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━━━案件102 水上バイク訓練と大海蛇討伐訓練━━━


「ィヤッホゥゥーーッ!!」


「イエエエェェーーィ!!」


 ルークはご機嫌で水上バイクのスロットルを回した。


 ルークの後部座席ではチャコがおおはしゃぎしていた。ルークの目線の直下、ハンドルと座席の間の窪みには、水上バイクの展開主であるモリンが文字通り丸く納まっていて、楽しそうな同乗者たちを見て、こちらもご機嫌である。


 ルークの右手、やや前方に先導するように、少し小型の水上バイクを走らせるのは竜司郎である。後部座席のマーカスも、チャコに劣らず子供のようにはしゃぎながら、ルークの水上バイクに手を振っていた。




 竜司郎の浮きクレーンとモリンの極太スリングによるヴィクトーリア号救出を経て、モリンは魔導車を複数台展開できるようになったのである。


 これで御主人竜司郎のように、ダンプとバックホウ、トラックとフォークリフト、と言った複数の車両を展開し、組み合わせて運用することができるのだ。


 ただし、モリンの魔導車は、同一車種を複数展開することができない。「親」となる魔導車よりもワンランク下の車両を、「子」として展開する仕様となっていた。




 つまり、現在竜司郎とマーカスが乗っているのは「子」の水上バイクである。小型の子バイクは、波の高い水面での安定性や加速性能では劣るものの、小回りが利き、魔力消費も少ない。


 また、子バイクの活動範囲は、親バイクから半径3.7km以内。これは前世界における特殊小型船舶操縦士免許の航行区域を参考にした制限のようであった。


 こうした点を異世界スキルの魔導車両スキルのルールにさりげなく落とし込んでくるところが、女神さまの侮れないところである。




 ……さらに驚いたことに、カリキル合宿前、モリンが魔導車の複数展開をスマホで確認した直後、竜司郎のキャビン収納スペースに魔法付与されたライフジャケットが追加された。


 元々の竜司郎とモリンの二着に加え、さらに四着である。


 現物確認のため、ご丁寧に異世界ナイズされたライフジャケットを取り出した竜司郎は、驚くやら呆れるやらであった。




「収納スペースを通じてアイテムの追加までやってくるとは、もう何でもありだな……」


「まあまあ御主人、水上バイクのライフジャケット着用は義務ですから、ありがたい話じゃないッスか」


「確かにその通りだし、ありがたいのはありがたいんだが、異世界にここまで前世界のルールを持ち込まなくてもいいだろうに……」




 モリンがロナ川に落ちた際、泳げないことは確認済みだ。西風団にも水泳が苦手な者がいるかもしれない。


 そもそも、いくら泳ぎに心得があっても、荒れた海や大海蛇との戦闘中に海へ投げ出されては、普段どおりに泳げる保証などない。


 女神さまの意図が冗談なのか嫌がらせなのかは分からなかった。


 ただ、水上バイクの同乗者の生命と安全を確保するのは操縦者の責任である。ライフジャケットの着用を前提とした今回の追加アイテムは、海上戦闘が確定している今回の作戦において、確かにありがたいものだった。




(なんだかんだ言いつつも、結局女神さまの思惑通りに動いてしまうんだよなぁ……)




 例によって、心の中と、口に出して、言いたい放題に文句を並べながらも、竜司郎とモリンは、女神さまから新たなスキル特性とアイテムをありがたく受領したのであった。






 アタッカーのルークと展開主のモリンを組ませ、小型バイクで竜司郎とマーカスが支援する、という作戦案は、マーカスの発案である。


 マーカスは、まだ実際に水上バイクに搭乗する前の、竜司郎とモリンから説明を聞いた段階でこの組み合わせを提案してきたのだ。西風団の頭脳担当は伊達ではなかった。魔法紋に対する執着にさえ目をつぶれば。




