表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/64

━━━案件56 聖獣モリン ローズウッド父娘と走る━━━

 

 領都ロナーシアの大通り。行きかう人々は一様に驚きの表情で”彼ら”を目で追った。


 現在のロナーシアで最先端の話題を独占する、魔導二輪車と、聖獣モリンと、ローズウッド父娘である。


 その話題のタネが一体となって、魔導バイクで大通りを走り回っているのだ。噂と話題にさらなる尾ひれが飾られるのも時間の問題といえた。




 魔導バイクのサブコックピットにマウントされたスマホには、竜司郎のドアップが映し出されていた。


「……お前コレ完全に、ながらスマホじゃねえか!」


「大丈夫ッスよ御主人。今はマリーナさんが運転してますから」


 御主人のツッコミに、モリンは先日の泣き顔を正反対にしたようなニコニコ顔で応答した。


 マシウスからローファインは峻厳ではあるが悪逆でないとの情報を得、事実こうして、スマホを経由して定期的に竜司郎の無事が確認できているモリンは、ご機嫌で魔導バイクにローズウッド父娘を乗せていた。




 モリンとマリーナとマシウスが魔導二輪車と一体となって走り回っていられるのは、モリンがサイドカータイプの魔導バイクを展開してるからである。


 燃料タンク部分に展開されたサブコックピットには魔導バイクの主モリン、運転はマリーナ、マシウスはサイドカーに搭乗していた。


 サイドカーは先日モリンの二輪スキルに追加された新スキルである。魔導オフロードバイクと同様の武骨な形状を踏襲しつつ、右側に190cmを超えるマシウスの体格に合わせた大型のサイドカーが展開されていた。


 大型サイドカーが追加されたことで、スチームパンク風の武骨なシルエットに、前世界の大戦中に使用された、軍用サイドカーを彷彿とさせる印象が加えられたのだ。


 チート狸が手に入れた新型魔導バイクは、剣と魔法と神が存在するこの世界の風景に、不思議な一体感で溶け込んでいた。


 モリンは、ローズウッド一家と西風団という味方を得て、この新型魔導サイドカーを駆って、御主人飛野竜司郎の情状酌量の材料を集めているのだった。




「大丈夫よ竜司郎さん。町の中だもの。街道みたいにかっ飛ばしたりしてないから!」


「いや、そういう問題じゃなくてですねマリーナさん……」


 竜司郎は困惑したが、あまり強くも言えない。何しろ自分を助けるために、彼女は動いてくれているのだから。




「なかなか快適ですよ、モリンさんの魔導二輪車は」


 画面の外からマシウスの声がした。落ち着いた声の中に、どこか楽しんでいるようなリズミカルな響きがあった。


「いや、御面倒をおかけしますマシウス先生」


「お気になさらずに竜司郎さん。ところでローファイン卿の事情聴取はいかがですか? そろそろ彼も追求するネタが尽きてきた頃かと思うのですが」


「お察しの通り、ここ数日は尋問より雑談の方が多い感じですね」


 マシウスは、ローファインらしい、と心で呟き、落ち着いた声を少し低くした。




「……彼は、法律の専門家という自負と、領邦治安官の立場と、峻厳な自らの気質によって、法を破った竜司郎さんを拘束せざるを得なかったのです」


「……」


「ですが、ローファイン卿は自らのそれらも承知で竜司郎さんを拘束し、同時に拳を降ろすための手を打っています」


「どういうこと? お父さん」


「彼が敢えて、竜司郎さんと、西風団とマリーナがいるタイミングを見計らって同行を求めたのはそういう理由です」


 ローファインは敢えて衆人環視の中で竜司郎を捕縛することで、結果、周囲の人間を動かし、領邦治安官では集めきれなかった情状酌量の材料を集めさせるよう仕向けたのだ。




「それじゃあマシウス先生、私たちは使いっ走りってことッスか?」


「ありていに言うとそうなりますねモリンさん。私たちは竜司郎さんだけでなく、ローファイン卿のためにも証言と証拠と署名を集めていることになります」


 分かりやすくふくれっ面をするモリン。マリーナも納得いかなげな表情だ。


「そんな回りくどいことしなくても、最初から御主人を逮捕しなけりゃいいじゃないッスか! 御主人も私も、親方を助けるために頑張ったんス! 悪いことをしに町に入ったわけじゃないッスよ!」


