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━━━案件19 魔導車両のプレゼンテーション━━━

 

「……で、こちら側が運転席です。この丸いハンドルで方向を操作して、足元の右側のペダルを踏んで進む、その隣のペダルを踏んで停止、です。ペダルの操作は右足だけでおこないます」


 竜司郎は4tトラックのドアを開いて巡礼団一行を案内していた。一行は馬たちの動揺をおさめるとトラックに集まり、ようやく竜司郎の案内で、魔導車両への好奇心を満たせることになったのである。




 ……マーカスはそのまま放置されていた。現在彼はフォークリフトにへばりつき、魔法紋とその構造に釘付けである。




 ……正直なところ、古代文明の遺産とはいえ、この世界に似たような乗用車両があったことに、一人と一匹はいささかの落胆を禁じ得なかった。

 竜司郎とモリンにしてみれば、折角の特権的スキルのお披露目である。マーカスほどでなくても、異世界人のみなさんにはもう少し盛大なリアクションを期待していたのだ。


 マーカスにしても、リアクションは盛大で現在も絶賛進行形ではあるものの、彼の興奮と熱狂は車両ではなく魔法紋に注がれたものである。


 自分たちが付与された魔力関連のチートさについては十分なリアクションが得られたが、”男の子”の欲求としては、やはり車両の方に驚いてほしかったのだ。




「流行の馬車とは違った武骨なデザインがいいですね。馬車とは正反対の、このどっしりとした車輪の形状も、見た目にも安定感があって私好みです。マーカスくんが夢中になるわけです」


 フロントピラーをなでながら、マシウスが興味深げに眺めている。大人が鷹揚に理解を示す、といった社交辞令の様子はなく、本心からそのデザインを気に入っているようであった。

 チャコは早速、運転席に座り、魔導バイクのシート同様に忠実に再現された座席の弾力と手触りを楽しんでいた。


「魔法で編まれてるのに、ふっかふかなのスゴくない? それに、ガラスもめっちゃ透明で前に馬もいないから見えやすい!」


「うん、すごくよく見える! あ、ほら見てチャコ、そことここの鏡で横も見えるようになってるよ」


 助手席に座ったマリーナがダッシュボードに両手をついてフロントガラスごしにサイドミラーを見る。その前を、ルークが子供のような動作で、大きな体を身体を上下に屈伸しながら通り過ぎて行った。


 傍から見ると、子供の車を自動車ディーラーに買いに来た仲良しファミリーといった様子である。さしずめ竜司郎とモリンは自動車ディーラー店員といった役回りであろうか。




「荷台には俺の任意で荷物の出し入れが可能です。内部は疑似的な収納スキルのようになっていて、保存も可能です。荷物は荷台内部に充填された魔力によって固縛されますから、運転中も安心ですよ」


 竜司郎は、荷台上ではしゃぐルークとチャコを横目に、ローズウッド父娘に、付与記憶をカンペのようにして説明した。


 付与記憶は経験的な実感を伴って竜司郎の脳裏に定着している。しかし、やはり竜司郎が実際に身につけた記憶や経験とは違う、表現し難い違和感があった。

 この違和感を無くすには、付与記憶も反復し、実際にスキルも稼働して自分のものにしていく必要があると思われた。




「……で、リュウ。こっちは新手の攻城兵器か?」


 トラックへの興味を一通り満たすと、巡礼団一行はフォークリフトの周りに集まった。ルークがフォークリフトのマストを叩く。なるほど、二本のフォークを武器と見立てれば衝車のようにも見えた。


「こいつは荷物を掬って運ぶ機械だ。……こう、二本の爪を荷物の下に入れてだな……で、爪に乗せた荷物を……」


 竜司郎は両手をフォークリフトの爪に見立ててジャスチャーを交えながら説明する。腕組みしながら聞き入るルークの様子は、重機のプレゼンテーションを聞く土建屋の若手親方のそれである。


