━━━案件17 4tトラック 1tフォークリフト 展開━━━
昼食の片づけは実に和やかに行われた。
竜司郎はモリンと正式契約し、巡礼団の一行は聖獣の命名の儀という僥倖に浴したことで、丘の上は比喩ではなく、本当に幸福な空気に満たされていた。
竜司郎は樽の水で洗った食器をチャコに手渡した。いくらゲスト扱いでも、食べるだけ、飲むだけ、というのは竜司郎の性に合わないのだ。
「御馳走様でした。美味しかった。マジで」
竜司郎はチャコをニッコリさせてから、モリンと一緒に馬車へ移動した。やはり、気になる。
「……御主人?」
竜司郎はキャビン収納スペースから5.5mのコンベックスを取り出した。
「モリン、サイズ測るから先っちょ持っててくれ」
「はいッサー」
竜司郎とモリンは、馬車のサイズを計測した。竜司郎は4tトラックスキルを使って運搬するつもりなのだ。計測の結果、幅はともかく車高は幌を含めて3m近いことが判明。思っていたより大型の馬車だ。
付与記憶によると、4t魔導トラックの荷台の高さは2m。となると、車輪を外すか、幌を畳むか……。
巡礼団の面々が集まってきた。近づいてきたマリーナはわずかな期待をのぞかせて尋ねた。
「どうしたの竜司郎さん。もしかして直せる?」
「残念ながら。だから運ぼうと思う。車輪か幌か、どっちか分解できる?」
「どっちの分解も手分けすればいけると思うけど、竜司郎さんの8立米級収納スキルじゃ入りきらないでしょう」
「俺のスキル、トラックスキルを使う」
「……とらっくスキル?」
マリーナが訝しむのも無理はない。
「俺たちが森から飛び出した時に乗ってた乗り物は、見えた?」
「うん、たしか二輪車のようなものに跨ってたような……」
「そう、それ。俺たちはその魔法で編まれた二輪車でゴブリンから逃げることができたんだ。アレの四輪車バージョンがトラックだ。そいつを展開する」
マリーナの「ええっ」っと驚く声が終わるやいなや食いついたのは、やはり魔法使いのマーカスだった。口調は冷静だったが、やや早口になっている。
「ほほう、魔法で編んだ魔導二輪車、とおっしゃいましたか。魔導二輪車の実物は私も見たことはありますが、あれを魔法で編むとは初耳です」
「……え? 魔導二輪車ってこの世界にあるんスか?」
モリンのポロリ発言に動揺した竜司郎は、表情筋を総動員して誤魔化した。顔面を不自然なほど固定したまま、速攻でタブレット経由のツッコミを入れる。
(……おまっ! この世界とかゆーな!)
(あ! め、面目ないッス……)
「アーク文明の発掘遺物のなかでも、大型の乗用遺物は珍しいですからね。知らないのも無理はありません。我々もアンセル伯爵が祭りの時にお披露目しているのを、何度か見かけた程度です」
マシウスが補足するように言った。マリーナも同意する。ただし、マーカス以外の面々は、伯爵秘蔵の魔導車を、遠目に見たことはあっても、触ったことも、ましてや乗ったこともなかった。
マーカスも、魔術師ギルドの合同研修会で魔導車の展示物を囲んで講義を受けたにとどまる。講義に使われ魔導車は、魔法紋が蒸散してしまった抜け殻のような代物で、運転はおろか起動すらできない状態だったのだ。
「もし俺のトラックスキルに馬車が積めるなら、今日のうちに町に帰れるかもしれません」
「「マジで!?」」
「マジで」
マリーナとチャコは期待で目を見開いた。竜司郎の発言どおりなら、今日中にロナーシアの銭湯に駆け込めるということだ。
ありがたいことにこの世界の住人は、生活魔法『浄化』の魔法で、陸の旅先でも、船の上でも清潔を保っていられる。無論マリーナもチャコも、転生時に魔法を付与された竜司郎も、モリンもだ。
ただマリーナもチャコも、できることなら単に清潔になるだけではなく、入浴で身体と心の澱の両方を洗い流したいのだ。欲求の大小はあれど、巡礼団の男性陣も、もちろん竜司郎も、モリンも同様である。
「一度張った天幕を畳まないといけないのは二度手間だけどね」
竜司郎は少し申し訳なさそうに言った。テルさんの友人グループとキャンプを楽しんでいた経験から、巡礼団が設営している二張りのテントの撤収は、それなりに骨が折れる作業であることは推察できたのである。
