━━━案件47 竜司郎 七年ぶりの土木現場作業━━━
翌日。
北街道の復旧工事は活気に満ちていた。
アルドとノルドが、曲がりなりにも現場に出てきて、しかも、彼らは竜司郎が展開したバックホウに搭乗して土砂の撤去作業にあたっているのだ。工夫たちの士気はかつてないほど盛り上がっていた。
バックホウは、展開には全て竜司郎の魔力が使用され、実際に操縦する者が、魔導重機の稼働時に自らの魔力を消費してバックホウを運用する。
アルド、ノルドといった一般的な異世界人がバックホウを稼働させられるのは、最大でも三時間程度であった。魔力が一般異世界人より豊富と思われる西風団の面々でも、最長がチャコの四時間半であった。
一日当たりの労働時間を考えると、午前に二人、午後に二人、というのが、魔力消費で無理をさせずに魔導重機を稼働させられる人員配置であろう。
今日の一人目は兄のアルドで、後部座席には竜司郎が乗り込んで、休憩をはさんで二時間、危なげのない操縦で大役を果たしたのである。
今は弟のノルドがバックホウの操縦席に座り、バックホウを操っていた。チャコがその後部に座って、バックホウの先輩としてアルドにアドバイスを送っていた。
バックホウを複座にして展開したらどうッスか、と言い出したのは、モリンである。
竜司郎とモリンが展開する乗り物スキルは、複雑に構成された魔法紋によって稼働している。一方で、その魔法紋は展開者の意思によって、かなり柔軟に構成を変更して展開することも可能なのだ。
そして内燃機関で稼働する前世界のバックホウと違い、魔導バックホウは、ブームと操縦席の後方部分、エンジンを筆頭とした動力部分のスペースには余裕があった。
そこを座席に変形させて、前後に二人という配置で座席を組んで展開することにしたのだ。
(これなら後方に先達が乗って、教官的な立場で物申せるし、モリンのバイクみたいにサブ操縦席を後ろにも展開すれば、いざって時の対応も可能だ)
アイデアを称賛する周囲に「まぁまぁ私ならこのくらいは」と言わんばかりなモリンの得意顔に、多少のウザさを感じながらも、竜司郎はそのアイデアを採用し、複座のバックホウを展開して運用しているのであった。
ルークは4tダンプに乗り込んで、片道500mの運搬を担当していた。乗り物スキルの稼働範囲は、竜司郎を中心とした半径1kmほどであることは、先日の合宿で確認済みである。
「おう、ノルドさん! そろそろ積載限界だ。行ってくるぜ」
4tダンプのメーターに表示された数値を見ながらルークが大きな声を上げた。積載重量の厳守は竜司郎の指示である。
過積載は異世界でもご法度である。運転者の魔力消費が激しくなり魔導トラックの稼働時間が短くなるだけでなく、魔法紋にも負荷をかけ、最悪の場合、強制解除されてしまう場合もあるのだ。
強制解除されると、積載物はそのまま周囲に散乱し、さらに操縦者に、乗り物スキルに使用していた魔力の逆流現象が起こり、心身に少なからぬダメージを負う、とは、付与記憶からの知識である。
乗り物スキルを操る竜司郎としては、何としても防止しなければならない事故であった。
「頼むぜルーク!」
ノルドはバックホウスキルに高揚しているのか、いつもの精神状態に近づいたのか、ルークと同じく大きな声で応じた。
竜司郎はバックホウとダンプに目を配りつつ、自らもスコップを振るい、バックホウオペレーターの刃先誘導員に従事していた。
「ノルドさん! 次、モリンくんのリヤカーにお願い」
「分かった!」
順番待ちのマリーナとモリンが、竜司郎が設置した積み込みスペースに魔導バイクを移動した。積み込みスペースは、カラーコーンの代わりに杭に旗を差して目印とし、それらを等間隔に赤布を結び付けたロープでつないでいた。
竜司郎は、なによりもまず、バックホウのバケット旋回範囲に、異世界人が入り込み過ぎないように配慮したのだ。
重機に馴染みのある現代人はおろか、現役の土木作業員でも、重機との接触事故は後を絶たないのだ。まして今魔導重機に乗っているのは、搭乗して二日目の異世界人である。
竜司郎がかつて現場で運用していたよりも、慎重になるのは当然と言えた。
実の所、魔導バックホウも、魔導4tダンプも、稼働範囲内でならば、竜司郎の意思一つで停止から強制格納までおこなえる。だが、事故というのはきまって当事者の目が行き届いていない瞬間に起こるものなのだ。
いくら安全装備が充実していたとしても、過信は禁物、である。
「おっけノルドさん! 積載限界ッス」
「頼む!」
マリーナはモリンと目で同意すると、魔導バイクのスロットをゆっくりと回した。魔導バイクの後部につないでいるリヤカーはモリンが展開した物ではなく、元々現場で使われていたものを、魔導バイク用に即席で改造したものである。
当然重量物を乗せたままでの高速移動に耐えうるはずもなく、乗り物スキルのような地形の凹凸に順応した機能も備えていない。500m先の集積場までの移動は、あくまで低速で”かっ飛ばす”などもってのほかなのだ。
「少し前に出ます。周囲の皆さん、気を付けてください」
ノルドがバックホウのスピーカーから注意を促した。クローラーを動かす時は必ず周囲に周知する。これも竜司郎の指示である。少し前進し、次の掘削範囲まで移動するノルド。
街道の石畳を傷つけないようにバケットを翻しつつ、出来るだけバケット一杯に土砂を掘削する作業は、やはり搭乗二日目のオペレーターは難しい。
それでも時折現れる数十キロ~百キロ超えの岩を、数人で抱えたり、人力の揚重機を備え付けて、手押し車やリヤカーに積載するのにくらべれば、バックホウでの作業は遥かに効率的だった。
ノルドは”刃先誘導員”竜司郎の指示どおり、魔導バックホウに備え付けられた排土板のそばまで岩を寄せた。
「チャコさん、ノルドさんの誘導、頼みます!」
「おっけーーりゅうっち!」
後部座席のチャコはサムズアップで応じ、後部座席から乗り出した。
「いい? ノルっち、バケットの甲はなるべく地面と水平に、で、アームをゆっくり手前によせて……そうそう! で、バケットだけをクリっとまくる!」
ノルドはチャコの指示通り、バケットを翻して岩を掬った。ゴロンっと岩がバケット内に納まると、チャコとノルドはサムズアップ同士をコツンとあわせた。ノルドは慎重にバケットを旋回させて、リヤカーの荷台までバケットを寄せる。
「『軽量 強化一段』」
マーカスが愛用の棍杖の先に魔力を込め、バケットの岩に『軽量』の魔法を施した。彼ほどの力量の魔術師なら、同じ生活魔法でも一般人よりも消費魔力を抑えて発動が可能なのだ。
既に二十個近い岩に『軽量』の魔法をかけているマーカスだが、特に疲れた素振りもない。
マーカスが棍杖を掲げると、それを合図にノルドはゆっくりとバケットを開き、リヤカーに岩を載せた。
丁度昼休憩に入る直前、一台の馬車がやってきた。
馬車から降りて来たのはデリオと、デリオに支えられたボンゴスであった。移動補助を車椅子から松葉杖に変更してる。回復は順調なようだった。
「応! 調子よさそうじゃねえか!」
ボンゴスとデリオの来報を合図に、工夫たちは昼休憩をとることにした。




