第23話 烈しき光、氷の華
黒い爆発から逃れる事は出来ない。剣虎の全身がレイに突撃してきている以上は逃げる事は難しい。筋力強化に変えればなぎ倒す事も出来るが、魔力を切り替え・さらに投げ飛ばすという2アクションを必要とする。それでは間に合わない。
ただひとつ間違いないのは、先程よりも近い距離で受け、さらに多くの魔力が込められたこの爆発。これはきっと、鎧が融けてしまう程度では済まないだろうという事だ。
(どうする!?)
必死に生き延びる策を探る。そもそもやれる事が限られているのだからどうしようもない。耐久強化を発動させて耐え抜く程度の事だろうか。しかし、その程度の防壁を貫通出来ない程の攻撃ではないだろう。あくまでもレイにあるアドバンテージとは燐光の剣のみであるのだから―――
(いや、待てよ。)
そうだ。レイの極光は自らの武装の上に自らの魔力を流す事が出来る。
ならば、燐光の剣の魔力も、氷の剣から伝播させてしまう事は出来ないのか?
それが、可能なら。
(この燐光は、攻防一体の鎧にもなるんじゃないか?)
黒い魔力の大爆発が巻き起こる。レイの身体もそれに巻き込まれ、飲み込まれていく。
「レイ!!」
何も成す術無く大爆発を一身に受けたレイをウィスタリアが声を張り上げて呼びかける。
ウィスタリア達には見えない黒い魔力は、その目では脅威が爆発するまで分からない。ただしあくまでも見えないのみであり、単なる黒雷と違ってその恐ろしさは実感できる。
彼らからすれば肌を指すような莫大な魔力が収縮し、何もない空中が爆発したように見えるだろう。
やがて、黒い大爆発は晴れていく。
横たわる大爆発に共に巻き込まれた巨大な剣虎は、既に物言わぬ屍となっているのが見えた。その姿を見て、ウィスタリアはヒュ、と息を呑んだのが分かった。ガルグイユとアンテノルもまた、動揺を隠せない。
「アッハハハハハハ!!吹き飛んだわね!!!」
次第に砂埃が晴れ、入り乱れた魔力が終息して元の姿へと戻っていく。
それにはじめに気付いたのは、大気中の様子を探っていたシーニャの方だった。
「……え、これって………。」
続いて、魔力が落ち着くことでその場を確認できるようになったハルマジライズが戸惑いを見せる。
「………あり、ありえない…!」
ハルマジライズは口だけでなく、魔力を渦から取り出してさらなる戦いへと備え始めていた。それはまるで、レイが死んでいるならあまりに不自然な行動だ。
その両者の反応がおかしいと思ったウィスタリアは、砂埃へ目を凝らす。
するとそこには人影が立っているのが見えた。いいや、それは淡く光っており、影というのには適切ではない。
「レイ…?」
それは一度ギラリと強い光を放ったと思えば、凍てつく風を吹き荒らして舞っていた砂埃を吹き飛ばしてしまう。その冷気と共に、その姿を露わとする。
カルラシード家の家紋は龍だ。レイの中にあった無意識のイメージによって象られたのか、彼女の新たな姿はそれをなぞるような形状へと進化した。
氷の鎧は破損していた部分が元通りになっているどころか、各部がまるで鱗のように見える花弁の意匠と共に強化され、胸部は角のような形の装飾が追加されている。腰のスカートにはその上から覆う様に腰布が当てられており、さらに腿を覆う様にして鎧が追加されている為に印象がまるで違っている。
最大の変化は二枚の氷が浮き上がっている事だ。翼の形状をしたそれは分厚く強固で、まるで巨大な斧の刃のようにも見える。反面、これまでの花弁とは違って砕けるようなものには見えない。
手に握った魔鉱スヴァジルファリで作られたレイピアも上から氷を纏うだけでなく両刃の剣へとその形を変じさせていた。
「極光は進化するものだ。」
