━━━案件43 竜司郎 大森建設時代を回想する━━━
「それじゃあボンゴス親方、デリオさん。まず、アルドさん、ノルドさんのことについて教えてくれますか?」
竜司郎は、顔も知らず、名前もついさっき聞いただけの相手に、いきなり訪問するようなことはしなかった。まずはその為人を把握して、おぼろげながらでも掴み所を探さなければ、説得のしようもないのだ。
(履歴書から相手を推察する書類選考みたいなもんか)
竜司郎は大森建設時代、ほんの数回、書類選考と面接に立ち会った経験があった。いずれお前もこういう席に立つんだから、と、面接には最初は半ば無理やり同席させられ、どっちが面接されているのか分からない状況だった気がする。
現場の若手から見て何か質問はあるか、と、大森社長から質問を促された時、予めカンペを用意していなかったらどうなっていたことか。
それでも、履歴書と本人との対話を交互に、相手の為人を知る、知ろうとする経験は、少ないながらも竜司郎の中に確かな経験として息づいていた。
ボンゴスとデリオが、お互いの説明を補うように語った。
兄のアルドは現在26歳、弟のノルドは24歳。工業ギルド所属。兄弟仲が良く、周囲の人間関係も良好で、性格的な面で問題となるような点は無さそうである。
仕事面でも、農業で鍛えた体は、頑健でよく動き、若手のホープとしてボンゴス親方をはじめ、建設畑の先達から期待されていた。
故郷の家族へ定期的に仕送りもし、領都で活躍する我が子二人は、両親の自慢なのだそうである。
「ただ、確かに精神的に打たれ弱いところはあった。ボンゴス親方にアレコレ言われてへこたれるタイプじゃなく、今回のように自分のミスで周囲に悪影響を及ぼした時に、そういう傾向があったな」
「責任感が強い一方で、責任感からくる重圧には弱い、そんなところでしょうか、デリオさん」
竜司郎は教えられたアルド、ノルド兄弟の情報から、自分なりの仮説を披歴した。
「そう、そんな感じだ。だから俺たちもクレーン倒壊を殊更に責め立てたりはしなかったんだが、それがあいつらにはかえってプレッシャーになっていたのかもしれん」
デリオは竜司郎との対話で、ボンゴスファミリーの対応ミスの可能性にも言及した。
「そこまで言い始めちゃキリがねえぜデリオ。しかし、そういう責任感は、竜の字とも似てる気がするな」
「俺はまだ一度しか仕事を見せてませんよ親方」
「一度で十分さ。なんせ顔も名前も知らなかった俺を命がけで助けてくれたんだからな。な? モリの字」
「その通りッス。御主人は、責任感もスキルもばっちりの職人ッスよ!」
「モリン、俺もそこそこ調子乗りなんだから、あんまり無責任におだてるなよ……」
竜司郎は流石にそのおだてには乗らなかった。つとめて謙虚に平穏に振舞ってはいるが、竜司郎だって褒められれば嬉しいし、けなされれば気分を害するのである。
「そんなこと言って竜司郎さん、今こうして、顔も知らない、名前も今知った人を何とか助けようとしてるじゃない。モリンくんもそういうところを信頼してるんだと思う」
マリーナがモリンに同意するようにモリンの頭をなでる。竜司郎はぐうの音も出ない。
「マリーナ嬢ちゃんの言うとおりだぜ竜の字。だから俺も、マシウス先生からおめえさんの名前が出た時に膝を打ったのよ。俺だって情も道理も分からねえヤツに大事な弟子を任せたりするもんか」
「……恐縮です、親方」
(そうはいっても、アルドさんとノルドさんは、俺より若い時代から、10年現役で現場にいるってことだから、年下だけど建設業の先達なんだよな。ますます役者不足な気がするぞ……)
土木建築業の経験は大森建設時代の7年で止まっている竜司郎からすれば、業界の先輩を説得するようなシチュエーションになるわけで、正直に言うと荷が重い。
だが、有為で有望な人材を一度のミスで二人も失ってしまうのはあまりにも惜しい。常に人材難にあえぎ、余裕のない人員で現場を回してきた、土木建築業界、運送業界を見て来た竜司郎にとっては人ごとではないのだ。
(……常務と部長が揃って戦線を離脱したシチュエーションに、ちょっと似てるんだよな)
竜司郎がアルド、ノルドの説得を買って出た理由の一つは、大森建設が廃業する呼び水となった、常務と部長の相次ぐ戦線離脱に似ていたからだった。
常務、部長といっても、大森建設内での便宜上の役職で、仕事となれば社長から末端の作業員まで現場に出張って総出でスコップを振るい、バックホウを操り、ダンプを走らせるのが大森建設のやり方だった。
だが、寄る年波が原因の病気と怪我、家族の介護、重なり合う難事からくる家庭不和で、常務と部長という現場の二大柱が相次いで大森建設を後にすることになったのだ。
大森建設廃業直前に亡くなった常務は、何某かの癌だと仄聞していた。
常務は先に退職した部長の分も、とばかりに、最後まで現場に拘っていたが、入院直前だった頃の常務は、竜司郎が入社当時のエネルギッシュな面影は見る影もなかった。
病気を押して出勤し、スコップすら扱えない体で、それでもゆっくりとした動作で現場の掃き掃除をする姿は、竜司郎の脳裏に強烈な印象に残っていた。
その頃からだった。大森建設の雰囲気が翳り、現場から不協和音と、労働災害が頻出するようになったのは。
ボンゴスも、デリオも、あの時の大森建設と似たような悪影響があることを本能的に感じ取って、アルドとノルドの残留に奔走し、本来は部外者の竜司郎を頼るという手に出たのであろう。
竜司郎も、異世界に来て同様の状況を目の当たりにするのは、寝覚めも悪く、避けられるものなら避けたいし、そのためになけなしの力でもふるえるのならば、力を惜しむ理由は無かった。
「アルドさんとノルドさんは、今どこに?」
「まだウチの寮に引きこもってるはずだ。俺たちに挨拶もなしに逃げちまうような無責任なマネはしねぇとおもうが……」
「訪うというのなら、俺が案内するぞ竜司郎さん」
ボンゴスとデリオは立ち上がった。




