━━━案件20 4tトラックの席決めは早い者順━━━
馬車を積みこむ作業は、馬車の幌を分解する作業の十分の一にも満たない時間で完了した。
魔導フォークリフト操作感覚と静穏性はどちらかというと、電気式のフォークリフトに似ていた。
チルトの角度変更、マストの上げ下げ、ハンドルの回転、レバーの感覚。全てがスムーズで機械特有の引っかかりもなく、展開した竜士郎自身が感心するほどであった。
竜司郎はゴーグルのガイドに従い馬車の重心を見極め、フォークリフトの爪を差し込む。竜司郎の経験則による重心の見極めと、ゴーグルのガイドはピタリ一致していた。
二本の爪を馬車の下部につけ、ゆっくりとマストを上げる。フォークリフトは軽々と馬車を持ち上げ、馬車の積載位置はモリンが荷台の上で誘導する。馬車はピタリ4tトラックの荷台中央に納まった。
おお、という巡礼団一行のどよめきが終わるや否やの間に、馬車はあっさりと荷台の中央へ積み込まれてしまった。
「おーけー! 積み込み完了です」
竜司郎は事も無げにフォークリフトから降りると、キャノピーに掌を当てフォークリフトの格納を開始した。
くすんたクリアパーツが面を消失し、線画だけになり、フォークリフトを描く光線が急速に竜司郎の掌に吸い込まれていった。
このようにして正しい手段で形象化魔法を格納すれば、形象化に使用されていた魔力は術者に戻り、魔素として体内に還元される。
モリンが崖から転落した時に一時的な不調に陥ったのは、無理を強いて魔導バイクを変形させたうえ、魔導バイクを正しく格納できず霧散させてしまったからである。
魔導車両の形象化は、形象化に必要な魔力は膨大な一方で、適切に運用すれば消費魔力自体はそこまで膨大というわけでもないのだった。
「いまさらだが、ホントにでたらめだなリュウの魔法は」
ルークはさっきまでフォークリフトがあった場所を見つめていた。ウンウンと隣でチャコが頷く。
二頭立ての馬車を軽々と積み込んだ仕事もさることながら、武骨で堅牢で、馬車を軽々持ち上げる四輪車が、草と土に轍だけを残して、まったく存在を消失してしまったのも驚嘆だった。
「いや……まだ記憶があいまいで、思い出せるスキルから使ってるだけだよ」
「まだスキルがあるのですか!」
食い気味のマーカスに竜司郎はビクッとなる。
「そ、そのうち披露するから……今回はこの辺で……な!」
「そうッスよマーカスさん! ロナーシアで落ち着いたら、御主人が一席でも二席でも設けますから……」
「俺かよ!」
「だってタヌキじゃ三ツ星レストラン予約できないッスもん」
「三ツ星レストランかよ!」
「あ! 三ツ星レストランならあたしたちも参加決定!」
チャコがルークとマリーナの腕を取って同盟を組んだ。
「三ツ星レストランじゃないけど竜司郎さん、ルーク兄さまの銀一位昇進記念で行った、海の幸山の幸亭がお勧めよ!」
マリーナが同盟強化とばかりにお勧めの店を宣言する。命名の儀からこの方、相変わらず竜司郎は孤軍奮闘である。
「あの……みなさん、会って間もない異邦人に遠慮なさすぎません……?」
奢る約束ばかりが増えていく竜司郎の背後から穏やかな声がした。
「三ツ星レストランはともかく、ここにいる人たちは、それだけ竜司郎さんとモリンさんの、人柄や載徳に共感しているのですよ。もちろん私もね」
マシウスは穏やかな所作でテントを解体していた。気づいたルークが慌てて手伝いに回る。竜司郎とモリンはもう一張りのテント解体に回った。
雑把に丸めたテントは、チャコの収納スキルに収められた。
今回の依頼は巡礼団の護衛で、ダンジョンの財宝も、現物報酬も、討伐した魔物の部位も詰め込まれておらず、チャコの収納スキルには魔力も収納余地も、まだまだ余裕があったのだ。
巡礼団は竜司郎の呼び掛けで集まった。出発前に大事な決議事項があるのだ。
「それじゃあトラックに乗る二人を決めたいので相談──」
「はいっっ!!」
「はいっ!」
フライング気味に挙手したのはマーカス。僅差でマリーナだった。ルークとチャコと、そしてマシウスは、挙げかけた手をそっと戻した。
4tトラックの席決めは、リフト作業の十分の一にも満たない時間で完了した。
竜司郎は当然のことながらトラックの運転席、マリーナが中央席、モリンがマリーナの膝上、マーカスが助手席、そしてマシウスとルークとチャコが三匹の馬に騎乗することになった。
隊列は竜司郎のトラックを中心に、運転席側にマシウス、助手席側にルーク、チャコという横隊を形成する。街道は右側通行で、対向者とすれ違う時にはマシウスが先頭、ルークとチャコが竜司郎のトラックの後方へつく。
他にもいくつか手信号を確認し合って、一行はそれぞれの魔導車と馬に乗り込んだ。
トラックに乗り込んだマリーナとマーカスを確認した竜司郎。異世界でも竜司郎の遵法精神は健在だった。
「じゃ、二人ともシートベルトよろしく!」
竜司郎がちょっと気取ってパチンっと指を鳴らすと、全ての席のシートベルトが自動的に伸び、着座した三人すべてに装着された。自らの魔力で形象化した魔導車ならではの操作だった。
「おぉ、素晴らしい……。竜司郎さん、これはもしもの時の安全帯ですか?」
「さすがマーカスさん。その通りです。魔導車に乗る時は、必ず装着してくださいね」
「分かりました……」
マーカスの語尾に(この安全帯にも魔法紋が……)という言葉が続いた気がしたが、竜司郎は敢えて無視した。無視できない動物が訴えかけてきたからである。
「ちょっ……御主人……ベルト!」
「モリン、お前……」
マリーナのシートベルトに、斜めに絞められてもがくモリンを、竜司郎は脱力しながらベルトを緩めて座り直させた。シートベルトなのにどうにも締まらない。
「本当に、あわてんぼうの御主人さんですねえ」
「ホントッスよね~~マリーナさん」
「……」
ジト目で計器の確認をする竜司郎の隣席で、モリンとマリーナは初めて体験する魔導車への期待でご機嫌だった。