「へえぇ。クレーンみたいに吊るんじゃなくて、この爪を使って下から持ち上げるのね」


 マリーナがコンコンとフォークリフトの爪を叩く。

 そういえば前世界でも、クレーンを代表とした重機に該当する建設機械は古くから存在していたのだ。この世界が前世界に似た発展を遂げているのならばクレーンも存在し、稼働していることであろう。

 確かフォークリフトは比較的新しく、1900年代に入ってから開発されたのだったと竜司郎の記憶にあった。ということは竜司郎の所持スキル、トラッククレーンよりも、フォークリフトの方がこちらの世界では需要が高そうだった。


(なんだか多少ズレてるきもしますけど、みなさん私たちのスキルに興味津々なのでよしとしまッスかね)


 モリンはフォークリフトを使用した積み込みのため、意気揚々とフォークリフトの誘導を買って出ようかと思っていたのに、すっかり自動車ディーラーと化した丘の上を見て誘導棒を持て余していた。






 馬車の幌解体は、全員総出で作業したこともあり、三十分程度で完了した。後はトラックに積み込むだけである。


 フォークリフトに乗り込む前に、竜司郎はキャビン収納スペースから作業用ヘルメットを召喚した。


 バイク用ヘルメットは異世界仕様の戦士風にアレンジされていたのに、こちらはなぜか異世界仕様とはなっておらず、OS物流時代に支給された所謂アメリカンタイプの俗称で知られる作業用ヘルメットの形状そのままであった。


 デザインはそのままでも、異世界仕様らしいギミックは追加されていた。

 竜司郎の意思で、バイク用のジェット型ヘルメットに装備されているインナーバイザーに似たゴーグルが現れ、作業に関する様々なガイドを表示するのた。

 持ち上げる物体の重心、不安定な部材の存在、楊重に耐えられる箇所、耐えられない箇所、作業中、運搬中に発生する落下、接触の警告などである。


 もう一つの変更点は、Oの内側にSを描いたOS物流のロゴマークで、S部分が竜を模したデザインに変更されていたのだが、竜司郎は気が付かなかった。




「積み込み作業を開始します。日没前に城門まで到着しないと、町の外で一泊する羽目になるんですよね?」


「そうですね。口幅ったいですが、私はフィーズ教教会の教会主という立場です。ですから衛兵のみなさんは私の立場を慮って融通を聞かせてくれることでしょう。ですが、規範を示す側の私がそういった融通に甘えるわけにはまいりません」


 マシウスは教会主として、ギルドの定例会議にも招聘されるほどに、ロナーシアでは顔役だそうである。彼の立場を利用すれば、例え門限を過ぎていても、衛兵たちも下にも置かぬ対応でマシウスと、その一行を迎え入れるであろうことは想像に難くない。


 それを是としないマシウスの聖職者としても指導者としても模範的な姿勢は、竜司郎とモリンの好感を押し上げるのに十分だった。




「では、申し訳ないんスけどマシウス先生、御主人がフォークリフトを動かしますので、そろそろ……」


 モリンがチラリとフォークリフト後方を見た。マシウスはにこりと笑うと、フォークリフトの後部をいとおしげに撫でるマーカスの背中を軽く叩くように『鎮静』の魔法をかけた。


「……大地の精霊力を制御して重量を調整し持ち上げる荷物の重量とのバランスとる構造に……はっ! マ、マシウス先生!」


「マーカスさん、我々もそろそろ出発しなければなりません。竜司郎さんとは今後も友誼を深めることになるでしょう。続きは改めて、ロナーシアに帰ってからにしませんか?」


「……失礼しましたマシウス先生」


 多少の自覚はあるのだろう。マーカスはわずかに赤面しつつ、片眼鏡をクイっと直して頭を下げた。暴れる馬を鎮めた時と同じシチュエーションに、竜司郎とモリンは笑いをこらえた。



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