第20話 死闘は続く
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「ウィスタリア!おい無事か!?」
「ぐっ…う…。」
腹部を切り裂かれたウィスタリアにアンテノルとガルグイユが駆け寄り手当をする。彼らは回復魔法を使える訳ではないので、薬や包帯などによる止血を行う。
「シーニャ!君は回復魔法があっただろう、ウィスタリアを治せるか!?」
「いえ、私はあくまでも自分の人体にしかまだ使えず…。」
「あらそうなの?せっかく真魔の攻撃と違って治せるのにそれは残念ねえ。」
ハルマジライズは嫌味ったらしくクスクスと笑いながら告げてくる。
どうやら黒呪魔法は真魔とはまた違うらしい。易々と情報を渡してきたのはもう逃がすつもりもないという事だろう。
「ハア……。分かってはいたけれど、アナタ達程度に天握領域まで使わされたのは腹立たしいわね。魔人の恥だわ。」
この姿のハルマジライズが異常なまでに強いのは単なる事実でしかない。人間を相手に使いたくないのも、そして使ってしまえば名誉が汚れるというのもまるで間違いでも無いのだろう。
レイはそれに反論するでもなく、ただ食いしばる事しか出来ない。
「ここで楽に殺してやったら私の気が収まらないわねえ。」
パチンと指を鳴らすと、空間の裂け目が一つ、二つ……次々とひび割れが奔り、その数は十にも及んだ。
「――――――っ!!」
先程見たのと同じなのであれば、これはまさに絶望そのものと言っていいだろう。
「ガアアアアアア!!!」
「ギ………ギ………。」
「シュウウウウ………。」
十匹もの真魔が裂けた空間から一斉に現れる。
先程シーニャとウィスタリアがどうにか一匹ずつ倒したのが十匹だ。
「せめて私を愉しませながら死んでくれないと、割に合わないわよね?」
「くそっ!!」
レイは氷の剣を構える。花弁を使い果たし、残る最後の氷装だ。
シーニャは極光を起動する。彼女は比較的消耗していないように見えるが、自分の傷は自由に治せるから見かけでは分からない。
「やれるか、シーニャ。」
「ええ、願ったり叶ったりですよ。」
シーニャの横顔が吊り上がるのが分かる。このような劣勢であっても戦う事に貪欲なのは、今は実に頼もしく見える。
「さあ、行きなさい!!」
「グアッ!!」
ハルマジライズの指示と共に真魔達が一斉にレイとシーニャへと飛び出して来る。死闘の火蓋が切って落とされた。
2
レイの武器は氷の剣ただ一つ。彼女の強みである状況に応じて武器を変えるというのも効果的とは言い難い。真魔に対しては魔法は無効化されてしまう為、実体を持つ剣の刃という軸があるからこそ真魔を相手に運用できるからだ。槍などにすると穂先は魔法の氷のみで出来ている為、攻撃が成立しない。
それでも掻き消える前に咄嗟に防壁や攻撃に転じたりは不可能ではない。しかしそれも氷の花弁に余裕がある事が前提であり、今のように残り一枚という状況下においては真魔には多少強力な強化魔法を使えるだけでしかない。
盾獅子、斧帯獣、剣虎。襲い来る真魔はいずれも十分に成体であり、油断ならない。
レイの放った筋力強化を伴った斬撃は身体全体が斧の刃のようになっている斧帯獣とかち合うと弾かれ、その隙を剣虎に狙われる。爪牙が剣の様に鋭く、獣の膂力で振るわれるその一撃を手甲で防ぐも衝撃はそのまま伝わってくる。
「ぐ、ぎ………!!!」
その隙を突くように、さらに盾獅子にシールドバッシュのような体当たりを見舞われる。防御の姿勢も取れないままに正面からその一撃を受けてしまう。
「があっ……!!」
さらに後ろには壁猪が突進してくる。別個体ではあるが、あの夜に従者たちの身体に一生残る傷を残した憎き真魔だ。
「お前にだけはっ、やられてたまるか!!」
敏捷強化を発動させる。壁猪の突撃に合わせて身体を切りつけ、その身体を沿うようにして回転斬りをする事でその衝撃を殺し切る。
「うっ…。どうだ…!」
三半規管がおかしくなりそうになりながらもどうにかそれを凌ぐも、まだまだ敵の攻撃は続く。そもそもただ攻撃を凌いだだけでしかなく、倒すどころか傷すら与えられていないのだ。
続いて剣虎の攻撃が差し迫る時、横から薙ぐような突風が吹き荒れる。
「こちらですよ、虎さん。」
シーニャがレイから攻撃を惹き付けてくれたようで、剣虎の意識もそちらへと向く。剣虎は
外殻を持たないタイプの真魔であり、シーニャとは相性が良好である筈だ。それを好機にと剣虎から逃れて別の真魔を狙う。
(しかし…!)
