━━━案件22 竜司郎&モリン 外見のアプデを確認する━━━
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今回、竜司郎の古傷に関しての描写があります。
巡礼団一行は、ロナ川のほとりで休憩していた。人ではなく、主に襲歩で走らせた馬を休ませるためである。
馬に水と草を与えながら、交わす話題はもちろん竜司郎のトラックスキルについてで、馬の襲歩と並ぶその速さ、馬車を積載できる大きさ、にもかかわらず走行時の安定感……。話は尽きない。
「……それはもう、風のような速さで、それでいてあの大きな箱が馬車を微動だにせず、ピタリと安定して乗せたまま走行するのですから……」
特にマーカスの熱弁は止まらない。
実際にトラックに搭乗し、魔術師としての視点から竜司郎のスキルを観察すればするほど、マーカスは次々と魔術的な未知のメカニズムと、芸術的な魔法紋の挙動を、文字通り浴びることができるのだ。
ある意味、マーカスはこの世界の魔術師の中で一、二を争う幸福な体験をしているのかもしれなかった。
「分かった! 分かったから! とりあえず一旦落ち着けって!」
ルークはチャコが作った特製の蜂蜜レモン湯をマーカスに手渡した。これでとりあえず口をふさがなければ、冗談ではなく、ロナーシアの町に辿り着く時間がなくなってしまうかもしれなかったのだ。
(これさえなけりゃ、知的で沈着で、魔術師としての腕も将来性も一流なんだがなぁ……)
ルークは小声で竜司郎にささやいた。竜司郎としては、ついさっきマーカスの熱弁に助けられたばかりである。苦笑いしつつも、加熱しない程度には、拝聴しておきたいものであった。
「はい、りゅうっち! こっちがもりっちの分ね」
チャコが特製の蜂蜜レモン湯を渡してきた。竜司郎用の大きなゴブレットを左手で受け取ろうとした竜司郎は、はた、と手を止めた。
「……?」
「ああ、いや、どうもありがとう」
竜司郎の左親指は、大森建設時代に、鋼管の束をトラッククレーンで吊った時、スリングベルトの締め付けで鋼管が絞られ、その拍子に鋼管の束に添えていた親指が挟まれたのだ。
以来右手の親指の爪は歪んで生えていたのが、嘘のように奇麗に治っていたのだ。
(親指の爪が、治ってる……)
竜司郎は何か思いついたように立ち上がり、ゴブレットをわきに置くと、モリンを小脇に抱えて川のそばの灌木林へと歩き出した。
「ちょっと……どこいくんスか御主人?」
「あ……っと、お手洗いに……」
「待って竜司郎さん。お手洗いなら、これを持って行って」
マリーナから渡されたのは銀色の鎖に結びつけられた赤い宝石だった。竜司郎は急いで付与記憶の中から石の情報を読み取った。
「ええっと……警鐘石だっけ?」
「そう。使い方は……記憶喪失してない?」
「してない。大丈夫。ありがとう」
警鐘石とは、契約呪文でペアとなった石同士が、使用者の魔力に感応して音と光を発し、それぞれの所持者に警告を知らせる宝石である。
一時的にパーティーを分散する時や、今回のような生理現象の時に使用される冒険者の必須アイテムなのだ。
警告を知らせるための魔力はわずかでいい。そしてマリーナから渡された大きさの警鐘石は、効果範囲は60mであった。
「でも、なんでモリンくんまでつれていくの?」
「さぁ……」
マリーナとチャコは不思議そうに顔を見合わせた。マシウスとルークはちらりと視線を交わしてわずかに頷いた。男同士のコミュニケーションであろうとの結論だった。
灌木林に入り、巡礼団から身体を隠した竜司郎は、カーゴパンツの左裾をまくり上げた。
思った通りだった。
鋼管埋設作業の時、掘削した管路の土留めに使っていた矢板が転倒して角がぶつかり、六針縫った脹脛の裂傷。その古傷も、親指同様にすっかり綺麗になっていた。それどころか……。
「……足が長くなってないか?」
「え? どういうことッスか御主人?」
「古傷が治ってる。それどころか俺の体がなんかおかしい……」
「え? え……?」
竜司郎はキャビン収納スペースからタブレットを取り出した。カメラアプリを起動し、レンズを自分に向ける。
タブレットをのぞき込むと、均整の取れた野趣あふれる精悍な顔立ちの若者が、自らの顔を見て驚愕する表情が映し出されていた。
そのうえ鏡に映る野趣あふれる精悍な顔立ちの若者の肌のハリと色つやは、どう見ても三十路を超えた男のものではなく、精々二十歳かそこらの若者のそれだった。
「男前になってる……。しかも若返って、スタイルもよくなってる……」
転生直後、身体を動かし始めてから定期的に感じていた違和感の正体が判明した。
タブレットをためつすがめつする竜司郎の足元からモリンの呆れた声が聞こえた。
「……何言ってんスか御主人」
「いや、本当だって。元の俺は……こう、顔も体型ももっと色々バランスが悪くて、それを画像編集ソフトかAIを使って、元の素材を生かして補正したような……」
「冗談は転生だけにしてくださいよ」
「俺が男前になったんだぞ。お前だってイケメンになってるかもしれないだろ。お前も自分の姿を見てみろよ」
「またまたぁ……狸の容姿にイケメンとかブサメンとか、人間ほど差があるわけなじゃないッスか……」
竜司郎はしゃがんでモリンの前にタブレットを置いてカメラに映してやると、モリンは目を見開いた。
「プリティになってます……。しかも若返って、スタイルもよくなってます……」
「マジかよ」
「マジッス。元の私は……こう、顔も体型ももっと色々バランスが悪くて、それを画像編集ソフトかAIを使って、元の素材を生かして補正したような……」
「聞き覚えのあるセリフだな、えぇおい?」
どうやら揃って外見をアップデートされた一人と一匹は顔を見合わせた。トラックや重機、バイクやアイテムだけでなく、外見も異世界仕様となっていたのだ。
「け、けど、下方修正ならともかく、これは間違いなく上方修正なんスから、ここはありがたく女神様の采配に感謝しましょうよ」
いち早く驚愕から抜け出したモリン。それは、そうなんだが、と納得したいが納得できない様子の竜司郎。
「どうもしっくりこないなあ……。こりゃ慣れるまでが大変だぞ。まあ古傷の回復に関しては素直に感謝しておくか……」
野趣あふれる精悍な顔立ちの、ハリのある肌をなでながら、竜司郎はまだタブレットを上に下にとせわしなく動かしていた。




