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━━━案件122 ロナーシア 海竜に騒然とする━━

昨日は、メールの不具合と、当方の事前対応が遅れ、投稿が出来ず申し訳ありませんでした。

 

 西風団は、知り合いの冒険者たちに疲れ果てた身体を支えられながら、冒険者ギルドへと帰って行った。


 そして竜司郎とモリンとマリーナも、マシウスとご近所さんに連れられて、フィーズ教会に帰宅した。


 ご近所さんは、疲労困憊の彼らに気を使ったのか、フィーズ教会南支部の門前で早々に退散した。大海原で彼らが成し遂げた武勇伝は、明日以降のお楽しみと相成ったのである。




 マリーナは、母ルミーナと子供たちに、どうにかこうにか無事な帰還を報告した。


 ルミーナは、マリーナの帰りを喜ぶ子供たちに、マリーナを休ませてあげるよう言い聞かせると、そのまま娘を自室へと連れて行った。


 竜司郎とモリンもほとんど似たようなもので、ルミーナと子供たちに挨拶を交わすと、ふらつく足取りで寄宿舎に戻り、竜司郎はベッドで、モリンはデリオ職長特注のケージで、深い眠りについてしまった。






 彼らがようやく眠りの神に身を委ねたその間にも、ロナーシアでは時は進む。






 アンセル伯爵は、それに先立って届けられたセリーネとリルヴィアの報告書に目を通すや否や、即座に伯爵麾下の海軍を動員することを決定し、出動準備を命じていた。


 緊急会議の開催と議場が決定されたのも、この報告がもたらされた場でのことであった。


 彼は福々しい容姿に似合わず、領主貴族の間では、やり手の領主としてつとに知られている。それは平時における優れた行政手腕だけでなく、有事における敢然とした判断力にも表れていた。