 ……チャコがルークの後ろに同乗しているのは作戦ではなく、単に彼女が「私も乗りたい!」と、ワガママを言い出したからである。




「大きく展開すれば三人まで乗れますから大丈夫ッスよ」と、モリンは即答で歓迎した。


「まぁ今は練習だし、水上バイクを知ってもらういい機会だし」と、竜司郎も鷹揚に許可した。


 許可が下りてなおもファッションが乱れるとワガママをいうチャコを、ヘルメット着用の時と同様の流れで、竜司郎とモリンで何とか説き伏せつつチャコにライフジャケットを着せた。


 それでようやくチャコはルークの後部座席に同乗することができるようになったのである。






「いきますわよ、みなさん!」


 セリーネが声を張る。セリーネは波打ち際で、クラウチングスタートのようなポーズで波に両掌を沈めていた。




「『水流操踊』!」




 波に沈めたセリーネの両掌が光る。ヴィクトーリア号救出の時に使用した、水を操る精霊魔法である。


 一瞬の後、水上バイクを駆る竜司郎とルークの行く手に、大海蛇を模した水柱が二本同時に逆立ち、蛇の頭部が彼らの水上バイクに向けて落ちかかってきた。


 並みの精霊術師なら、数十メートル先の水を操るのがせいぜいである。セリーネは、数百メートル向こうの波間にいる竜司郎とルーク相手に、同時に水流の蛇を操ってみせたのである。




「『魔法刃』!」




 ルークの剛槍の先端から、青白く光る魔法の刃が伸びた。まるで鉾のような、長い刃である。


 ルークが『魔法刃』を展開したのは、単に間合いを伸ばすためだけではない。巨大な水棲生物に槍を深く突き刺せば、その動きに巻き込まれ、武器ごと水中へ引きずり込まれる危険がある。


 魔法刃での攻撃ならば、たとえ刃が食い込んでも、魔法刃の展開を収めれば、武器ごと持っていかれる危険はないのだ。




 水上バイクめがけて、正面から落ちかかる水流の蛇。モリンは、蛇の頭部が水面に叩きつけられる寸前、絶妙のタイミングでハンドルを切った。


 同時にルークは、すれ違いざまに魔法刃を振り抜いた。




 パァンッ!!




 弾けるような音とともに、魔法刃が水流の蛇の頸部を両断する。魔力によって束ねられていた水は形を保てなくなり、大きく裂けて海面へと崩れ落ちた。


 見事な一撃であった。爆風のルークは名実ともに銀一位の冒険者なのである。


 浜辺で見学しているマリーナが歓声を上げ、同じく腕を組んで見守るヴェスタが「ほぅ!」と感嘆した。




 見た目ほどに簡単な一撃ではない。


 水上バイクのスピード、旋回半径を計算に入れつつ、水流の蛇の攻撃方法を予測し、すれ違いざまの最も効果的なタイミングで刃を振るう。


 いとも簡単に仕留めたように見えることそれ自体が、ルークの戦士としての溢れる才能と、年齢に似合わぬ経験の豊富さを物語っていた。






「『火投槍[かとうそう]』! ……展開!」




 マーカスは右手に魔法で編まれた燃え盛る魔法の槍を握りしめた。


 右手袋の甲に縫い付けられた赤い宝石がキラリと光る。火の精霊力を宿した宝石、炎霊石である。


 マーカスはこの炎霊石から火の精霊力を引き出し、火源がないこの水上でも火の魔法を操ることができるのである。




「……来ます! 左急旋回!」


「了解っ!」




 旋回を始めるほんの一瞬前、マーカスは落ちかかる水流の蛇の着水点へ向け、燃え盛る魔法の槍を放った。


 炎の槍が水流の蛇の頭部を捉えた瞬間、魔力によって束ねられていた水と火の槍が反発し合い、弾け、四散した。




「さっすがマーカスさん!」


「見事ですな」




 相次ぐ戦闘の妙技に、浜辺のマリーナとヴェスタは高揚した。




「次! 水上を蛇行する海蛇でいきますわよ!」




 明らかに楽しんでいるセリーネ。


 ドンと来いと言わんばかりに槍鉾を構えるルーク。竜司郎も拳を挙げてセリーネの次の一手を催促した。


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