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第22話 希望

 本来熾剣でも容易く倒せるはずの無い真魔が一撃で葬り去られる。

 そのような有り得ない光景にハルマジライズが動揺を隠しきれない。


「は……?は…………!?」


 理解の追い付かない魔人を余所に、レイは次々と燐光の剣にて真魔を屠っていく。


「凄いな…。なんだ、あの熾剣は。」


「熾剣…?いや、あんなものはこれまでに表沙汰に知られているものにはどれにも似つきませんが…。」


 ハルマジライズが熾剣を知らない、といった理由からではなく、ウィスタリアすらも感嘆を隠せず、ある程度熾剣・極光について調べたらしいシーニャも類似例を知らないでいる。


 ハルマジライズが戸惑い、近付くのも躊躇う中でレイは弓蜥蜴アローリザード岩石猿ロックエイプと交戦を始めた。

 弓蜥蜴は尻尾から棘を射出し、岩石猿は土を固めて岩のようにしてから投擲するという双方共に遠距離戦を主とする真魔である。当然、その二匹はレイに対して狙いを定め、棘と岩石を投げつけた。


「やっ!!せあっ!!」


 レイは棘に対しては燐光の剣で切り裂き、光り輝いたその剣身は周囲を照らす。

 続けて飛来した岩は、咄嗟に足元を凍らせて滑り込んで避けてみせた。


「……!!」


 本来ならばどちらも斬り伏せてしまえばいい。これからハルマジライズと戦うというのなら、魔力は少しでも温存するべきだ。その姿を見て、ハルマジライズは熾剣の正体へと思い至る。

 熾剣とは各人の悔恨を断つ刃であり、その情景そのものが熾剣の性能・能力に反映される。その上で先程の棘と岩に対する対応の違いを見ると、浮かび上がる事がある。


「……まさか、真魔に対して特効を持っているとでも言うの?」


 類別して一部の相手に効果が上がるなど、既存の魔法においては考えられない事象である。例えば盾を持つ相手には剣よりもメイスが有効というように物理的にどちらが効果的かという話ではなく、盾であれば容易に切り裂く事のできる剣というのは存在しない。

 だが、それは人間達においての話だ。まったく魔法体系を成立させている魔人の文化においては、思い当たる節が存在していたようだった。


「黒呪魔法!」


 ハルマジライズが指の先から黒い稲妻を飛ばす。それは弓蜥蜴を裁断し、次の真魔へ挑もうとしているレイへと飛来した。レイは身を躱そうとするが、その稲妻には誘導性があるようで躱した先のレイの身へと向きを変えて襲い掛かる。

 しかし、レイはそれをも燐光の剣で容易く弾く。光が照らされるのに反比例するように黒い稲妻は小さくなっていき、次第に消え去ってしまった。


「間違いないわ…。アンタのその剣!黒呪魔法を切り裂く力を持っているのね!」


「…そうなのか?」


 レイとしても薄々そう思っていた。なんでも切り裂けるのではなく、真魔を切り裂ける剣なのではないかと。

 しかし、彼女が言うにはそれは『黒呪魔法』であるらしい。もしかすると真魔の性質には黒呪魔法が関係しているのか?それはレイや人間達に情報を渡す事になってしまうが、最早それを取り繕っている場合でもないらしい。


「まだ未熟なれど、私達に届きうる刃。人間に現れた希望の芽。今の内に摘み取らないといけないわね。」


 再び真魔を呼びだし、翼のような黒い魔力が再び噴出し始める。


「シーニャ、ウィスタリア。二人は下がっていてくれ。」


 ウィスタリアは大怪我をしたままで、シーニャもレイを庇うように前線に立って戦い続けて大きく消耗している。両者共に、戦い続けられるような状態ではない。

 ハルマジライズはこれからなりふり構わず戦ってくるだろう。ガルグイユとアンテノルを


「この剣ならばハルマジライズを殺せる。」


「大きく出たわね。」


 しかしその返答にはハルマジライズが先程まで抱いていたような油断や侮りは一切無い。むしろ、自分の愉悦の為に余計な時間を与えた事を後悔しているという方が近い。ハルマジライズの視線はレイの持つ燐光の剣に向けられていた。


(あの剣は脅威だけれど…。黒呪魔法を切り裂く能力を有している一方で防御力には乏しいわ。)


