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第24話 弱点

次回更新を一回分お休みさせて頂きます。

6章25話は21日更新になります。




 ハルマジライズの元へ、氷の巨斧を床を引き摺りながら歩いていく。魔力の余波で凍り付いた石の床と重厚な氷の刃の擦れ合う音が不協和音を奏で、ハルマジライズに向けられたレイの敵意を象徴しているかのようだ。

 ハルマジライズは困惑と恐怖の中、戸惑う思考を整理するように考えを巡らせていた。


(なんなのよアレ…!!明らかにあのレィナータとかいう人間が元々持っていた魔力量よりもずっと多いじゃない!!

 魔力そのものを引き出す事の出来る私達と違って、人間は魔力は消費していくだけな筈でしょ!?新たな術を咄嗟に開発したとしても、急激に魔力が増幅する事なんてあるの!?)


 ハルマジライズのこの疑念は間違いではない。事実、レイは熾剣に覚醒するまでの連戦で殆どの魔力を喪失していた。

 であるのにこれほど大規模な熾剣を発動させて黒呪魔法を切り裂く事すら出来たのは、熾剣そのもののメカニズムにある。

 『燐光の剣』は黒呪魔法と接触した際に光り輝き威力を増すが、それは魔力が活性化する事に由来している。さらにその魔力の活性化は消耗よりも回復量の方が大きいのだ。即ち、真魔と戦えば戦う程に魔力は回復していく。今やレイは自らの限界を大幅に超えた魔力を有しており、ハルマジライズの起こした大爆発によりそれは臨界点に達していた。

 極光・烈光氷華フルーレ=フルードはそうした際にのみ変身可能な姿であり、さらに氷の翼を用いるのには莫大な魔力を必要とする。


(大爆発を受け止めた時に拡充した魔力は今ので使ってしまったが…。先程の応酬で再び魔力は補充した。もう一度行使する事は可能な筈だ。)


 理論上相手の攻撃を相殺するように使い続ければ、決定打とならずとも何度でも使う事が出来る。だが、それをハルマジライズに気付かれて空撃ちする事になれば一気に形成が逆転する事も有り得るのだから、考え無しに使うようなものではない。


 氷の翼を背に戻し、剣を構えて走り出し、ハルマジライズの元へ一気に近付いていく。


 ハルマジライズは驚き戸惑っていたのを、どうにか整えて向き直る。レイに勝つ事がこの場を生き残る必須条件であるのだと、自ら決意を固めたようだ。


「見事な剣技ねえ。だったら近接戦ならどうかしら!?」


 ハルマジライズは背の渦から黒い魔力を引き摺り出し、両手の爪へと回していく。

 ウィスタリアの身体を用意に引き裂いた恐るべき大爪だ。


「やってみろ!ハルマジライズ!!」


 黒い爪と氷の剣がぶつかり合う。真魔を容易く白い光を伴っているがハルマジライズを裁断するには至らず、しかし吹き飛ばされたのはハルマジライズの側であった。

 ハルマジライズは宙を舞いながら声をかけてくる。


「必ずしも切り裂ける訳ではないのね。では魔力をさらに増やしてみましょうか!?」


 空中で魔力を噴出して宙返りするように身体を捻ると、渦から大量の魔力を引きずり出す。


(………来る!!)


 黒い爪からは魔力が漏れでて周囲の空気を黒く染めている。それを携えたハルマジライズが猛スピードでレイへと迫る。


「燐光の剣!」


 しかしレイとて火力、耐久、敏捷性。全てにおいて格段にパワーアップしているのには変わりなく、この突進さえもいなしきる事はそう難しくはない。

 捨て身で飛び掛かるハルマジライズをレイは真正面から対抗する。


「ここよっ!」


「なっ…。」


 そこに対してハルマジライズは氷の剣に対してわざと爪を横から殴るようにして身体を自ら壁面へと吹き飛ばす。そこから間髪入れずに再び回り込んでレイへと突進する!


(やはり、コイツ…!)


