━━━案件41 異世界人と乗り物スキルの相性や如何に━━━
西風団一行は、充実の魔導車教習の後に、廃村カリキルを後にした。
この一泊二日の合宿で分かったことがいくつかある。異世界人たちは、どうも乗り物スキル各種と相性があるようなのである。
それは得意不得意とは別の、現代人には無い、体内魔素を魔力に精製して利用する、異世界人ならではの特性と関係があるようだった。
モリンも同様の事を感じたようで、展開した魔導バイクの魔力回路と、搭乗者の魔力との相性の良し悪しが顕著に見られる、とのことだった。
竜司郎も何となくそれは感じていた。
事実、ルークは魔導トラックと相性がよく、運転も、車両感覚も、ものの数時間でそれなりに理解を示した一方、チャコはバイクにはてんで相性が悪かった。あれだけ乗馬に長けているにも関わらず、だ。
それなのにバックホウに乗ったチャコは水を得た魚のようにバックホウの腕を動かし、合宿が終わる頃には単純な掘削作業なら難なくこなせるレベルにまで達したのだ。
逆にルークはバックホウとの相性が悪く、湾岸通りの悪童の名に恥じない暴れぶりだった。廃屋の壁をぶん回したバケットで破壊したあたりで、竜司郎がバックホウの強制格納を考えたほどだった。
そしてマリーナは魔導バイクである。こちらは天性のセンスとしか言いようのないもので、モリンすら「後はひたすら乗って経験を積むだけっスね」と言い切ったのだ。
竜司郎としては十年以上のバイクキャリアの背後にピタリ追いつかれたような気分と、異世界でバイク仲間と出会えた嬉しさが、心の中でもつれ合って、複雑な心境であった。
(マリーナさんや、西風団のみんなと異世界ツーリングなんてできたら楽しいだろうなあ……)
そういえば、魔導バイクに似た魔導機は、この世界にもあるという。それの完品を遺跡かダンジョンから発見するか、アンセル伯爵様のように所有している人物から買い取れれば……。
(おっと、先走ってもしょうがない。今の俺は銅三級のぺーぺーだし、まずはスキルの復習と、銅二級を目指して仕事をこなすのが最優先だ)
……残念ながら、マーカスは現状展開したいずれの魔導車スキルとも相性はよくないようで、幸運の女神リュイティーカはおろか、魔導車の神(いると仮定して)にすら見放されていた。
ただ、まったく相性が悪く、操作すらも覚束ないというほどではなく、どの乗り物スキルも、チャコ曰く「見ててつまんない運転」くらいの運転は可能なのだ。このあたりは頭脳労働担当の面目といったところか。
竜司郎の乗り物スキルは、今回展開したもの以外にも、まだまだ未展開のスキルはある。前向きに「次の魔導車こそは!」と意気込むマーカスに、竜司郎は肩を叩いて励ましたのだった。
西壁門に着いた西風団は、入門手続きをすませ、冒険者ギルドへと足を運んだ。
ロナーシアまでの行程はルークが2tトラックを運転し、マリーナはさらなる経験を積むために、復路二時間を全て魔導バイクに搭乗していた。
竜司郎はというと、助手席に運転席を形成し、万が一に備えていたのだが、まったくの杞憂に終わった。やはりルークとトラックの相性は良好のようだ。
(この体格で作業着着て、10tトラックとか、トレーラーに乗ったらさぞかしバエるだろうなあ……)
ルークの体格と精悍な顔つきなら、アメリカで馴染み深いボンネットトラックも似合いそうである。異世界の広大な土地なら、それもありか。
(いや、問題は道路だ。4tトラックですら街道以外は黄色ゾーンなのに、トレーラーなんて長いトラックじゃ街道すら走れないかもしれない)
となると、インフラの整備から始めなければならなくなる。しかも重機スキルを展開できるのは竜司郎だけだ。
(気の長い話になるなあ……)
竜司郎は、ふとセンターシートに座るモリンと目が合った。不思議そうなモリンに顔に、竜司郎は笑顔を向けた。
(もしかして、女神さまが俺たちを若返らせた理由はこれか……?)