 真魔の爪牙とかち合っても力で勝り、黒い雷を切り伏せた時には光で弾き飛ばしてしまった。一方でそれは剣で切り裂く必要がある。

 真魔を同時に相手しながらハルマジライズと戦えば、対応が間に合わない筈だ。


 レイもまた、ハルマジライズの呼び出した真魔とハルマジライズの位置をくまなく把握する。

 ハルマジライズがこれまで見せている攻撃は雷を飛ばす遠距離攻撃、魔力による爪の一振り、魔力を爆発させる範囲攻撃だ。まだ知らないものがある可能性は勿論あるが、今見えている範疇であれば対応は不可能ではない。


(やはり、この極光に助けられるな。)


 本来強化魔法は自分自身しか強化できないのが常である。しかしレイの極光、氷装華フルードは自らの魔力で生成されたという強みを生かし、全てを身体の一部とみなして強化魔法の対象に含める事が出来る。

 今回は敏捷強化が非常に役立つ。単純に敏捷強化を使うだけでは真魔とハルマジライズを同時に相手取る動きには付いてこれないだろうが、極光により鎧や剣そのものを加速させてしまえばそれ以上の動きも出来てしまう。


「敏捷強化。」


 氷の鎧と剣の一部に緑の光が灯る。燐光の剣を用いるのならば、力は必要ない。今必要なのはただひたすらに速さだけだ。


 ハルマジライズが飛翔して近付いてくる。輩として矛狼と剣虎を従えている。


(あちらも速度を意識しているな。)


 真魔の装甲は重厚で重い。なので堅牢な外殻を持つような種であるほどに動きは鈍重なものとなっていくが、鱗や体毛など防御力が落ちるほどに速い種が増えていくのだ。柔らかいと言ってもやはり最上級の剣すらも弾いてしまうほどの性能こそ持っているが、熾剣ならば通せてしまう程度のものが多い。

 しかし今レイは、どのような厚い装甲でも貫く武器を持っている。その破壊力は最も硬いと言ってもよい盾獅子の盾を真っ向から破壊したことで何よりの証明となっている。


 ハルマジライズは上空へと浮き上がり爪を振り下ろし、矛狼はレイの腹部を狙うようにして突進してきた。

 まずレイは矛狼の顔を真っ向から切り裂いて見せる。強烈な光と共にただの一撃で屠って見せるが、それはハルマジライズにとっても織り込み済みだ。本命は爪の一撃にある。高速で振り抜いた燐光の剣をそのまま爪とぶつかり合わせると、剣の光は激しさを増し、その光と呼応するように黒い魔力が減衰していくのが分かる。


「く……!」


 焦りからかハルマジライズの声が漏れ出るのが分かる。このまま押し切れるか?


「いや――。」


 これはブラフだ。ハルマジライズにとっての本命とはこのような攻撃ではない。


「そこだっ!」


 ハルマジライズを撥ね飛ばして組み付きを外すと、飛びかかってきていた剣虎の噛み付きを撫で斬りにする。下顎を切り飛ばし、最早この個体は余命は幾ばく、攻撃にも窮する事になる。

 続けて背に迫っていた壁猪を脳天に燐光を叩きつけるようにして切り裂いた。分厚い装甲は綺麗に裁断され、完全に息の根を止める。

 その間に視界の隅にハルマジライズが何やら攻撃を仕掛けようとするのが見える。


(トドメを刺す!)


 周囲には真魔はいない。ハルマジライズにとって遅延する手段はもう存在しない。

 どこが急所かも頭の無い魔人にとってはわからないから、一撃で斜めに振り下ろすようにして断ち切ってしまうつもりだった。

 ハルマジライズへと刃が迫るその瞬間、何かが背から飛び出した。


「なんだっ!?」


「ウキッ!」


 正体は猿だ。岩石猿の幼体がハルマジライズの背中にしがみついており、それが飛び出してきた。罠を警戒するがそれよりも顔面に飛んできた事で態勢を崩し、そのまま死に体の剣虎がその身体を使うようにしてレイに突進してくる!


「しまっ、」


 倒れかかるその瞬間、ハルマジライズが黒い魔力を充填させるのが見えた。広範囲攻撃、全てを吹き飛ばす魔力爆発の予兆である。

 一呼吸を必要とするものの、周囲の全てを捲き込むその爆発は切り裂いて中断させる事も難しい。魔力を溜める間に逃げ延びる事は難しくないが、態勢を崩した今はそれが叶わない―――!


「消えなさい、希望の芽!!」


 ハルマジライズの全身から起こる黒い爆発が周囲を埋め尽くす。此度の爆発は先程発した物よりも数段大きいな大爆発と化している。

 レイはその爆発の中心部にて黒の魔力に包み込まれていった。

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