━━━案件24 三鑑定の儀はお立ち台の上で━━━
ロナーシアの西壁門は、町の人々でごった返していた。
そろそろ日も傾くころ、通常なら駆け足で入門手続きに向かう旅人や、野外での仕事を終えた冒険者たちが、ぽつぽつと門へ集まる程度の時刻である。
モリンは聖獣というステータスと、愛嬌たっぷりの対応で早くも大人気である。
一方、聖獣モリンの御主人、飛野竜司郎は現在の所”聖獣の契約者”という立ち位置で、ありていに言えば聖獣のオマケである。
これは”聖獣が契約者を導き、契約者を聖者と成す”フィーズ教の神話に基づくものである。そして聖者とは、マシウスがルークに語ったように、大いなる功績と、民草の支持と、皇族の認証を必要とする。
現状、竜司郎はそのいずれも持ち合わせていない以上、聖獣のオマケ扱いも止むを得ないところであった。
そうはいっても、竜司郎の転生事情を知らないロナーシアの人々にとって、飛野竜司郎は、東方帝国から来た希少なスキルを操る、野趣あふれる精悍な顔立ちのいい男なのである。
そして声をかけてくる町人たちとの挨拶は、日本生まれ日本育ちで培った、誠実で飾らない竜司郎らしい対応で、”聖獣の契約者”ではなく、飛野竜司郎という人物に関して、町人たちの印象は上々であった。
「まさか生きている間に聖獣さんにお目にかかれるとは……」
「聖獣さんの契約者さんも、いい男じゃないか」
「森をさまよってるところを巡礼帰りのマシウス先生一行に助けられたとか」
「マシウス先生は、また大きな徳を積まれましたなあ」
「それにしても、なんともまぁとんでもないスキルじゃありませんか」
「なんでも馬と一緒に走りながらロナーシアにやってきたそうな」
「じゃあ伯爵様とっておきの魔導車と同じって事かい?」
「それを魔法で編んでるってんだから驚きってもんよ」
「へええ……それじゃあ契約者のヒノさんは魔術師なの?」
先行したルークとチャコがマシウスの指示通り、集まった町人たちに”希少なスキルを持つ聖獣と、聖獣の契約者”の事前情報を語っていたのである。ただしチャコの語りに関しては、多少の誇張や尾ひれがあったことは否まれないが。
ともかく、そのおかげでロナーシアの町人たちは、竜司郎の魔導車スキルに不安や恐怖を煽られることなく、ごく自然に竜司郎とモリンを受け入れていったのである。
「町人たちと顔合わせは済んだかな?」
竜司郎の背後から太い声がした。マシウスと、上背はないが体格のよい中年男性が並んでいた。日焼けした肌と頬髭が特徴の西壁区警備隊長ゴードンである。
「飛野竜司郎殿だな。このあたりの警備を任されてるゴードンだ。マシウス先生からあらかたの事情は聞いている」
「お手数をおかけしたようで、ありがとうございますゴードン隊長。飛野竜司郎と言います。よろしくお願いします」
竜司郎は握手を求め、ゴードンは握った手を豪快に振って豪快に笑った。叩き上げ然としたその所作は、竜司郎にどこか懐かしい感情を抱かせた。
マシウスの書簡の的確さもあろうが、マシウスの意思に的確に応え、衛兵たちを統率し、町人たちを引率する様子は、警備隊長として十分な力量の持ち主と推察された。
「マシウス先生の言う通り、いい男じゃないか。さすが聖獣の契約者だな!」
ゴードンの言葉は竜司郎の外見と内面双方に対しての評価である。マシウスからの情報と、実際に竜司郎の町人たちへの対応を見た上で、ゴードンは竜司郎に好感を抱いたのだった。
「さ、色々聞きたい話もありますが先生、とっとと三鑑定の儀を済ませちまいましょう。門限もありますし、集まってくれた町人たちを待たせすぎるのもよくない」
「そうですね。それにしても、あの短期間でよくぞここまで大勢の方に声をかけてくださいました」
「なに、マシウス先生が積まれた徳を慕って、皆ここに集まってきておるのですよ」
(……ん? 三鑑定の儀はゴードン隊長立ち合いじゃなかったでしたっけ、マシウス先生?)
竜司郎は話が妙な方向にいきかけていることに引っかかった。大勢の方に声をかけて……? 集まってくれた町人たち……?
そこへマリーナがモリンを伴ってやってきた。マリーナは片手に飾り枠が描かれた羊皮紙を、もう片方の手に御機嫌のモリンを抱えていた。
「お待たせお父さん。モリンくんの挨拶が忙しくって……。魔導契約書はこれでいい?」
「上出来だよマリーナ。……それじゃあ竜司郎さん、モリンさん、あちらへ」
(……なに、あのステージ?)
マシウスが指示した先には、いくつかの木箱を並べて組んだ簡易なステージが設置されていた。
木箱には絨毯が敷かれ、香が焚かれ、ロナーシアの人々が周りに集まっていた。その表情は主役の登壇を待つ観客のそれである。期待の目線が竜司郎の心をざわつかせた。
「マシウス先生、まさか、あそこで三鑑定の儀を……」
「そうですよ竜司郎さん。三鑑定の儀は大いなる載徳です。大勢の方に竜司郎さんの徳を照覧いただくことで、竜司郎さんは一層町の方々の信頼を得られます。そして町の方々は載徳と幸運にあやかれる、というわけです」
「い、いや……俺、ああいうの苦手で……」
「いいじゃないッスか御主人! 爆上がりした私たちの好感度を、もう一声爆上げするチャンスッスよ!」
町人たちに愛嬌を振りまき、たっぷりと載徳に浴したモリンは上機嫌で御主人を煽る。何か言い返そうとした竜司郎に先んじて、追撃とばかりに竜司郎の左右から声がかかった。
「ホラ、りゅうっち! 早く鑑定してもらわないと、町に入れないよ!」
「竜司郎さんは聖獣の契約者なのですから、鑑定は三つとも翠玉光(善き判定の時に現れる光)なのは明白です。尻込みするにはおよびませんよ」
「いや~~三鑑定の儀をみるの久しぶりだから楽しみだぜリュウ!」
声の主たちは言うまでもない。竜司郎はまたしても孤立無援で追い詰められていた。
「さ、竜司郎さん、みんな待ってますよ!」
マリーナが文字通り竜司郎の背中を押して、ステージへと引導を渡す。モリンは既にステージに上がり、前説のように観客たちに笑顔と愛嬌を振りまいていた。
「マ、マリーナさん! マリーナさんも、もしかして楽しんでません?」
「ううん! 全然!」
マリーナは即答した。明らかに楽しんでいるマリーナ。これも載徳というやつなのか。




