━━━案件38 新生西風団 乗り物スキルで出かける━━━
「分かった! 教える! 教えるから少し離れてくれマーカス!」
竜司郎はマーカスを両手で押し返す。同意を得たマーカスは安心した表情でグイグイ来るのを止めた。流石に引き際は心得ているらしい。
「真面目な話、竜司郎さんのスキルを知っておくのは悪いことじゃないわ。知っていればこっちからも何かしらアイデアを出せるし」
「いい事言うじゃんマリーナ! じゃ早速、新生西風団のスキル勉強会を始めましょ~~う!」
チャコがノリノリで宣言する。チャコさん、実はあなたも乗りたいクチですね。
「それでは、冒険者ギルド裏の訓練場を使いますか? 今は予約が入っておらず、すぐに利用できます」
イルゼの提案に、マーカスが真面目モードで応じた。
「イルゼチーフ、竜司郎の乗り物スキルはかなり大きく、訓練場ではたぶん手狭だと思われます。よって私は南の廃村カリキルを推奨します」
やけに手回しがいいマーカス。ひょっとして、この状況を予期してめぼしい訓練場を選定していたのか。
「……なるほど、カリキルは廃村になってから人が住んでいるという情報はありません。そして、マーカスさんはカリキルまでの行程をも訓練の一環とするおつもりですね」
「流石イルゼチーフ。私の予想なら竜司郎さんのトラックスキルを使えば2時間もあれば到着できるでしょう。帰還の予定は明日としておいてください」
マーカスさん、ロナーシアからガッツリ、カリキルまで乗っていくつもりらしい。
「分かりました。西風団のスケジュールに記載しておきます」
「……一応リーダーはオレなんだけど?」
ルークは不平顔だが明確に反対するつもりはなかった。ルーク自身もそのつもりだったからだ。
廃村カリキルは、西風団が冒険の途中で何度も利用したことがある廃村だった。
新しい街道が整備されて幹線道路から外れたことと、ロナーシアの第二次拡張計画に乗って、村人の大勢がロナーシアに移り住んだことで廃村の運命をたどり、人が住まなくなって四半世紀が過ぎようとしていた。
西風団以外の冒険者も利用しているので、廃村の割りには荒廃が進んでおらず、そのまま雨風をしのげる家屋も何軒か残っているほどだ。
なによりロナ川の支流が村のそばを流れているので、水源の心配がないというのが大きい。
カリキルなら、人里からある程度遠く、遠慮なくバイクを疾走させることも、フォークリフトやバックホウを旋回させることもできる。乗り物スキルの訓練には、なるほどうってつけの環境であった。
「……で、これを握ると止まる。こっちの足のペダルでも止まる。オーケー?」
「オッケー!」
「基本はこんなところで、あとは論より証拠ッスね。まずは僭越ながらワタクシめがお手本をお見せします。マリーナさんはハンドルを軽く握っていてください」
西壁門の外で、竜司郎とモリンはマリーナにオフロードバイクの乗り方を教えていた。出かける前のくじ引きで、マリーナが一番にバイクの乗車権を勝ち取ったのだ。
門前では、西風団や警備隊長のゴードンだけでなく、配下の兵たちもワラワラと集まって、物珍しそうに竜司郎とモリンの講習を聞いていた。
「ほらほらお前たち! 仕事に戻れ! どうしてもというなら待機してる奴らと代わってからにしろ!」
「そんなこといって、ゴードン隊長も興味津々じゃないですか」
「……ゴホン、俺は警備上、竜司郎の乗り物の知識を得ておく必要があるのだ!」
「そりゃズルいですよ隊長!」
兵士たちがまぜっかえす。竜司郎は兵士の皆さんをなだめた。
「まあまあ皆さん、今日は西風団の仕事が優先ですから、この辺にしておきますが、また日を改めて、皆さんにも機会を作りますんで」
「必ずですよ!」
「待ってるぜ竜司郎!」