大通りを歩く西風団に、時折興味深げな視線が投げかけられた。
今を時めく若手冒険者グループに、東方帝国出身の男前が、聖獣を連れて加入したのだ。
それは、マシウスの三鑑定の儀、ボンゴス親方救出事件、ロナーシア情報会が発行する”ロナーシア通信”によって、瞬く間にロナーシア中に伝えられた。
西風団と、竜司郎とモリンは、アンセル伯爵領都ロナーシアで最も注目の一団であった。
「見て見て! あたしたち、チョー注目のマトよ!」
チャコは視線が合った人々に、気軽に笑顔と共に手を振って応える。モリンを収納したトートバッグは、今チャコの肩にかけられていた。当然のように、モリンも前足を振って愛嬌を振りまく。
「ふふふ……悪くねえな」
ルークもまんざらではなさそうである。若くして銀一位の徽章を身につける男である。ことさらにひけらかしはしないが、野心も自信も自尊心も、当然相応に持ち合わせているのだ。
「いや~~、俺はあんまこういうのは……」
肩をすくめる竜司郎は居心地が悪そうだ。もし、竜司郎が西風団の元々のメンバーと同じ銀級なら、感想も少しは違っているかもしれない。
だが今の竜司郎は、女神さまによって補正された容姿と、付与された特権的スキルと、モリンの聖獣の地位とによりかかっている状態なのだ。少なくとも竜司郎はそう認識していた。
「そういう謙虚なところ、竜司郎さんらしいね。あんなにすごいスキルいっぱい持っているのに」
「お褒めに与かり恐縮ですマリーナさん。……俺も、もう少しボンゴス親方の気風を見習ってもいいかなぁくらいには思ってんだけど……」
「そうそう! そのボンゴス親方! 今日お父さんが治癒の続きに行ってるはずだけど、大丈夫かなあ」
「大丈夫ですよマリーナさん。あのボンゴス親方の事です。案外冒険者ギルドで、竜司郎さんを指名して仕事を依頼してるかもしれないですよ」
「またまたマーカスさん、御冗談を」
竜司郎とマリーナとマーカスは同時に笑った。
「おう、竜の字、モリの字。やっと帰ったか」
冒険者ギルドの、正面通路の一番目立つ席で、車いすのボンゴス親方が待ち構えていた。竜司郎とモリン、そして西風団の元気な姿をみて、エールのジョッキを片手に上機嫌である。
竜司郎とマリーナとマーカスは同時に苦笑した。車椅子を引いているのは、事件現場に居合わせた年嵩の男性だ。同じ席にイルゼチーフも座っていた。
「おかえりなさいませ西風団のみなさま。早速ですが、工業ギルド幹部ボンゴス親方から、西風団所属の飛野竜司郎さん、モリンさんを指名しての仕事の依頼です」
お堅そうな眼鏡をクイっと上げて、イルゼが飾り枠の契約書を取り出した。西風団一同はそれぞれ驚きの表情を浮かべた。
「まったく、銅三級の冒険者を指名だなどと、前代未聞ですよボンゴス親方」
イルゼが子供の悪戯を叱るように、ボンゴスに言った。
「そう言うなってイルゼちゃん。マシウス先生から、竜の字とモリの字が冒険者になったって聞いてすっ飛んできたんだからよ」
ボンゴスの年齢的にはイルゼも”ちゃん”扱いである。貫禄なのか親愛なのか。
「親方、俺、折角誘ってくれたのに……」
竜司郎は申し訳なさそうに頭を下げた。モリンもトートバッグから出した顔をぺこりと下げた。
「なぁに。おめえさんが義理がてぇヤツだってのは察しがついてたからよ、こうなるんじゃねえかと思ってたさ」
「すみません親方」
「気にすんな。俺もおめえさんがそういうヤツだからこそ誘ったんだからな」
ボンゴス親方は豪快に笑って、エールのジョッキの残りを一気に喉に流し込んだ。
「ま、仕事の内容は分かってると思うが、詳しいことはあっちで語ろうや」
ボンゴスはクイックイッと、半個室のブース席を指さした。