レイが口を開く。周囲が冷気に満ちているというのに、口からはまったく白い息が出ていない。
「僕の極光は、燐光の剣により進化へと至った。名を、烈光氷華フルーレ=フルード。」
新たな形へと変じた氷の剣の剣先をハルマジライズへと向け、そのまま言い放つ。
「真魔を…魔人を。黒呪魔法の全てを切り伏せる力。お前達は既に、人間の上位者じゃない。」
「このガキッ!!!」
その言葉に激昂したのか、ハルマジライズは指先から黒雷を放つ。それはこれまでとは桁違いに巨大で、真っ直ぐに飛来しており光線というべきものだ。
だがレイの鎧に命中した途端、烈光と共にその黒雷が掻き消えた。
「なっ…!?」
レイが迫る。その俊敏さは強化魔法を使っている時にも等しい。ハルマジライズが身を護るようにして矛狼と弓蜥蜴をけしかける。
「ガアアアアアアア!!!」
「邪魔を、するなっ!!」
氷の剣が二度振るわれると、斬撃に合わせて烈光が発生し、氷が形成されてそのまま真魔の肉体を両断する。攻撃力の方は強化魔法とは比較にならない程に強化されている。
「これなら、どう!?」
ハルマジライズが呼び出したのは3匹の盾獅子だ。彼らは中でも老成した個体であるようで、成長する程その性質が強くなる真魔において脅威を遥かに増す。連なったそれらは盾を超え、もはや小さな建物ほどはある。最大の特徴である盾もまた、城塞にすら幻視するように巨大で堅牢な防御力を誇る。
続けて翼のように放出された魔力を上空に解き放ち、巨大な黒雷を束ねて4本の槍のようにして作り出した。それまでに溜めの時間を作った分なのか、大爆発を起こした魔力をさらに上回る。
黒呪魔法を切り裂けるのならば、黒呪魔法を耐えられるというのなら。それを不可能な程の圧倒的な質量をぶつけてやれば良い。それがハルマジライズの板った結論だった。
空が黒い魔力で覆われる。
ウィスタリアにもシーニャにも、それが目に見えずともとんでもない魔力量による乱気流が発生しているのは理解できる程だ。
「死になさい、人間っ!!」
純然たる殺意をレイへと向けるハルマジライズ。
レイは氷の剣を顔の前に構えると、光の剣はその輝きを増していく。
「氷の翼よ、全てを断ち切る刃となれ!」
レイの声に呼応するようにして、背に浮いていた二枚の翼が動きを見せる。
光り輝く氷の剣の剣身に、翼が二枚順番に張り付いていき、それは巨大な斧のような形状に変わっていく。それを下から構える様にして持ち替えた。
レイの元へ黒雷の槍が大量に降り注ぐ。巨大な三匹の真魔が突撃してくる。
「熾剣・烈光星滅!!」
巨大な斧を振り抜くと同時に氷の刃が生成されていく。それは白い光を纏っており、黒雷の槍とぶつかり合うと同時にさらに輝きを増し、更なる刃を作り上げていく。その氷を打ち砕き、使い潰す様にして黒雷を捲き込んで破壊していく。
一つ、また一つ、そして最後の二つ。空を埋め尽くすような黒雷は、その剣が最後まで振るわれた時まったくなんでも無かったかのように掻き消える。
そして返す刃で再び薙ぎ払うようにして振り抜いた。王宮騎士と戦って居れば歴史に名を残す程だっただろうその3匹の巨大な盾獅子は、ただの一撃でその全てが絶命に至る。
レイは黒雷を打ち破った際に発生した氷の破片を打たれるようにして浴びたまま、真っ直ぐとハルマジライズを見据えて離さない。
「な、な、な…なんなのよ、これ………。」
ハルマジライズはわなわなと震えている。彼女からすると生きて来た中で震えあがる程の恐怖を感じたのは初めてなのだろう、自身が今何をしているのかも理解していない。
「なんなのよ!?アンタァ!!」
「僕の名前は…レィナータ=フォン=カルラシード。名乗っていなかったかな。」