ボンゴス親方には多少心苦しいが、あの救出劇があったからこそ、こうしてロナーシアの人々は竜司郎とモリンと、彼らの乗り物スキルに好意的な興味を持って接してくれるのだ。ある意味足を向けて寝られない人になったかもしれない。
「それじゃあ……ダブルキャブ2tトラック、展開!」
竜司郎の青白い魔力の球がカっと光る。以前の4tトラックよりも小さいからか、線画の展開は早く描かれ、2tトラックはその姿を現した。こちらも異世界仕様の武骨な外観である。
ダブルキャブの名の通り、前に三人、後ろに三人搭乗可能な小型トラックである。人を乗せる分、荷台スペースは小さくなるが、現場へ人をメインに運ぶのには実に重宝する。
大森建設時代は、幌付きのロングボディタイプのダブルキャブトラックに工事道具を満載にして、あちこちの現場に向かったものである。
「お、これは、このあいだの魔導車より小さいタイプですね」
早速マーカスが片眼鏡を皿のようにしてトラックに吸い付いた。
「西風団全員が乗れるように後部座席もあるトラックにした。後ろにある程度の荷物も載せられるから、収納スキルの魔力節約もできるぜ」
竜司郎は驚く兵士たちの声を背後に、早速運転席に乗り込んだ。ナビを中心としたインパネ周りは4tトラック同様のデザインである。
「ルークはでかいから前の席、チャコさんとマーカスさんは後部座席で。モリン、マリーナさんを落とすなよ」
「お任せください!」
「お任せするねモリンくん!」
マリーナはモリンの前カゴ収納スキルに収納されていたという、ジェット型ヘルメットをかぶっていた。
こちらは竜司郎とモリン専用のヘルメットのような異世界ナイズされたデザインではなく、前世界のデザインそのままで、剣と魔法と神の世界の神官服をまとったマリーナの姿をいささかシュールなものにしていた。
……バイク乗車の説明時、ヘルメット着用を促す竜司郎に、ヘアスタイルが崩れるとチャコが駄々をこねたのだ。
「そんな兜、馬に乗る時にだってかぶったりしないよ~~」
「道交法違反だからダメだ」
竜司郎は珍しく強固にヘルメット着用を推したのだ。竜司郎は父の影響からか、自らの気質からか、割と遵法精神が高い。
遵法精神が緩い土木建築業界の面々とは、例え上司や先輩でも譲らず、諍いを起こすこともあったほどだ。
大森社長が上司や先輩を立てつつ、現場の実情を竜司郎に語り、何とか歩み寄る、というのが通例だった。
社長としては法律違反をつつかれれば経営に影響するのだ。さりとて杓子定規に法律を妄信していては現場に齟齬が生じる。竜司郎の正しさを理解する一方で、妥協点を模索するのも止むを得なかった。
「第一、その”どーこーほー”って何よ? ルーク知ってる?」
「しらん」
それはそうだ。逆に異世界人が前世界の一国家の法律を知っていたら驚天動地である。
「チャコさん、ここはひとつ穏便に。私たちのスキルは女神さまとの契約によって展開できるんっス。もし、その契約を破ったら、私たちは裁きを下されるんスよ」
(おいモリン!)
(だってこうでも言わないと納得してくれないッスよ。それに道交法を違反したら”裁き”を受けるでしょ?)
(……うん、確かに、”裁き”は受けるな)
モリンに言いくるめられる形で、竜司郎はモリンの説得に乗ることにした。
「そんなわけだからチャコさん、ここはひとつ女神さまの顔を立てて、ね?」
「女神さまが相手じゃ、流石のチャコール様も譲るしかないか……。りゅうっちともりっちが裁かれたら乗り物スキル乗れないもんね」
紆余曲折あったものの、法的な側面からも、竜司郎とモリンは、何とか西風団の一行を説き伏せたのであった。
竜司郎は西風団が乗り込むのを確認し、ゴードン隊長と兵たちに手を振った。
「それじゃあ行ってきます」
「おう! 気を付けてな」
2tトラックは、ナビゲーションシステムの青~緑ゾーン、すなわち街道を軽快に走り出した。モリンとマリーナのオフロードバイクがやや遅れて走り出した。




