第2話 恋と愛
屋敷に部屋が有り余っている為に使用人部屋も広々とした個室を当てられているが、この日の夜はサリーの部屋に3人が揃っていた。
「…………ね、どう思う?」
サリーが二人に尋ねる。
レィナータや他の人間の前ではいつも丁寧なサリーも同僚にして友人であるメリアスとツバキに対しては砕けた口調になる。
「どうって、何が?」
ツバキが自分の耳に着いたイヤーカフを弄りながら聞き返す。
件の戦いで失った左耳を隠す為、耳全体を覆う大型のイヤーカフを付けていた。
それは皆同じである。サリーは右腕が木で出来た義手になっているし、メリアスは木の義足で杖をついて生活している。
レィナータに今は安静にするようにと言われており、仕事を禁じられているのだ。
その為か元気が有り余っているサリーは、義手をぶんぶんと振りながら話す。
「何って、分かるでしょ!レィナータ様の求婚よ!」
「ああ……。」
ツバキはその事だったか、と気付く。
この反応が大げさな訳ではない。ツバキからするとカルラシード家との対立が本格化していた事に驚いたのでそちらの話かと思っただけだ。
ただの推察でなく、これほど大事になっても本邸からの折り返しの連絡は無いようでほぼ確定だろう。ツバキはあり得ないとは思いながら、実は優しい父である事に賭けたかったのだ。
だが、メリアスとサリーは察していた為にさほど驚きはない。
「いいんじゃないかな。皆で結婚しちゃおうよ。」
「エッ!?」
朝食のパンを決めるようにさらりと言うものだからサリーは驚いてしまう。
「わたしの故郷では性別ってあんまり意味がないんだよ。だから別に女の子だっていいし、何人でもいいし。
レィナータ様の事好きだし、わたしはレィナータ様がそういうなら、いいよ。
あれ?でも貴族だからせーりゃくけっこんがどうのとかあるのかな。」
「あ、え、そ、そう……なの?」
サリーはそんな曖昧な婚姻関係なんてどういう国なの、と突っついてやりたかったが、ツバキが此処に来るまで何やら苦労したのは分かる。
あまり触れても気を悪くするだろうと、ただ驚きで返す。
「メリアスちゃんは……」
と、サリーが声をかける前から分かる。
ぽーっとして、どこを見ているのか分からないような目で惚け、注意散漫になっている。
普段の毅然とした態度を崩さないメリアスからすると有り得ない有様だ。
「私が……レィナータ様と……。」
どうやら彼女はとうにお熱だったらしい。
とはいえ主従関係を重んじる彼女の事だ。そんな思いなどレィナータの足枷にしかならないと割り切ってもいたのだろう。
レィナータは低位の継承権とはいえ王族なのは変わりない。有力な貴族にでも嫁げばそれだけで家のため、国のためになる。
そこにレィナータの側からしきたりなど知った事かと3人同時に娶ると言い出したのだ。
メリアスからすればまさに夢心地といった思いなのも頷ける。
「ぽやぽやナイトだ。」
「こっちはダメそうね。」
そのゆるみきった顔からはろくに会話が出来なさそうなのもすぐに見て取れた。
水を差してやるのも悪いかと、メリアスを一旦放っておいてツバキが逆にサリーに尋ねる。
「サリーはヤなの?」
「うーん…………。」
少しの間、握り拳を顎に当てて思考したサリーが口を開く。
「このまま答えて、レィナータ様の為になるか分からないの。」
惚けていたメリアスがパチリと目をサリーへ向ける。
「それは、やはりレィナータ様は私達への負い目から、という事か?」
「それもあるかもしれないけど。彼女はまだ10歳よ。
私ならまだ美味しいごはんと乗馬の事しか考えてない歳だったわ。」
「それは君が呑気すぎるような気がするが…。」
「んんっ。と、とにかく!」
まさか今の状態のメリアスに窘められるとは思わず、咳をするように誤魔化す。その上でうやむやにはせず、自分の考えをきちんと告げる。
「まだ10歳なんて、不意に恋をしてしまうような年頃なの。
それは悪い事なんかじゃない。けれど、私達の場合鮮烈すぎた。命を懸けて、その末に四肢を失ったり顔に傷を残したり。
そういった憧れの目と負い目が綯い交ぜになった結果、恋をしているように思っているだけなんじゃないかって。」
「それは……。」
否定しきれなかった。熱に浮かれてそう思ったとして、なんら責められない立場にある。
レィナータが元々冷遇されていたのもメリアスは嫌という程知っている。そんな中で命を投げ出して守ってくれたメイドは眩しく映れどおかしくない。
「だから私は…レィナータ様の為にこの恋には答えません。」
サリーは否定する。
「もしかしたら恨まれるかもしれないけど、10年後になんでこんな女と、なんて思うよりずっとマシだものね。」
続けざまにはにかむように笑う。
メリアスとツバキはもしかして彼女は、と思いながらもそれを指摘はしなかった。
恋に応えないという愛。
二人とは形は違えど間違いなくレィナータの幸せを願ってのものだったから。