「それくらいなら大丈夫! 私も含めてみんな冒険者なんだから。テントの取り扱いなんてお茶の子さいさいよ!」
「いざとなったらテキトーに丸めて、とりあえずあたしの収納スキルにしまえばいいし!」
入浴の可能性を示唆されてから、マリーナとチャコはやけに押しが強い。ここは男と一匹、竜司郎&モリン。いいところを見せねばなるまい。
「それじゃあ、いっちょ頑張ってみましょうか」
そう言って竜司郎は、馬車と馬から少し離れ、両掌を開き、両手で大きな球を抱えるようなポーズを取った。
「みなさん、展開するトラックとフォークリフトは結構でかいんで、安全なところまで退避お願いしまッス」
モリンがいつの間にか白いヘルメットと誘導棒を取り出して、巡礼団を誘導した。
竜司郎はゆっくりと、深く、息を吸い込むと。意識を両の掌へ集中した────
青白い光球が竜司郎の両手に現れた。それはすさまじい魔力の集積体で、光球が現れた瞬間、集積し損ねた魔力が、ぶわりと突風のように竜司郎の周囲に拡散した。
息を吞む一同。
ややあって驚愕を隠し切れないマーカスが半ば恐怖を感じるような口調でつぶやいた……。
「竜司郎さんの光球……並の魔術師が、自らの魔素を全て魔力に変換しても、あれだけの魔力にはなりません……それを両掌で同時に展開するなんて……」
「なっ────」
言葉もない一同。
魔力の量だけではない。魔術師が一度に体内魔素の全てを魔力に変換してしまえば、魔術師の心身にかかる負担は想像を絶する。竜司郎が集積した両掌の魔力は、それぞれが一人分かそれ以上。
それを特に苦も無く集積しているのだから、異世界の住人が言葉を失うのも無理はない。
実はモリンもその膨大な魔力の圧に驚いていた。モリン自身がバイクスキルを展開した時に使用した魔力量とは比較にならないのだ。
そもそも展開するサイズが違うから当然と言えば当然。トラック、重機の展開にはそれだけ多くの魔素を集積し、膨大な魔力に変換する必要があるのだった。
竜司郎は静かに呼吸を整えた。
体内魔素の魔力変換も、魔力の集積も、トラック、重機の形象化も、付与記憶で分かっている。一度モリンのバイクスキルの展開も見ているのだ。間違うことはない。
『4tトラックスキル───展開!』
集積された右手の魔力から一斉に光線が展開する。光線は中空に瞬く間に線画を描く。線画は次々と閉じられトラックのパーツを形成し────
全長8m、幅2.5m、2.7mの魔導トラックが出現した。
形状は箱トラック。ボディは視線の通らない半透明のパーツ。荷台の箱部分は透けて見える仕様で、使用者の意思如何で人や荷物の出し入れが可能なのである。
そして、やはりというべきか、トラックのデザインも、モリンのオフロードバイク同様に骨太で、スチームパンク仕様のデザインにアレンジされていた。
「おおぉ……」
「なに……これ……」
ルークはのけぞり、チャコはよろめいてルークに支えられる格好となった。竜司郎は展開したトラックが巡礼団に接触していないことを確認すると、今度は左手の魔力に意識を込めた。
『1tフォークリフト───展開!』
竜司郎は続けて左手の魔力を開放する。再び膨大な魔力が一斉に線画を描き始め、武骨なカウンター式フォークリフトの骨格を描き出した。
トラックスキルと重機スキルは同時展開が可能なのである。この同時展開によって、魔導トラックを展開しつつ、魔導重機を利用して荷物の集積が可能になるのだ。
竜司郎とモリンの形象化魔法は、付与された膨大な魔素と魔力生成スキルあってこそ可能な特権的スキルなのである。
「すごい……魔法紋で形成された魔導車が、二台も……」
マーカスは、神の威光に打たれたかのようにその場にへたり込んでいた。魔法を専門とする彼は、他の巡礼団よりもより深く、竜司郎の形象化魔法の凄まじさを実感していた。
……しかし、その顔は、竜司郎を案内した時の、やり手ビジネスマン然とした面影ではなく、推しのアイドルと差し向かいで出会えたような、熱っぽい高揚感で満たされていた。




