━━━案件46 バックホウに乗ってみませんか?━━━
竜司郎はロナーシアへ帰るトラックで、ボンゴスとデリオと西風団に、アルドとノルドの説得方法を披露した。ボンゴスは少し唸って苦笑いを浮かべた。
「竜の字、おめえのほうこそ意外に人が悪いんだな」
「門外漢の俺に業界の先輩を説得しろっていう親方には、およびませんよ」
「しかし、受けたからにはそれなりの成算があると思ってたが……。いや、まあいい。この件はおめぇさんに一任するって約束だ。協力しようじゃねえか」
「タイミングが大事ですからね。よろしくお願いしますよ」
言いながら竜司郎はカーブに沿って悠々とハンドルを切った。目的地はアルドとノルドが療養中のボンゴスファミリーの寮だ。
寮は、ボンゴスファミリーが所有する建設資材置き場と向かい合うように建てられた三階建ての建物だった。ボンゴスの父親が建設し、ボンゴスが修繕を繰り返しながら使っている半世紀になんなんとするファミリーの拠点である。
その向かいの建設資材置き場に木材を担いで回る二人の若者がいた。アルドとノルドである。実直そうな眼もとと、やや面長の顔は一目で兄弟と分かる造作で、ゆったりとしたベージュのカットソーと綿のズボンという服装もお揃いだった。
アルドとノルドは、最初に2tトラックに驚き、続いて出てきたボンゴス親方とデリオの姿をみて、気まずそうに頭を下げた。
「よう、もう動けるようになったのか? アルド、ノルド?」
「はい、マシウス先生の『治癒』のおかげをもちまして」
「じっとしてるのも何なので、資材置き場の片づけでも、と」
資材置き場で体を動かしてはいるものの、やはり二人とも声に覇気を欠いていた。いつもならボンゴスに「でけえ声出さなくても聞こえたらあ!」くらいは返される程度の元気は溢れていたのだ。
難しそうなボンゴス親方の横で、竜司郎は説得のとっかかりを見出した。彼ら兄弟は、たぶん竜司郎と同じタイプの、乗り物好きのワーカホリックだ。なら歩み寄れる可能性は、ある。
「初めまして。飛野竜司郎です。こいつは聖獣のモリン。ボンゴス親方とはちょっとしたご縁がありましてね」
手を差し伸べた竜司郎に、アルドとノルドは順番に握手を交わした。職人らしいごつい手だ。
「……あの時、遠目にお姿は見かけました。親方を助けていただいて、本当にありがとうございました」
「すぐにお礼を言いに行こうかと思っていたのです。ですが、親方からお聞きだと思いますが……」
弟のノルドが口ごもった。ボンゴスがいつもより大きな声を上げた。
「辛気臭ぇ顔すんな! 今日はな、この飛野竜司郎さんが、おめえたちに話があるって俺に渡りをつけてきたのよ」
主客が逆である。だが口裏を合わせたとおりに、ボンゴスは切り出した。ボンゴスを主体に話をすると、また説得の話かと警戒されかねない。まずはボンゴスから竜司郎に、意識の目線を変えてもらうことが目的だった。
「お二人が腕のいい乗り物使いであることを、ボンゴス親方から伺いまして、それで俺の手伝いをしてくれないかと思ったんです」
アルドとノルドは顔を見合わせて、力なく笑った。
「俺たちはボンゴス親方を潰しかけて、現場をめちゃくちゃにした張本人です。御冗談は止してください」
「不運な事故だと聞いています。ですから、お二人にクレーンのお手伝いをしてもらおうとは思っていません」
竜司郎は資材置き場の木材の前まで歩くと、両手ではなく、全身を覆うように魔力を集めた。意識を、バックホウのイメージに集中する。そして集中の中でさらに、座席を最初に思い描く。
するとバックホウは、初回の展開時とは違い、竜司郎が集積した魔力の球からではなく、全身を覆う魔力から座席から形成された。形成された座席は、立ち姿の竜司郎を座らせるように持ち上がり、そこから魔力の線が瞬く間に形成された。先日の合宿で、竜司郎が身につけた展開方法だった。
竜司郎が自己紹介もそこそこに、バックホウを展開したのは、そのインパクトでアルドとノルドの脳裏から、クレーン事故の記憶を追いやるためである。
「お……おおぉ……」
「これが、話に聞く飛野さんのスキル……」
アルドとノルドは揃って後ずさった。ボンゴスもデリオも、フォークリフトとは違った魔導重機に目と口を大きく見開いた。
「俺はこのスキルを使って、北街道の復旧工事を請け負ったんですが、俺と西風団だけじゃバックホウ乗りが足りないんです。そこで同じ乗り物乗りの二人の手が空いてると聞きまして」
「……どういうことですか?」
「このバックホウに、乗ってみませんか?」
竜司郎はやや芝居がかった表情と口調で、驚く兄弟に手を差し伸べた。先に反応したのは弟のノルドのほうだった。
「俺でも、乗れるの……?」
しめたとばかり、竜司郎は努めて明るく誘った。
「大丈夫。操作方法は俺とチャコさんが教えますんで、それで切通しの仕事をさっさと済ませて、その人員を事故現場の復旧に回せないか、と考えているんです」
「おう、アルド、ノルド。まだおめえらからはっきり去就の返事は聞いてねえ。聞いてねえ以上おめえらは俺のファミリーだ。回復したんなら仕事はキッチリこなしてもらうぜ」
ボンゴスはいつもの口調で、バックホウの後部をコンコン、と叩いた。コイツに乗って働いてもらうぜ、と言わんばかりに。
「あの現場に、すぐ立たせるほど、親方も鬼じゃありません。切通しの復旧作業の応援を頼まれた時、お二人の話を聞いて、このバックホウで切通しの復旧作を手伝ってくれれば、間接的に事故現場の復旧の手伝いにもなる、とね!」
言いながら竜司郎は、バックホウを稼働させた。ゆっくりとブームとアームを起こし、砂山にバケットを入れる。バケットを翻し、砂を山盛り掬ってみせた。
「これなら、切通しに詰まった土砂も、ガンガン掬い出せると思いませんか?」
アルドとノルドは何か希望を見出したように、二歩、三歩、バックホウに歩み寄った。もう一息。
「ほ~~ら! 何を迷ってるの! このバックホウのチャコール様が、手取り足取り教えてあげるからさ!」
新たな自称を高らかに名乗りながら、チャコがアルド、ノルドと手を組んで、竜司郎とバックホウの前まで連れ出した。ナイスですバックホウのチャコールさん。
アルドとノルドが恐る恐るバックホウの魔力面を触った。竜司郎はバックホウの魔力面から、アルドとノルドの魔力を感じ、心の中で自分の目利きを自賛した。やはりこの二人、重機の適正がある。
目が合ったアルドとノルドに、竜司郎は「俺に任せろ」と無言で点頭した。アルドとノルドは、竜司郎に深く頭を下げた。
「そうと決まりゃあ話は早え! 応、アルド! ノルド! 明日からの現場に備えて、ここで竜の字とチャコにみっちり鍛えてもらいな!」
ボンゴスはアルドとノルドに、大きく、暖かい激励をかけると、デリオに車椅子を引かせ、現場の巡回に向かっていった。