根本から問題がある。いくらなんでも数が多すぎて、そもそも勝つか負けるという領域にすらないのだ。結局は防戦一方になる他になく、それはただ敗北を先延ばしにしているだけでしかない。
(何か、何か無いのか!?)
どうにか勝つ手段を探る。目の前には10匹もの真魔が蠢いており打つ手は無く、その先にいるハルマジライズに至ってはどうやっても勝ち目が見えていない。
盾獅子に一撃を浴びせ、斧帯獣が丸まって跳び上がってくるのもどうにか躱しきる。
(いや、諦めるな!!)
レイがこのチームの主軸となっているのは間違いない。レイが真っ先にくじけてどうする。
今光明がないというならまずは少しでも敵を倒して取っ掛かりを作り出し、そこを起点にしていくのが吉だ。
敵はどれも真魔でありちょっとやそっとで倒せる相手ではない。それでも、真魔は種ごとに攻撃に特化した物から防御に長けた物が居る。
それこそ剣虎こそ狙い目だ。爪牙が剣であり、白い体毛は魔法こそ弾くものの、防御性能は高くはない。
「シーニャ!まずは剣虎から落とす!」
その指示に呼応するように、シーニャはこくりと頷いた。シーニャは今3匹の真魔と戦っており剣虎とは距離が離れていた。
レイが大声を出したのに反応したのか、離れた位置に居た弓蜥蜴がレイに向けて棘を撃ち込むが、それを斧帯獣を壁にするようにして撃ち落とす。混戦の中で剣虎に近付いていく。
同じように4匹の真魔と戦いながら剣虎へと近付くシーニャを、剣虎は狙ってきた。ただし切断を行使した攻撃であるお陰でシーニャからすると回避しやすく、自らを切り刻むことでそれを回避する。
そこから攻撃を加えたい所だが、二匹目の盾獅子に阻まれてシーニャの魔法による攻撃が中断されてしまう。
(ああもう、攻撃する隙もない!)
数が多すぎてシーニャすらも攻撃に転じる暇がなく、普通の真魔と違って真魔同士が連携するのにも苦戦をさせられる。
「ぅおーい!!」
そこに遠くから呼び掛ける声が聞こえてくる。アンテノルだ。
「二人ともっ!目ぇ瞑れ!!」
遠目に彼が何かを投擲したのが見えた。それを確認するよりも早く、彼の言う通りに目を瞑る。
アンテノルが投げたのは魔導器の一種で、強い閃光を放つ手投げ弾である。
周囲を強い光が照らし付け、一瞬だけ真魔の目を塞いでみせた。
(今だ!!)
(ここです!)
その光に隠れるようにしてレイは剣虎の喉を突き貫き、シーニャは白い体毛をすり抜けるようにして風を刃に変え雨あられのように上部から打ち付けた。
的確に上と下から攻撃を受けた剣虎は逃げる事すらできず、それどころか倒れることすら許されず絶命した。
「よし…まずは一匹!」
レイが僅かに気を許してしまったその時、剣虎の下に潜り込んでいる姿勢のまま隙が出来てしまう。側面から一匹目の盾獅子の突撃を受け、剣虎の骸を壁にするが受けきることも出来ずに薙ぎ飛ばされた。
「く…っ!」
幸いにも直撃は受けていない。アンテノルの咄嗟の手助けもあり手痛い一撃を受けることはなく討伐できた。このまま一匹ずつ仕留めれば、不可能でもない筈だ。
そう僅かな希望を抱いた時だった。
ただ傍観していたハルマジライズが指を鳴らしてまたも空間が歪む。
「……最悪だな。」
続けて3匹の真魔が投入される。合計で12匹、倒したというのにまるで減っていないどころか増えてしまった。
呼び出す真魔には際限がないのだろうか。ハルマジライズはこちらが落胆する様を見て、顔が無いというのに楽しげなのが所作からも伝わってきた。




