━━━案件100 水上バイク戦闘のための強化合宿一日目━━━
本日100話目投稿と相成りました。
読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。
作者の微力を尽くしまして、なるべく楽しい物語を投稿することで、返礼とかえさせて頂きたいと思います。
ダブルキャブトラックを運転するルークは、廃村カリキルの半壊した北門を悠然と潜り抜けた。
カリキルのいくつかの廃屋を危なげなくすり抜け、先だっての重機練習でルークがバックホウで壊した廃屋を横目に、ルークはダブルキャブトラックを中央広場に停車させた。
助手席の竜司郎が、ルークの運転を褒めたたえるように拳を突き出す。ルークと竜司郎は、中央座席に座っている嬉しそうなチャコの前で拳を打ち合わせた。
マリーナもベテランの風格すら漂わせながら、魔導サイドカーをダブルキャブトラックの隣に停車させた。セリーネが歓声を上げる。
セリーネが魔導サイドカーに乗っているのは、小休憩のときにセリーネが「魔導バイクに乗りたい!」と言い始めたからだ。
竜司郎とモリンは全くの素人であるセリーネを考慮して、魔導サイドカーなら、という条件付きで同乗を許可したのだ。
意外にも渋ると思われたマリーナが「サイドカーなら」と、すんなりセリーネの同乗に同意し、カリキルまでの一時間、フィーズ教会の器量佳しと、メルクス一家の御令嬢は、タヌキが展開する魔導二輪車のツーリングを楽しんだのであった。
マリーナは先に降車すると、サイドカーに座っていたセリーネの手を取って降車を補佐する。
補佐する方もされる方も、堂に入ったものである。凜然としたマリーナの所作と、令嬢然としたセリーネの所作が、さながら男女のカップルを思わせる。
マリーナの手にもう片方の手を添え、セリーネは興奮気味に手を揺らした。
「素晴らしい運転技術でしたわ! 是非、私にも教えてくださいます?」
「ええ、それはもう喜んで。でも、魔導車両は竜司郎さんとモリンくんのものだから……」
セリーネの賞賛と要望に、マリーナは魔導バイクの先輩の余裕でもって応えた。
ただ、(異世界人には)魔導車両の適性があるのだ。ルークがトラックが得手でバックホウが不得手なように、チャコがバックホウが得手でバイクが不得手なように。
道中モリンとマリーナから聞いていたセリーネは期待半分不安半分、と言った様子だ。はたしてセリーネに魔導バイク適性はあるのだろうか。
「……ですが、ここに来た目的は、あくまで大海蛇退治の訓練です。私も欲求のままに振舞うべきではないことは、心得ておりますわ」
高らかに宣言するセリーネ。
どうやら魔導バイクに同乗したのは、魔導バイクへの興味だけではなさそうであった。
そういう視点から見ると、魔導バイクに乗る前と乗った後で、マリーナとセリーネの距離は何となく近くなっている。
マリーナからは、何となく面白くなさそうな雰囲気は消失しているし、セリーネからは、押し出しの強さよりも悠然とした雰囲気のほうが勝っていた。
彼女たちの間で、何事かのやりとりがあったのであろうか。真相を知るのはマリーナとセリーネ以外では、魔導バイクを展開していた聖獣モリンのみ、であった。
「……何してるんッスか、御主人?」
モリンは、明らかに挙動不審な様子で廃屋を見渡している御主人にツッコミを入れた。
ダブルキャブトラックとサイドカーは既に格納され、ルークとチャコとマリーナは廃屋の一時占有のために、使用可能ないくつかの廃屋に先客の有無を確認に行った。旅人や冒険者の間の仁義で、廃村カリキルの不文律ともいえる挨拶である。
「いや……リルヴィアさんが、もしかしたら先回りしてるかなぁ……と」
「あ~~……」
モリンは湾口通りで受けた言い知れぬ敗北感を思い出した。
魔導バイクであれだけ全力で突っ走った御主人と自分に、ああも簡単に追いついた”スキル”とはなんだったのか。御主人の挙動不審で思い出してしまったではないか。
「……え? リルヴィアさんが突然に?」
竜司郎の挙動不審を不審に思ったチャコの問いに、竜司郎とモリンが、リルヴィアにしてやられた経緯を説明する。
竜司郎とモリンが、魔導バイクを馬よりも疾走させたこと。リルヴィアを確かに置いていったこと。にもかかわらず息も切らさずリルヴィアが追い付いてきた、いや、すでにそこにいたこと……。
居合わせたマーカスとセリーネとヴェスタも聞き入っていたが、やがてヴェスタ以外の三人は示し合わせたように全員同じ答えを導き出した。
「『影疾駆[えいしっく]』じゃない?」
「『影疾駆[えいしっく]』ですかね?」
「『影疾駆[えいしっく]』ですわね!」
『影疾駆』とは、闇の精霊と契約し、空間を隔てた「影」同士を行き来できる、疑似的なテレポート魔法である。
十分な精霊術師の技量はもちろん、闇の精霊力が十分な場所、予め指定の場所の精霊との契約、転移可能な範囲は術者の技量に依存するなど、いくつもの制約もある。
また、闇の精霊に対して、契約者は定期的な魔素を献上して契約を継続せしめなければならず、契約場所に光がさして、闇の精霊が留まれるだけの力場を失えば、その場所の契約はあっさりと失効してしまう。
使いどころは難しいが、こと一定の範囲内──例えば領都ロナーシア──を日常的に移動する手段となれば、これほど便利な魔法もない。
もし魔道具による代用ではなく、リルヴィア自らが闇の精霊と契約しているならば、リルヴィアは相当な精霊術師である、と、マーカスは唸った。
マーカスの評価に付け加えるように、チャコが珍しく真剣な表情で解説した。盗賊系のスキルと併用すれば、暗殺にも使える恐ろしい能力である、と。
そんな恐ろしいスキルをリルヴィアは駆使しているというのか。そして自分は、そんなスキルを駆使する相手に付きまとわれているのか。
竜司郎が背筋に寒気を感じる一方で、モリンはにわかに顔色を回復した。
なるほど、それほど高度な精霊魔法ならば仕方がない。逆に言えばモリンの魔導二輪スキルは、そこまでの精霊術師でもなければ太刀打ちできないということなのだ。
……セリーネはリルヴィアに対する警戒心をはね上げた。
ただの奔放な野良猫ではない、という漠然とした警戒感はあったが、まさか『影疾駆』まで使いこなす精霊術師だったとは。
竜司郎から得られた思わぬ情報で、セリーネはできるだけ早期にリルヴィアと会って関係を見直す必要に迫られた。情報誌への反論は、セリーネの頭の中から消えていた。




