━━━案件37 魔導車召喚士と聖獣 週刊誌(?)に載る━━━
飛野竜司郎と聖獣モリンはめでたく銅三位の冒険者となった。
西風団のメンバーたちと、真新しい徽章を見せあいながら、竜司郎とモリンは、西風団と夕食を共にした。
だが一つ問題があった。
西風団最高ランクのルークは銀一位。次点でチャコとマーカスが銀二位。非常勤メンバーのマリーナでも銀三位である。そして竜司郎とモリンは最低ランクの銅三位。
冒険者パーティーの構成は三ランク以内、という規定があるのだ。これは仕事の難易度、危険度、経験の有無、実力の均衡による仕事率の最適化などを考慮に入れた規定である。
乗り物スキルによる実力は申し分ないものの、ギルド貢献度がゼロで、西風団のメンバーと階級が離れすぎている竜司郎とモリンでは西風団のパーティーに編成は許されていない。
「ご安心ください。丁度良い規定があります」
翌日、相談に乗ってくれたのはイルゼチーフだった。冷淡でお堅いイメージのわりに、面倒見はよさそうである。事実、西風団のメンバーも、相談相手に真っ先にイルゼを指名したのだ。長年の実績の賜物であろう。
冒険者ギルドに限らず、通常、下位階級の育成のため、上位階級──冒険者ギルドの場合は銀級──が在籍する班やグループやパーティーに下位階級──冒険者ギルドの場合は銅級──を編成し、実地経験を積ませる制度がある。
銀級の冒険者は単に階級が高いだけではない。自らも現場で動きつつ後進の育成も担う、プレイングマネージャーでもあるのだ。
(つまり、新入社員の俺は、ルークたち銀級の管理職について実務を学ぶ、異世界OJTってわけだ……)
竜司郎はフムフムと納得した。前世界でも、OS物流に入社したての頃は、代わる代わる先輩の横に乗って、あれやこれやと教わったのだ。
今にして思うと、敢えて専任の担当を決めずに色々な先輩ドライバーに横乗りさせられたのは、顔合わせの意味もあったのかもしれない。
しかし異世界で、教育水準も価値観も宗教観も違うであろう初見の冒険者グループに入れられるのは、竜司郎もモリンも、いささか気が引けた。それならば、短いながらも交流がある西風団に編成されるほうが、竜司郎としては願ったりかなったりである。
「へ~~ぇ、そんな規定あったんだ」
ルークはまるで初めて聞くような顔をした。銀一位のクセにこの体たらくは、もう一度ギルド規定をイルゼチーフにレクチャーされる必要がありそうだった。
「ルークは単独依頼も多いし、面倒なことは全部あたしとマーカスに振っちゃうじゃん! ホントは銀級ってのは後進の育成も指名で依頼が来る階級なんだよ」
「チャコさんのおっしゃる通りです。これを機会にルークさんも、後進の育成という実務を経験し、銀一位を名実にふさわしい階級としていただきたいものです」
「いや、育成っていっても、俺銀一位だけどまだ21歳だぜ。」
自慢ともとれるルークの発言に、イルゼが補足する。
「西風団のメンバーは実力と階級の割りにお若く、後進の育成という観点ではいささか荷が勝ちすぎると判断し、当ギルドも西風団にはあまり育成業務を依頼してこなかったのです。年嵩の冒険者の中には、若造に指図されるのを嫌がる方もおられますし」
「あ~~……まぁね」
チャコは覚えがあるのか、実がある同意を示す。イルゼはさらに続ける。
「さらに申し上げますと、ルークさんの直情的で感覚的な性格や感性は、お世辞にも育成者に向いたものではございません。さらにさらに申し上げますと、過去の悪童ぶりを知っている父母なら、我が子を預けたいとは思わないでしょう」
「…………」
ルークは不満顔だが全くその通りなので言い返しようもない。イルゼは少し笑ったようだった。
「……ですが、こちらの飛野竜司郎さんとモリンさんなら、気心も知れているようですし、ロナーシア情報会の情報から推察しても、西風団と伍して仕事をこなしてくださることは疑いないでしょう」
