━━━案件105 リルヴィアお姉さんの恋愛談義━━━
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のんびりとした進行で申し訳ありませんが、引き続きよろしくお願いいたします。
三日目。
セリーネとリルヴィアは、波打ち際で廃村カリキルから集めた廃材製の低い椅子に座っていた。
浜辺の際。水に手を付けながら『水流操踊』で水を操り、先日からの水流の蛇で、水上バイク組の模擬戦闘に参加するためである。
発案と製造は竜司郎とモリンで、初日の訓練時、クラウチングスタートの姿勢からあれやこれやと楽な姿勢を模索していたセリーネを見て、竜司郎が気を利かせたのだ。
────昨日の夕方。
竜司郎とモリンは夕食終了後、マリーナから、念のために警鐘石を持たされて半壊の家屋にお邪魔していた。
「こういうところは気が利くんスよねぇ」
「ゴホン……うるさい。黙って手伝え」
御主人のボヤキと命令に、ボンゴス親方を真似て釘を口にくわえたモリンが二本、釘を差し出す。
前世界の借家に置いてあったDIY工具満載のツールバッグが、そのまんまキャビン収納スペースに入っていたのだ。まったく女神さまが転生させてくる私物の取捨選択には恐れ入るやらありがたいやら。
さすがに電気鋸やインパクトドライバーといった電動工具は収納されていなかったが、使い慣れた工具が一式揃っているのは実に助かる。実際にこうしてちょっとした工作が可能になるのだ。
「大丈夫ッスかね、このハンマーの柄。思いっきりグラスファイバー製ッスよ」
「確かグラスファイバーの元ネタ自体はかなり古くからあったはずだから、大丈夫だろ」
「こっちの釘ケースはプラスチックでスし」
「……それはちょっとマズいかもな」
「この折り畳み鋸、御主人の発明ってことにして量産したら売れるんじゃないッスか?」
「いい案だな。でも、先人の知恵にタダ乗りするってのも気が引けるなぁ……」
このように、ツールボックスとその中身は前世界のアイテム満載なので、鶴の恩返しよろしく「出来てからのお楽しみ」といって、訓練メンバーにはさりげなくお近づきをご遠慮して製作されたのだった。
「な~~んでこんなことになっちゃったんだろ……」
波打ち際で、魔力を帯びた掌で波を弄びながらリルヴィアがぼやいた。海上では彼女が操る水流の蛇が、竜司郎とマーカスが乗る水上バイクと並走していた。
セリーネと会話を続けながらも、水流の蛇は竜司郎とマーカスの水上バイクを追い立てるように攻撃を続けていた。これだけでもリルヴィアが相当な精霊術師であると分かる。それはセリーネも同様であった。
「あらリルヴィアさん御不満?」
昨日竜司郎に言ったリルヴィアの台詞をそっくり返してセリーネが笑った。
彼女の形成した水流の蛇は、モリンとルークコンビの水上バイクに襲い掛かっていた。放物線を描いて海中に没した頭が大きな水しぶきを上げる。
昨日一日、特に男性陣に気を使われ、生活魔法以外の魔法を使わなかったため、セリーネの魔力は十二分に充填されていた。
そしてリルヴィアが加わったことで、『水流操踊』の負荷はおおよそ半分になり、より長い間、模擬訓練が可能になったのである。
前衛のアタッカーがモリンとルーク。そして竜司郎とマーカスが支援、という配置はほぼ確定していて、後はどれだけ水上バイクの挙動を身体に叩きこみ、互いの水上バイクの運転手との息を合わせられるかにかかっていた。
「いいえ。こそこそ取材する労を思えば、こうして堂々と取材ができるようになったのは、実にありがたいですけど……」
打ち寄せる波に、足をパタパタとさせて戯れるリルヴィア。結果はともかく過程は不本意である、といったところか。
「……まぁこれで、あの夕刊記事に関しては水に流してさしあげますわ」
「おや、あの記事がお気に召しませんでした?」
「それはそうです。私と竜司郎さまの縁を取り持つのに、他の女性の話は不必要でしょう?」
セリーネは不満というより拗ねたような表情をしていた。あの書き方ではまるで自分が当て馬ではありませんか、と。
恋愛経験を積んだ年長者の余裕、いや、貫禄すらにじませてリルヴィアは笑った。
「甘いわねぇセリーネさん」
「……どういうことですの?」
「飛野竜司郎という超優良男性と、セリーネ・メルクスという超優良女性が、いともあっさりくっついたら面白くないでしょう?」
「なっ……!」
セリーネの拗ねた表情が不満に変わる前に、リルヴィアは言葉をつづけた。
「男女の関係には障害がつきものです。数々の障害や難関を乗り越えた上で結ばれた方が、お互いの絆も信頼も愛情も、より深まるというものです」
「…………」
「そして障害や困難を乗り越える過程こそ、お互いを知り、伴侶としてふさわしいかどうかを見極める大切な時間なんですよ」
同性の、年長者の実のある言葉にセリーネはぐうの音も出ない。
同じ女性としてのリルヴィアの言葉は、自身の実体験から得た本音であった。それは聡明で、豊かな感性のセリーネにしっかりと受け止められた。
しかし。
……もっともらしいことを言っているが、記者としてのリルヴィアの立場からすれば、竜司郎、セリーネ、そしてマリーナの障害や困難を乗り越える過程が長ければ長いほど、より多くの記事が書けるわけである。
リルヴィアは自身の実体験と本音を織り交ぜて語ることで、セリーネに対し、記者としての本音を覆い隠すことに成功したのである。セリーネの、聡明で、豊かな感性すらも計算に入れて。
自分の実体験や本音すら武器にして立ち回るリルヴィアの強かさに、セリーネは知らぬまま一本取られていた。
ロナーシアから早馬が来たのは合宿七日目だった。
メルクス商会お抱えの護衛団の若手が三人。船、物資、そして各ギルドとの調整が完了した旨を伝達しに来たのだった。
護衛団の若手三人は、セリーネお嬢との面会を喜び、無事を確認すると、三人とも時折竜司郎に非友好的な視線を投げかけながら、事の次第を説明した。
総代理ボルトンと、兄カイロンの後方支援体制は万全で、予めセリーネと打ち合わせた通りの内容であった。
……しかし、一点だけ、気になる情報が追加されていた。
セリーネたちの戦闘訓練合宿の間に、航路を外れた二隻の貿易船が、やはり大海蛇に襲われ、這う這うの体で逃げかえってきたというのだ。
逃げ帰ってきた船の船員の証言から、どうやらヴィクトーリア号が襲われた地点とほど近いという。
「……急いだほうがよさそうですわね」
セリーネが表情を引き締め、ヴェスタが頷く。西風団の心と体にも、緊張感が湧きあがってきた。いよいよ大海蛇討伐である。