 マリーナは進行方向に注視しつつ、モリンの訴えに真面目な顔で頷く。マリーナだけではなく、あの場所に居合わせた西風団のメンバー、ボンゴスファミリーの職人徒弟たちも、同じ心境であろう。


「それが出来ないのが、ローファイン卿のローファイン卿たる所以なのです」


 困った人なのですよ、とマシウスは表情でモリンに語った。


「……ですからモリンさん。私たちは今、御二方が悪いことをしに町に入ったわけではない証明を集めているのです」







 マシウスのが目指す着地点は「情状請願」による竜司郎の減刑であった。


 竜司郎は、理由はどうあれ皇国法に背いたことは間違いない。ここは揺るがない事実であり”石頭”ローファインも決して譲らない点である。


 ローファインに対して奇手や搦手は逆効果である。ならば潔く法的な正攻法で、竜司郎の罪を減じる方向で動くのが最善手である、とマシウスは判断したのである。




 情状請願の本文は、マシウスがしたためた。


 それをこの半月で広がった竜司郎の友人知己に精読してもらい、納得してもらったうえで、彼らの証言と、署名を貰う。


 情状請願は皇国法に定められた正式な手続き。それに付帯する証言と署名も、正式な手続きだ。法に立脚したローファインの立場は、それを無視することはできない。




 正式な情状請願に付帯する証言と署名は、魔導契約書に記される。


 魔導契約書に記されることで、証言と署名が、本人が本人の意思で記したと、魔法的な裏付けとして証明される。


 同時に、魔導契約書は法的な拘束力も持ち、記載者は情状請願者と同様に責任を負う。


 そして、剣と魔法と”神”が存在するこの世界では、魔導契約書への記載は、神前での誓約に等しい意味を持つ。


 そうして竜司郎が”違法行為”に至った経緯の、異なる立場の者たちの多角的な証言と署名が提出されれば、ローファインに情状酌量の余地を一考せしめ、竜司郎の魔導車召喚を、単なる違法行為として断ずることはできないはずだ。




(……ですが、今までのローファイン卿なら、私たちをけしかけるようなことはせず、淡々と、竜司郎さんを裁いて終わっていたことでしょう)


 マシウスは、ローファインの微妙な心境の変化を感じ取っていた。


(竜司郎さんの情報を得ることで、何か思うところでもあったのでしょう。何しろ竜司郎さんは、ローファイン卿が、おそらく初めて出会うであろうタイプの人間ですからね)


 飛野竜司郎の為人を知って、ローファインは気難しげな表情をどのように変化させたのだろうか。


 マシウスはいつになく楽しげだった。何しろ飛野竜司郎は、マシウスにとっても、今まで出会ったことのない人間であったからだ。


 飛野竜司郎という希少な存在が、ローファインの”石頭”を揺らし、マシウスの周辺にも心地よい賑やかさをもたらしている。それはマシウスにとってはもちろん、ローファインにとっても歓迎すべき変化ではないだろうか。




「さあ、今日はいよいよボンゴス親方の証言と署名を貰いにいきますよモリンさん」


「お任せくださいマシウス先生! ……で、親方の現場はどこでしたっけ?」


「今日は北壁門入り口の修繕工事でしょ、モリンくん」


「えへへ……そうでしたマリーナさん!」


 マリーナは少しだけスロットルを回した。魔導サイドカーから軽快な魔力音が返ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