━━━案件112 攻撃担当ルーク 防御担当マリーナ━━━
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今回、大海蛇との戦闘シーンにて「残酷な描写あり」に該当する描写があります。
「とにかく大海蛇を船に突進させない。これが最優先事項だ」
水上バイクを並走させながら、ルークが竜司郎とマーカスが乗る水上バイクに声をかけた。竜司郎とマーカスが同時に頷く。
「……やはり最初から全力で攻撃した方がよかったのではないですか?」
マーカスが冷静に言った。非難する語調ではない。ただ、多少の口惜しさは含まれていた。
「ああ……。ちょっと色気を出しちまったかもなあ」
色気というのは、なるべく傷をつけずに討伐し、依頼報酬に加えた追加報酬として大海蛇を持ち帰ろう、という案があったのだ。
大海蛇の肉と臓器は珍味として、鱗と骨は工芸材料として、皮は伸縮性に優れた素材として需要があった。それらを持ち帰って売却するつもりなら、できるだけ損傷の少ない状態で仕留める必要があった。
ルークが強化した剛槍で斬り刻んでしまえば、素材の価値は落ちる。マーカスが強化した火投槍で焼き尽くしてしまっても同じことだ。
つまり、二人は最初から全力を出し切っていたわけではない。素材の価値を残すため、ある程度は手加減していたのだ。
「けど、必殺技をいきなり放っても、万全の相手なら躱されるたり防がれたりする恐れがあるだろう? 二匹に増えたんなら、その分、取り分が増えたと考えればいい。正攻法で倒して、都合一匹分の素材を回収できれば上々じゃないか?」
竜司郎が言った。
特撮ヒーローの必殺技もそうだ。ここぞという大技は、相手を弱らせて、手の内を暴いた上で、「必殺」のタイミングで放つ「技」であるから必殺技たりうるのだ。
最初から大技を繰り出したとしても、必ず仕留められるとは限らないのだ。
「…………」
「…………」
「……どした?」
「……いや、リュウって冒険者としてはド素人同然なのに、時々そうやって分かってることを言うよな?」
「俺だって無為に人生送ってきたわけじゃないからな。道は違っても、それなりの経験を積んでいれば、似たような境地に辿り着くはずさ」
竜司郎は、またしても外見と内面のちぐはぐさを指摘された。だが、意外にも慌てることはなかった。
大海蛇との遭遇による恐怖がひとまず落ち着き、目の前の状況を冷静に考える余裕が戻ってきたのかもしれない。
「……ともかく、仕切り直しです。竜司郎さん、船からの誤射にだけは気を付けてください」
マーカスは言った。口調はいつもどおり冷静だが、口に出したことと、口に出したいことが別なようで、まだ何か言いたいことがあるようにも聞こえた。
竜司郎の言動に感じる違和感。その理由をもう少し探り、彼の秘密に近づきたいというのは、今のところ、マーカス個人の興味にすぎない。
少なくとも、洋上で大海蛇と戦っている今、優先すべきことではなかった。
「分かったマーカス。……ルーク、俺たちが先に回り込んで大海蛇奴らの気を引き付ける。速度調整頼むぞモリン」
「任せろ!」
「はいッサー御主人!」
応じながら思わずルークは笑ってしまった。
まったくちぐはぐなヤツだ。
冒険者としては新人のはずなのに、こんな風にいつのまにか西風団のリーダーであるルークにも、竜司郎はリーダーシップをとってくるのだ。それでいてルークには不快感も反発もなかった。
それは竜司郎が積み上げてきた載徳からだろうか。それともマーカスが気にする竜司郎のまだ知らない一面からだろうか。
「……ま、楽しいからいいか!」
「ルークさん?」
「いや、こっちの話だモリン」
ルークはモリンの背中に応えながら、剛槍を握り直した。
「『護障壁』!」
マリーナがメインマストに『護障壁』を展開する。
メインマストを通じて船体に展開した魔力は、船体の両弦と船底を覆い始めた。ハニカム構造の半透明な魔力の鱗が次々と形成されていく。
(やっぱり……船は大きいな……!)
大きな身体に似合わぬ速度で近づいてくる二匹の大海蛇。
マリーナがギリギリまで『護障壁』を展開しなかったのは、大海蛇をできるだけ引き付けて、接敵後の『護障壁』の展開時間を少しでも長く確保しようという意図があったからだ。
だが、船の大きさはともかく、大海蛇の速度を見誤ったか。このままいくと、接敵までに船体を覆いきれない。
「飛野殿!」
「りゅうっち!」
船首楼から、ヴェスタとチャコの声が響いた。思わず船首に視線を投げるマリーナ。船首楼は高く、メインマストのふもとにいるマリーナからは、洋上の竜司郎は見えるはずもない。
それでも二人の声は、竜司郎の存在は、マリーナの気持ちを上向かせるには十分だった。
(竜司郎さんが……みんなが帰る船は、私が護る!)
その想いに応えるように、護障壁を形作る六角形の魔力の鱗は、展開速度を上げていった。
全速力で疾走する竜司郎の水上バイク。やや遅れてルークの水上バイク。このままいけば、大海蛇がベアートリクス号に接敵する前に、もう一戦仕掛けられる。
「右から回り込むぞマーカス!」
「承知っ!」
ほぼ並走していた大海蛇を追い越すように回り込み、右回りに旋回する竜司郎の水上バイク。大海蛇の正面に躍り出た瞬間、放たれる二本の『火投槍』。
水上バイクが全速力で疾走すれば、大海蛇の速度よりもずっと早い。回り込んだ水上バイクから、ほとんど不意打ちの形で火投槍を喰らった大海蛇は急減速した。
炎を振り払おうと頭を振り、突進の勢いが削がれる。大海蛇の巨体が一瞬、減速した。そこへ────
「飛びますよルークさん!」
「いけっ!モリン!」
大海蛇に追いすがるモリンの水上バイク。
波をジャンプ台に見立ててタイミングを合わせたモリン。
水飛沫を上げてぶわりと飛び上がる水上バイク。
飛び上がったモリンとルークの放物線の頂点には鎌首をもたげた大海蛇の首。
「ぅうおおおおっ!!」
ルークの渾身の斬撃は過たず大海蛇の頸部を捉えた。
水の精霊力による被膜が、魔法刃に一瞬だけ抵抗を示す。だが、大海蛇との相対速度が小さくなったことで、ルークは刃を滑らせることなく、魔法刃を首へと深く食い込ませることができたのだ。
大海蛇の首にやや斜めに食い込んだ魔法刃を、ルークは力任せに思い切り振りぬく。大海蛇の首は二割を残して切断された。
水上バイクの着水と、絶命した大海蛇の首と胴が着水したのはほぼ同時だった。
「っしゃあっ!」
まず一匹。ルークが剛槍をベアートリクス号に向けて掲げた。ベアートリクス号の船上で沸き立つ船員が見える。
モリンはすぐに水上バイクの姿勢を制御すると、再びフルスロットルで走り出した。竜司郎も仕留めた大海蛇を一周してベアートリクス号に進路を向けた。
ルークとマーカスの攻撃をしのいだもう一匹の大海蛇が、ベアートリクス号を標的にしているのだ。




