━━━案件50 竜司郎とモリン 新スキルが解放される━━━
アルドとノルドが復帰し、竜司郎に官憲の手が伸びようとしていたその日の夜。
ボンゴス親方の主催する北街道開通祝い&アルド&ノルド復帰祝いで大いに飲み食いした一人と一匹は、無事依頼を終えた充足感と安堵と、ボンゴスファミリーの深情けに悪酔いする前に、教会の宿舎へと帰宅した。
名残惜し気なボンゴスに、竜司郎とモリン、職長たちと徒弟たち、そして西風団のメンバーは、明日も通常業務であることを、子供をあやすように繰り返し言って聞かせて、ボンゴスファミリーはようやく解散できたのだった。
教会門前でマリーナに就寝の挨拶をして別れ、倉庫二階の宿舎の扉を閉めた丁度その時、竜司郎とモリンの耳元に、聞き慣れたメールの着信音が鳴り響いた。
竜司郎とモリンはベッドに腰かけると、各々の収納スペースから、黙ってタブレットとスマホを取り出した。異世界に転生した彼らにメールを送ってくる相手は一人(一神)しかいないのだ。
『はろぉ~! 竜司郎クン、モリンクン、異世界に転生して早々大活躍だったそうじゃない? 転生を手助けした私も鼻高々よ!』
女神さまの相変わらずのテンションに竜司郎とモリンは半目になった。
「ったく、人の気も知らないで……」
「まぁまぁ御主人、文面はともかく、こうして私たちをサポートしてくれてるわけっスから……」
ボンゴス親方に勧められるままに飲み食いしたモリンは、いつもより丸々とした体をベッドの手すりによりかかららせた。
『そちらの女神さまとの協定でね、私ももうしばらくはキミたちのサポートを担当できるから、大いに安心してくれたまえ!』
(いや、確かにサポートしてくれてるんだろうけどさ……)
(言いたいことは分かりまスよ。フツーにサポートしてほしいんスよね……)
転生先といい、アイテムの異世界仕様変更といい、スキルの選択といい、何をやるにもどこかに一捻りある女神さまのサポートに対応するのは色々な意味で力がいるのだ。
『そんなわけで、キミたちが早速に積み上げた載徳ポイントとスキルポイントが、一定数に達したそうで、いくつかスキルが解放されたそうだよ! 後ほど端末のスキル管理アプリを開いて確認してくれたまえ!』
「「おお! スキル開放!?」」
竜司郎とモリンは声を揃えて喜色もあらわに身を乗り出した。現金なものである。
『こんな感じで、実際の経験や努力以外にも、キミたちが行動することで溜まるポイントがキミたちをより強く逞しくしてくれるから、今後も大いに頑張ってくれたまえ! それじゃ! シーユーアゲぃン!』
女神さまのメールを読み終えて、スン、と我に返る一人と一匹。
「……まさにお釈迦様の掌の上って感じっスね私たち」
スキル開放という御褒美にまんまと乗せられた自らを省みたモリンが嘆息した。
「こんな文面送ってくるといっても、相手は曲がりなりにも神様だからな。俺ら人間とタヌキじゃどうしたって勝てねえよ……」
竜司郎もまんまと掌で転がされ、喜んで身を乗り出した自らを省みて、改めて自分が小市民であることを痛感したのだった。
「そんなことより、どんなスキルが解放されたのか、見てみようぜ!」
「はいッサー! いや~~、楽しみッスねぇ新スキル!」
楽し気にタブレットとスマホをポチポチする一人と一匹。寝る前のながらスマホを楽しむ聖者候補と聖獣が、名実ともに聖者と聖獣になる日は遠そうであった。
翌日。アンセル伯爵領、領都ロナーシア。
ロナ川南通りの事故現場で、竜司郎は魔導バックホウを操縦していた。西風団と、ボンゴスファミリーの面々に、バケットの代わりに換装したフォークグラブの操作を実演説明するためである。
フォークグラブは前日の女神さまのメールマガジンで知らされた、解放された追加スキルの一つであった。
前世界のバックホウなら、バケットとアームをつなぐ二本のピンを、ハンマーやバールを使って手動で抜き、換装するバケットにアームとシリンダーを合わせ直し、またピンを入れ直す、という作業手順である。
その他にも可動部にOリングを正確に取り付けたり、ピンにグリスを塗り直したり、グリスニップルからグリスを注入したりと、とにかく手間がかかる作業なのである。
竜司郎が展開する魔導バックホウなら、換装するたびに魔力は消費するものの、竜司郎の意思一つで、ものの数秒でバケットからフォークグラブに換装可能なのだ。この仕様には竜司郎自身も驚くしかない。
あれほど手間がかかる作業を、バックホウに搭乗したまま、グリスで手をベタベタにすることなく、一人で換装することができるのだから。
パン屋でトングの開閉具合を確かめるように、竜司郎は換装したフォークグラブを何度かカチッカチッと開閉した。
(こうしてみると、バックホウのシルエットはいよいよドラゴンを模しているように見えるなあ……)
バックホウ経験者の竜司郎はともかく、乗り始めて数日、いや数時間の異世界人たちが、バケットで石材を掬うのはそれなりに難渋するテクニックである。
排土板の高さを調整しながら、石材の下にバケットを潜り込ませ、バケットを正確に捲らないと石材は掬えない。
形状や大きさによっては、跳ね上がってこぼれ落ちたり、下手な操作を重ねると排土板の上に乗り上げて降ろすのに一苦労、というオペレーターにとっても周囲の作業員にとっても好ましくない結末にもなるのだ。
その点フォークグラブならハサミの位置取りさえ間違わなければ、上顎と下顎で石材を挟み込んでそのまま積み込むことができる。前世界で別途に技能講習が必要であるには理由があるのだ。
(……まさかこの業務に合わせて女神さまがスキル開放を調整したんじゃないだろうな?)
”あの女神さま”ならそのくらいは企てそうな気もする。
ただ、実際にこうして現場で役に立っているのだから、おっぴらに不平を述べるわけにもいかず、述べるならむしろ謝意のほうである。まったくもって憎たらしい女神さまの采配であった。
「フォークグラブは、基本、下顎に持ちたい物を合わせて……上顎を、こうやって被せる」
竜司郎は、石材をフォークグラブで挟み込んで、4tダンプに積み込んだ。フォークグラブの甲で石材を押して寄せ、できるだけ隙間のないように積む。
竜司郎自身、フォークグラブを使用した業務は、解体業務を三件ほどこなした程度で、それほど熟練しているわけではない。バケットの扱いを応用してそれなりに扱えているように見えるだけだ。
(バックホウのアタッチメントだけでも色々あるし、経験を稼ぐのにあれこれやらなくちゃいけないのは大変だぞ……)
竜司郎はバックホウから降りて、異世界人のバックホウ乗り候補たちを見渡した。
「後は実際に動かしてみて、その都度こっちがアドバイスることにしよう。まず最初は……」
オペレーターを誰にするか、視線を動かそうとした先に……。
上級官吏が身に纏うコートを羽織った男と、秘書官と思しき一般官吏が二人、そしてその後ろに、軽装の金属鎧と、法務衛士のサーコートを纏った戦士が六人、復旧作業現場に近づいてきた。