「ロナーシア情報会ってなんスか?」
モリンが身を乗り出した。情報会という字面からして、報道機関かなにかだろうか。
「ロナーシアで情報に値段をつけて売買している、総合情報屋です。主にロナーシアと近辺の最新情報から、皇都の情報まで幅広く扱う情報誌を発行しているのです」
イルゼの説明に、ルークが呆れた口調を合わせた。
「ただのスキャンダル屋だよ。皇都の金持ちお嬢が誰それといい仲だとか、イケメン舞台俳優が不倫だとか知らねえっての」
「違うよ! 皇都のトレンドを発信してくれる新聞だよ!」
どうやらチャコは件の情報会の情報誌をソースに皇都のトレンドを入手しているらしい。
「情報自体はまずまず正確なんですが、いかんせん内容がセンセーショナルなものに偏りがちで、信頼できる情報誌と言われると疑問符ですね」
どうもマーカスの論評が一番実情に近そうだった。異世界でもやはりゴシップは庶民の気を引く鉄板ネタのようであった。
「どうも噂だけじゃ、俺たちの話が広がりすぎてると思ったら、そんなのがあったんですね」
合点がいった竜司郎の手元に、マリーナが、ブース席の近くのサイドテーブルに置かれていた赤い綴り紐の冊子を持ってきた。
「見て。早速、竜司郎さんとモリンくんのこと、嗅ぎつけて来たみたい」
マリーナもあまり好意的ではない印象だ。フィーズ教会南町支部の器量佳しは、マシウスとルミーナとルークが本格的に追っ払ってくれるまで、定期的な取材にうんざりしていたのだ。
表紙には「ロナーシア通信」というタイトルと……
「魔導車召喚士フィーノ、聖獣とともに現れる!」
大きな見出しの下に、思ったより正確に描かれたフォークリフトと、いまいち不正確なタヌキのイラストが描かれていた。
(週刊誌っスね……)
(うん、新聞じゃなくて、週刊誌だな……)
げんなりとする竜司郎。俺は飛野だし、召喚士でもないぞ、と、情報のソースを問いただしたい竜司郎だった。第一、本人に同意も取材もなしに記事にするかよフツー。
しかしモリンはイラストの不出来には不満そうでも、週刊誌への掲載はまんざらでもなさそうだった。またおかしな気を起こさなければいいが……。
「……コホン。ともかく、竜司郎さんとモリンさんは、最低でも三か月、最大でも六か月は、育成目的で西風団のメンバーと行動を共にすることができます」
イルゼは手早く書類をまとめ、西風団の構成メンバーを刷新した。その書類を、カウンターのわきに備え付けられた石板に置く。スキャナーのような魔力の光が一往復すると、魔法による記憶装置、マナネットレコードに記録されるのだ。
「その間にできるだけ貢献度を稼ぎ、少しでも階級を上げることが出来れば、西風団の方々とも正式なパーティーを編成できるでしょう」
「おお! さすがイルゼチーフ! 頼りになるぜ!」
「ただし、最大でも半年ですよルークさん。それ以上は如何に貢献度の高い西風団といえども、規定を超えた編成は許されません」
「大丈夫だよ。竜司郎とモリンなら、あっという間に銀三位さ! な?」
「いや~~どうかなあ~~……」
「鋭意努力いたしまッス! リーダールークさん、以後、万事万端よろしくお頼みもうしまッス」
対称的な一人と一匹に、西風団は笑った。イルゼも笑った。
「早速ですが、竜司郎さん、モリンさん。パーティーメンバ―としてあなた方の事をもっと知り、作戦行動の参考にしたいと思います。つきましてはあなた方が所有しているスキルにつきまして、実演! 込みで、我らにお教えいただきたく……」
パーティー編成が終わるや否や、グイグイ来るマーカス。言葉はそれなりに飾っているが、竜司郎とモリンの乗り物スキルが見たくて仕方がないのだダダ洩れだった。
「……え? 俺たちが教わるんじゃないの?」
銅三位の竜司郎とモリンは銀級の冒険者にスキルを教えることになった。




