━━━案件48 午後の仕事もご安全に!━━━
昼休憩は、食事の時間のみで、休憩の時間は無くなっていた。
工夫たちだけでなく、ボンゴスとデリオまでがバックホウと4tダンプ、そしてモリンの魔導バイクに乗りたがり、竜司郎とモリンと西風団のメンバーは彼らの教官役を務めることになったからである。
工夫たちに人気だったのはやはり魔導バックホウである。竜司郎が前部座席に、チャコが後部座席に乗り、ワラワラと集まる工夫たちに丁寧に説明を繰り返した。
「……この前の二本がそれぞれ右と左の車輪を動かします。前に押せば前、後ろに引けば後ろ、です。こっちのレバーで排土板……手前の板を上下できます。で、腕の操作と車体の旋回はこの左右両方にあるレバーを組み合わせて動かすんですが……」
竜司郎は集まった工夫たちの立ち位置を確認してから、慎重にバックホウの腕を動かした。午前中、アルド、ノルドの操作を見て来た工夫たちだったが、実際にある程度仕組みを理解してから見ると、また違った感動があるようだった。
「こいつは凄い。アルドとノルドが夢中で動かすわけだ」
「さすが聖獣さんの契約者さんだ。希少なスキルをお持ちでらっしゃる」
「何もかもを自分で操作するのは、クレーンと似てるな」
「これが全部魔力でできてるだなんて、信じられん……」
「こいつがあれば、こんな土砂災害もへっちゃらだぜ」
「ああ、早く俺にも中を見せてくれよ!」
説明が一巡すると、竜司郎は後部座席に乗り、一人につき三回まで、バケットで土砂を掬い、4tダンプに積み込むサイクルタイムを許可した。
あまり時間をかけると今日の作業に影響が出てしまうし、西風団のメンバーと違い、大雑把な説明と実演を見せただけのド素人の操作であるから、ここは彼らの欲求よりも、安全を最優先にすべきと考えたのだ。
なにより、三種の乗り物全てに、全員が満足するまで載せていては、収拾がつかなくなるのが目に見えていたからだ。
「応! おめえら、そろそろ作業に戻れ! これじゃあ折角竜の字が効率上げても意味ねえだろが!」
ボンゴスが大声を張り上げた。未練がましく魔導車から離れる工夫たち。
「皆さんもうひと頑張りお願いします。今日の予定が早く終わったら、空いた時間で魔導車に乗れるよう、ボンゴス親方に相談してみます。みなさん、午後もご安全に!」
竜司郎が魔導バックホウのスピーカーから激励すると、工夫たちは一斉に道具を掲げで雄たけびを上げた。
「へへっ! やるじゃねえか、竜の字」
「人間、楽しいことが待ってると、色々前向きになれるもんですから」
「しかし、あの雰囲気じゃ、とても乗るなって言えねえ雰囲気だぞ。まさか竜の字、そこまで考えて……」
「これもアルドさんとノルドさんを引き留める計画の一環、ってことで」
竜司郎のわざとらしい笑顔に、ボンゴスは降参したように両手を上げた。
午後からの作業。バックホウ担当はチャコである。ボンゴスを後部座席に乗せて、都度説明と実演を繰り返しながら作業をこなしていた。竜司郎は午前に引き続き、ダンプとバックホウが見える位置での刃先誘導員である。
ルークもチャコも、それぞれ適応した車両に、センスの片鱗を垣間見せたとはいえ、実稼働時間は精々半日といったところだ。まだまだ目の届くところで作業してもらわなければならないレベルなのである。
「ほ~~い! アルっちのリヤカーおっけー!」
「あざっす!」
アルドは午前中にバックホウ業務を終え、現在は運搬担当である。アルドはバックホウを操るチャコにサムズアップすると、意気揚々と集積場に向かった。
次の順番はルークの4tダンプである。距離が比較的近いためか、魔力を思ったほど消費しなかったため、午後も引き続きダンプを担当することになったのである。
時々窓から顔を出しながらダンプをバックさせる姿も慣れたものである。どうやらバックモニタ越しの車両感覚も身につけ始めたようで、その吸収力は瞠目に値した。
「おう! チャコの字、ちゃっちゃと満タンにしてくんな!」
ルークがボンゴスの口調を真似て、チャコに催促した。チャコは笑顔で、操縦桿のクラクションを軽快に二回鳴らした。
ボンゴスはバックホウの後部座席で何事か言いたそうな顔をしていたが、チャコの後ろから大声を出すわけにもいかず、気難しそうな顔で腕を組んだ。
午後の休憩をはさんで、いよいよ竜司郎の出番である。竜司郎は予めリヤカー、手押し車の全てをバックホウの横一列に並べ、工夫たちにクローラーの前後には立ち入りを厳に禁止すると、早速バックホウを稼働した。
掘削範囲の土砂にバケットを入れ、掬い、旋回し、リヤカーに積む。クローラーの前後移動も含めた、その速さと正確さは、バックホウ経験者の西風団と、アルド、ノルドを驚嘆させた。
まず、リヤカー、手押し車の周りに、こぼした土砂を掬いあげる工夫が要らないのだ。竜司郎のバケットは積載範囲を逸脱することなく、並べられた運搬車に、正確に土砂を積み込んでいった。
さらに、リヤカーに載せる時、手押し車に載せる時で、掬う分量を調整して積載する手際は異世界オペレーターたちを感心させ、操縦桿を揺らしてバケットから少しづつ土砂を落とすテクニックにはあちこちから声が上がった。
「すっご~~りゅうっち! やっぱ本家本元の乗り物スキル持ちは一味ちがうわ!」
「格好いいッスよ~~御主人!」
「いいぞリュウ! もっとやれ!」
竜司郎はギャラリーの反応に誇らしげに応える一方で、心中は、御山の大将、井の中の蛙の気分をぬぐえないでいた。
今、竜司郎が披露したのは、前世界の、ひとかどの経験を積んだバックホウオペレーターなら、まず身につけているレベルの技術である。
そして竜司郎は、大森社長をはじめ、自分よりもはるかに上手い技術と、足元にも及ばない経験を積んだオペレーターを大勢知っていた。
転生者という異世界人が取得しえない技術を所有する立場上、やむを得ない状況だとは知りつつも、竜司郎は一抹の羞恥心を抱きながら、バックホウの操縦桿を動かした。
……自らが経験と努力で身につけた技術ですらこうなのだ。
やはり、竜司郎の性格では、チートや無双といった特異レベルの特権的スキルは、与えられたとしても持て余すだけであっただろう。
女神さまが特権的スキルのリソースを前世の恩人に分け与えた切欠は、恩義を返したいとの竜司郎からの申し出であった。
あのやりとりは、あるいは無意識のうちに、竜司郎自身が身に余る超能力を拒否した結果なのかもしれなかった。
(仕事や冒険の無い日は、廃村のカリキルでみっちり練習する必要があるな……)
竜司郎は、土砂から出てきた大岩を、排土板に寄せて掬い取った。この調子で行けば、一時間以上は余裕をもって今日の仕事を終わらせられそうだった。