 メルクス商会とロナーシア情報会。情報の出どころは信頼できる。そしてその情報は早期の決断と実行を必要とする内容なのである。


 海竜の角の調査結果を気長に待ったり、呑気に報告を聞くだけの会議などを開く必要を、彼は認めなかったのだ。




 家令たちは「流石はアンセル伯爵様だ」と頷き合った。早速、武官と文官とギルドへ、使いを走らせる。


 武官も文官も、そしてギルドの首脳部も、アンセル伯爵の果断ぶりをよく知っていた。領主が決断を下した以上、求められるのは、それに応える迅速な行動である。


 セリーネとリルヴィアの報告を受けた一部の組織には、家令の使いが到着する前に、すでに伯爵の意図を予測して動き始めているところもあったのである。






 ロナーシアの主要組織は、夜を徹して海竜対策へ邁進していた。






 フィーズ教会南支部に冒険者ギルドから早馬が来たのは、翌日の九時ごろである。


 さすがのマリーナも、今日は朝のディフォード戦闘術演武には参加せず、少し遅めの起床であった。


 一方竜司郎は見事に寝坊し、また今回は、モリンも寝坊してしまい、御主人ともどもマリーナに起こされることになったのである。


 朝食に起きてこないほどに睡眠をとる竜司郎とモリンを、マリーナは一度起こそうとしたのだが、ルミーナは彼らを眠らせてあげるよう気を使ったのだ。


 が、早馬が来たとなればそのまま眠らせておく、というわけにもいかない。早馬の目的は、竜司郎とモリン、そしてマリーナなのだから。




「いや、マリーナさん、申し訳ない……」


「申し訳ないッス……」


 ウエスタンシャツをズボンに入れ、寝癖を無理やりなでつけ、最低限、人と会う体裁を整えた竜司郎。


 前足、後足の届く範囲で、御主人を真似て寝癖を直したモリン。フィーズ教会南支部の居候二人組は、言葉通り申し訳なさそうに寄宿舎の扉を開けた。


 扉の前には対照的に、航海の疲れと睡眠への未練を少しも感じさせない、シャキッとした姿のマリーナ。


 不甲斐ない寝起き姿を見せる主従に呆れつつも、マリーナはモリンを抱きかかえ、竜司郎の手を引いて教会へと連れだしたのであった。






 早馬はアンセル伯爵の海軍動員の決定と、ベアートリクス号で海竜戦に参加した全員を招集した緊急会議の決定を伝えて来た。


 つまり早馬は、竜司郎とモリン、そしてマリーナに、緊急会議への参加を要請するものであった。


 会議の開催時刻は本日の午後一時。アンセル伯爵が主催する招集である。断るわけにはいかないし、断るつもりもなかった。


 竜司郎とモリンは、頭に残った僅かな睡魔を追い払うと、彼らなりに表情を引き締めた。






 午前十時半。


 竜司郎とモリン、そしてマリーナは冒険者ギルドにやってきた。


 一階の総合ホールは騒然としていた。席のほとんどは埋まっていて、冒険者だけでなくロナーシアの市民たちも、情報を求めて冒険者ギルドにやってきたようであった。


 冒険者ギルド職員は、どうやらほぼ総出で対応にあたっているらしく、職員の数はいつもの二倍、いや三倍近い。




「おはようございます。お待ちしておりました、皆さま」


 二人と一匹が正面玄関をくぐるなり、壁際のクローク前で待ち構えていたイルゼが一礼した。彼女の背後には冒険者ギルド職員の若手が四人、控えている。




 ホールのざわめきと視線が正面玄関に集中する。海竜遭遇戦の当事者から直接情報を聞き出そうと、彼らは待ち構えていたのだ。


 しかし、冒険者や市民たちが、竜司郎、モリン、マリーナを取り囲む前に、イルゼと職員たちが素早く竜司郎たちを取り囲み、周囲との間に壁を作った。その手際と、有無を言わさぬイルゼの視線に、冒険者や市民たちの動きが止まる。




「イルゼさん……?」


「現在当ギルドは御覧の通りの状況です。海竜遭遇戦の当事者たる皆さまをお守りするため、こうしてお待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 竜司郎たちを先導するイルゼの圧力に、総合ホールの客たちは聖者が海を割るように左右に分かれた。




「本当に、海竜と戦って帰ってきたのか……」


「間違いない。昨日、俺はルークと一緒にここへ帰ったんだ。その時、海竜の角だっていう長物も見せてもらったんだ」


「海竜の角って……マジかよ」


「海竜と言ったら金級冒険者か、海軍が相手するレベルだろ……」


「だから上の連中は大慌てよ。伯爵からのお声がかりもあったとか何とか」


「……待てよ、確かフィーノと聖獣は銅二級のはずだろ」


「そいつらが海竜と戦って帰ってきたから驚いてるんじゃねえかよ」




 遠巻きに視線を集める竜司郎は落ち着かない。まるで記者や野次馬からSPに守られる、トレンディ俳優か大物政治家のようである。


 竜司郎は彼らと視線を合わせないよう、オープン席の卓上に視線を移した。そこには……




「西風団、海竜と遭遇す!」


「メルクス商会の商船、無事帰還!」


「全員生存! 奇跡の生還!」




 ロナーシア通信の朝刊。その煽り文句が竜司郎の目に飛び込んできた。その煽り文句には、妙に覚えのある調子があった。


 竜司郎の視線と態度にモリンもマリーナも気づく。そして揃って目を見開いた。あの朝刊の煽り文を書いた主と、彼らはつい先日まで一緒だったのだ。




(マジかよリルヴィアさん……)


(まさか、港から帰ったあの後に原稿上げる仕事したって言うの……?)


(どういうバイタリティしてるんッスか、リルヴィアさん……)




 リルヴィアの人間離れした体力と精神力にビビる二人と一匹。


 昨日、命からがら帰ってきたばかりだというのに、今朝にはもう新聞となって町中に広まっている。それでギルドはこんなにも大忙しなのだ。


 前世界ではテレビやネット越しに眺めるばかりだった報道の力を、竜司郎は異世界で初めて我が事として実感したのである。




 イルゼは、そんな彼らを粛々と二階へ案内した。



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