 剣技といった技量ではレイが上を行くが、ハルマジライズは戦い慣れている。咄嗟に環境を利用して戦い抜く。ただ強いだけではない経験に裏打ちされた強さを秘めているのだ。


(不味い、このままでは間に合わな…)


 身体を必死に捻るもハルマジライズの超高速には追い付けない。ここは魔力を行使する判断をするべきだ。

 氷の翼が動き、ハルマジライズの攻撃を受けきる。黒い魔力と氷の翼がぶつかり合い、周囲に余波を飛ばし続ける。


「また氷の斧!?」


「氷の翼よ、全てを阻み拒む壁となれ!」


 ハルマジライズとぶつかり合う氷の翼に、氷の剣を逆手に持って融合させる。剣の鍔部分に翼が張り付く事で、それは盾のシルエットを取り、裏に持ち手を作り出す。

 氷の翼は変形して氷の大盾へと変化すると、ハルマジライズの攻撃を弾いてみせた。


「うぐっ!」


 身体がのけぞるその瞬間、レイは逃さず追撃を加えに行く。


「今だ!!」


 大盾の先は尖り、鋭利な凶器のようにもなっている。ハルマジライズは爪で防御しようとするがそれも無意味に終わり、その盾は強引に潰すようにハルマジライズの左肩を引き裂き、切り落とした。


「がっ、あああああああ!!」


「まずは一撃…!!」


 ハルマジライズは左腕を落としたまま距離を取る。渦から魔力を引き出して治療しようとしているようだが、その腕が治る事は無い。


「はあ、はあ、なによこれ、治らない…!!」


 燐光は黒呪魔法そのものを断つ効果がある。それにより、黒呪魔法による治療を拒んでしまうようだ。


「形勢逆転だね。君にトドメを刺す。」


 大楯を構え直し、ハルマジライズへと向ける。相手の持つ種は割れた。残るものも、黒呪魔法に依存するのならばレイへ有効とは言い難い筈だ。


「そうかしら!?アンタの弱点、見つけたって言ったらどうする!?」


「……なんだと?」


 相手からすれば黒呪魔法を断つ力はどうしようもなく厄介である筈だ。それを踏まえて尚弱点があるというのだろうか。

 燐光のシステムに気付き、魔力が底を尽きさせようというのか?いや、それにしては先程黒呪魔法とぶつかり合う事を許している。レイに再び魔力を回復させる暇を与えている為に弱点を突くには至らない筈だ。


「アンタの、弱点は…!」


 何かが飛び出して来る。数多くの戦闘手段を持っているのは間違いない。僅かな油断から優勢を崩してはならないと、慎重にハルマジライズへと歩みを進めて行く。

 ハルマジライズは黒い渦から大量の魔力を引き出すと、その魔力は巨大な人型へと変わっていく。


巨帰遷影きょきせんえい・マグンアルシ!!」


 その魔力はそのまま影の巨人へと変わっていく。実体を伴っているようで、地面に降り立ったその瞬間にずしり、と音を立てて着地した。


「……それがどうした。そのまま叩き潰すだけだ。」


 確かに脅威ではあるが、レイにとっては黒呪魔法で出来ているのならば燐光が有効であるのには変わらない。この場を逆転させるほどのものであるようには思えない。

 それがなんであれ、確実に策ごと叩き潰す。それなら企みなど無駄だ。


「あんたの、弱点は…。」


 ハルマジライズが全身に魔力を滾らせる。


()()()()()()()()()!!」


 そう言うと共に、黒い爆発を起こした。先程の大爆発に比べると規模は小さく、咄嗟に構えた大楯で十分防ぎきれる範疇でしかない。いや、正確には防ぐだけの時間を稼がれたのだ。

 その隙にハルマジライズは跳び上がって空を飛んで上空へと飛んでいく。影の巨人はそれに伴うと共に、途中の横穴へと潜り込んでいった。


「なっ、待て!!」


 一人しかいないのが弱点と言った。であればあの影の巨人はどこへ向かうつもりなんだ。


「まさか……。」


 ぞくりとする。

 フーニカール王国にあの影の巨人が殴り込んで大暴れしたりすれば、国は壊滅的な被害を受けるだろう。しかし影の巨人を追えばハルマジライズを逃がす事になる。


「レイさん!!」


 その声の持ち主はシーニャだ。


「どうした!」


「私達にも、あの影で出来たような巨人の姿は見えています!ウィスタリアさんと一緒に奴を追います、レイさんは魔人を追ってください!!」


 影の巨人が奴にとっての切り札だとしたら、燐光の剣を抜きにして勝てるようなものなのだろうか。シーニャとウィスタリアも大きく消耗しているというのに任せても良いのか?

 だが、レイには悩んでいる時間などない。このほんの一秒の間にもハルマジライズは地上へと近付いている筈だ。


「分かった!そっちは任せる!」


 大楯を解除し、氷の翼を背に戻す。氷の翼から冷気を噴出させる事で推進力を生み出し、強引に空を飛ぶ。


「あまり賢いやり方とは言えないが、今は時間が惜しい!」


 そのままレイは飛翔し、猛スピードでハルマジライズを追っていく。

 それに続くようにシーニャが極光を発動させ、ウィスタリアを持ち上げて影の巨人を追いかけた。





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