発言と表情は、早口な以外は至って真面目なものであった。ルークのように14歳という若さで冒険者デビューした例もある。
同様に竜司郎も若い頃から様々な現場を経てきて、魔導車スキルや現場指揮スキルを身につけて来たのではないだろうか。マーカスはそう結論付けていた。
「……う、う~~ん、よく思い出せないけど、マーカスの言うことも一理あるかもなぁ……」
竜司郎は曖昧に首をかしげた。
令和の地球から訂正してきた実年齢が32歳のおっさんで、土木業界と物流業界を7年づつ経験しています、とは言えない。
実は竜司郎は、領邦治安官に身柄を拘束されているときに、部屋にあった本から転生者に関する記述を調べてみたのだった。
この世界での転生者の前例、あるいは似たような境遇の者がどのように扱われたかを知れば、記憶喪失という設定にもある程度方向付けができると思ったからだった。
転生者に寛容ならば、信頼と実績を勝ち取ってから折を見て話せばいいし、転生者を異物として迫害するというのならば、疑惑のタネを蒔かぬように心がけつつ、墓場まで持っていくしかない。
……貴人室の書籍を調べた結果は空振り。転生者だの転移者だのと言った事柄に関する書籍は、少なくともあの貴人室には置いていなかった。
時間を作って図書館や知識階級にそのあたりの情報を求めるべきか。
とはいうものの、平民が気軽にアクセスできる図書館や知識階級から、転生者や転移者といった国家的重要人物の逸話が引き出せるかどうかというと、確率は甚だ低いものになるのではないか。
身分制度が確立しているこの世界で、相応の知識にアクセスするためには、やはり相応の実績が必要となるであろう。
「大丈夫ッスよ御主人。私もしっかりサポートしますから頑張りましょうよ!」
「頑張ろうね~~もりっち~~!」
「「ね~~!」」
モリンはチャコの膝の上から、チャコを味方に竜司郎を焚きつけた。竜司郎は「わかったわかった」と、両手を上げた。これも実績を稼ぐ一歩か。
竜司郎は席を立つと、カウンターの若いスタッフに声をかけ、イルゼチーフを半個室に呼んでもらい、そのまま銅級依頼が貼ってある掲示板から、一束ににまとめられた依頼書を持ってきた。
何度か冒険者ギルドに顔を出した時、一か所だけ、依頼が束になっているのが目につき、気になっていたのだ。竜司郎が身柄を拘束され、解放されてもまだ束は残っていることからみても、相当不人気な依頼のようであった。
それは領都ロナーシア各所の、側溝清掃の依頼であった。
現在アンセル伯爵領は、ローファインが提唱した近隣領主との治安維持連携案によって、犯罪者、賊徒が駆逐され激減し、アンセル伯爵領とその周辺領は大いに活気づいていた。
それ自体は喜ばしい出来事であるのだが、その活気に誘われて、領都ロナーシアは、居住を希望する者、仕事を求めて来る者で人口が増加し、人口増加からくる都市インフラの圧迫が問題になっていた。
生活排水問題もその一つである。水源はロナ川の豊富な水で確保できるものの、生活排水による下水路の機能不全が目に見えて増加しており、水路ギルドも手を焼いているのだという。
通常ならば側溝の清掃業務も、上水路、下水路の本管、支管のメンテナンス業務の合間に、水路ギルドの構成員が処理できていた業務のひとつであるのだ。
だが現在、水路ギルドの水路技師たちは、人口増加に伴う水路の酷使からくるメンテナンス業務に掛かりきりになっている状態である。
よって配管技術を必要としない側溝の清掃業務を、こうして冒険者ギルドに業務を振り分けてきたというわけだった。
しかし、依頼された業務は遅々として進んでいなかった。
業務の手順としては、生活排水の増加で溜まった側溝の廃物を集積し、町のはずれにある浄化場まで運搬する、という流れである。当然汚物を扱うし、報酬もそこまで期待できない。
生活魔法『浄化』の魔法を駆使するにしても、溜まった汚物をそのまま浄化するには、少なくとも『浄化』を二段は『強化』しなければならず、二段も『強化』しながら側溝を『浄化』していくのは実に魔法効率が悪い。
そして『浄化』を二段『強化』してもなお魔法効率を黒字化できるレベルの冒険者は、そもそもこの手の”きつい、きたない、きゅうりょうがやすい、3K仕事”には手を出さない。
さらに面倒な事には、汚物を浄化しても、堆積した泥やゴミは、結局スコップや鍬や鋤を使った手作業で撤去しなければならないのだ。
つまり、冒険者にとってははなはだ”美味しくない仕事”なのである。
冒険者ギルド、水路ギルドもその点は理解しているようで、依頼範囲を細分化して少しでも達成できるよう工面したり、所謂”美味しい仕事”と抱き合わせたり、貢献度を割り増ししたりと、あの手この手を使って依頼達成に手を尽くしていた。
……尽くしていたが、この依頼束なのである。現在、未処理区間の総延長は約3km。
仕事にあぶれた銅級冒険者や、抱き合わせで美味しい仕事と共に依頼を受けた冒険者で、ぽつぽつと依頼は達成されているのだが、人口増加にともなう生活廃物の集積は、依頼が達成された傍から新たな依頼が舞い込むという悪循環であった。
竜司郎は大森建設時代、今回の側溝の清掃業務に近い、農業用水路の浚渫作業に従事したことがあった。それを応用してこの依頼を達成できないかと考えたのである。
「……なるほど、バックホウを使ってダンプに側溝の廃物をジャンジャン乗せて運ぼうってことか」
竜司郎の説明を聞いたルークが納得したように大きく頷いた。竜司郎の考えた人員配置は、竜司郎がバックホウオペレーター、ルークがダンプ運転、マリーナとチャコは交通誘導員、そしてマーカスは周囲にこぼれた汚物の『浄化』役である。
「御主人、私の業務は?」
「モリンはマーカスと組んで『浄化』のフォローと側溝の木蓋を開け閉めしてくれ」
「はいッサー御主人!」
「それと、お前が追加スキルで手に入れた、俺とダンプスキルの”中継”役だ。浄化場まではだいたい3kmある。俺の代理としてダンプに乗ってくれれば、俺のスキル保持範囲外までダンプの運転範囲を拡張できるだろ? そいつも頼みたい」
「ルークさんとコンビで運転ッスね。お任せください御主人!」
竜司郎がそこまで説明したところに、イルゼチーフがやってきた。竜司郎は先ほど依頼掲示板から持ってきた依頼束をイルゼに差し出した。
「イルゼさん、これ、俺たちで全部やるんで、報酬と貢献度を割り増ししてもらえませんか?」
イルゼはわずかにのけぞるように驚いて目を見開き、驚きを鎮めるように眼鏡をクイっと直した。




