表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/88

第12話 其の地底は未知の集い

 ダンジョン。

 遠き地では魔物の巣であるというが、フーニカール以北の魔物生息圏においてはこれまで発見された事が一度もない。


 入口を下っていき、開けた場所に着くと周囲が谷底のように深く、通路のような場所まで一本道になっている。この谷から界喰鯨クリードは出現したのだろう。入口はフーニカールの郊外であるのに、まるで別の世界に来たようだ。


 周囲には隠れられそうな所はないし、インビジブルの再発動まではまだ時間がかかるらしい。シーニャが空気の僅かな揺れ動きで周囲の状況を完全に把握できるらしく、索敵を任せつつ警戒を絶やさず調査をしていく事にした。


「しっかし、調査って言っても何を調べていけばいいんだろ?」


 アンテノルが物珍しそうに周囲をきょろきょろと見回しながら言う。

 通路には幾何学的な模様がびっちりと敷き詰められており、まるで人工のものであるかのようにすら見える。


「ひとつひとつの情報ですら値千金よ。ほら例えばこの壁ひとつ取っても、国外で見つかるダンジョンみたいに人工物っぽいやろ?」


「これは国外のものと同じ特徴なのかい?自然物には見えないが…。」


「自然や魔法の仕組みでこういう風になるらしいんよ。結晶とかは見た事ある?あんな感じ。」


「成程。こうなるのがある種必然ではある訳ですね。石の断面がいつも一定であるようなものです。」


 ガルグイユの言葉で理解したシーニャと違ってレイ達はあまりピンと来なかったが、『石の断面が同じ』という表現でなんとなくそういう現象が起こりうるのは分かった。

 言われてみれば、自然だって一定の法則が無くては成立しない筈だ。その一部がこのような幾何学模様として顕れるのであれば、理解は追い付かないが納得は十分に出来る。


「国外のダンジョンは発生する理由なんかが決まっていたりするのかい?」


「言うなればダンジョンって、『魔力溜まり』なんよ。」


「『魔力溜まり』?」


「そう。吹き荒れる魔力が土地に蓄積して、こういう深くて強固な洞穴が出来る。次元が歪んでるとかなんとかで、中はやたら広くて独自の生態系が出来てるらしいんよ。

 そこを中心にして魔物が棲み付いて、次第に魔物から出る魔力が定着してダンジョンが形成される。だから奥に固まってる魔力の結晶をぶち壊してやればダンジョンは崩落する。

 ダンジョンには固有の薬草や魔物を目当てに、崩落しないように国が管理しとるところもあるぐらいやね。」


「それほど一般的な現象なのか。」


 フーニカールに魔物が絶えず襲い来るからそれに合わせた騎士の国へと発展したように、国外であってもダンジョンも使いようと言った所なのだろう。

 フーニカールでも真魔の素材から作られた武具は重宝されているし、それも納得できる。

 ウィスタリアがその説明に不思議に思ったのか、ガルグイユに質問する。


「待てよ。魔力溜まりっていうぐらいなら人間の魔力でも発生してしまうんじゃないか?フーニカールには真魔のせいで魔物が居ないが、人間は魔法使いばかりだ。それでもダンジョンは出来てしまうんじゃないか。」


「ここは仮説やけど、多分魔物が居ないせいやろね。魔物が居ないと魔物から出る魔力も無くてダンジョンが定着しない。それだとダンジョンが出来ても小規模なままで、勝手に崩落してまうんちゃうかな。」


「なるほどな…。小規模で発生する訳でもなく、魔物の魔力がないとそもそも出来たそばから壊れてしまうのか。」


 レイはその話を聞き、かつて領地の土壌改善を行った事を思い出していた。

 あれも国外で一般的に使われているらしい魔力による土壌への働きかけとは違う手法を採らなければ成立しなかった。言うなれば、それは土の性質そのものが異なるのではないか。

 確かに、この国においては魔物が居ないせいで、魔力の性質が違うのかもしれない。その事をガルグイユとも共有してみる。


「へえ…。面白い事しとるね。そうやって土の性質が違うのも、魔物のせいかもしれへんね。」


 北方の地であるから土が違うだけかと思っていたが、となると色々な事が変わってくる。元々国土面積は規格外に多い国だ。同じように土壌を弄れば色々とこの国でやれる事が増えるかもしれない。


「お、そろそろ使えるかな。」


 パチン、と指を鳴らすとガルグイユの身体が透け始める。


「よし、これでダンジョン内の調査で交戦のリスクを最大限に減らせるだろう。奥へ進もう。」


 五人全員が再び透明化をしたのを確認すると、奥へ奥へと進んでいく。

 内部はまるで迷宮のようになっており、奥から真魔が湧き出てきているようで何度かすれ違うようにして外に出ていく所を目撃した。


「(やはりこの奥に何かあるようだな。ガルグイユ、国外のダンジョンでもそうなのか?)」


「(魔物はダンジョンの各地に巣を作るようにして生息しとるけど、なんか変やね。そもそも、こんな絶え間なく真っ直ぐ出ていくっていうのもおかしな話や。)」


 ウィスタリアとガルグイユの会話を聞いたアンテノルが、腑に落ちたようにつぶやく。


「(あー、そっか。確かにそうだ。中で生態系が出来てるって言うんなら、魔物にとってそこから出る意味ってあんまり無いよな。)」


「(………なるほど。)」


 ダンジョンというものの性質を鑑みて、この国において発生しない理由には納得がいった。その反面、この国に出来たこの『ダンジョンのような洞窟』はさらに疑問が湧く。さらに、ダンジョンから魔物が出てくる理由も不明と来た。

 この違いはどこか国に重大な被害を齎すような不吉な予感を感じさせる。一早く調査に出たのは正解だったかもしれない。


「止まってください。」


 風魔法の応用から空気の流れを読み、索敵していたシーニャが皆に合図を出す。

 単に真魔がやってきただけならばインビジブルの効果ですり抜けられる筈だと不思議に思う。


「この先の空間に…。おそらく真魔のものではない、呼吸音がします。人間かもしれません。」


 シーニャが指差したのは通路と通路の継ぎ目のような壁だった。

 そこには人一人がギリギリ通れそうなほどの隙間があり、シーニャの話だと少しばかりの空間があるという。


「もしかすると生存者かもしれない。行こう。」


 このレイの言葉に否を唱える者など居る筈がない。皆が強く頷いた。

 強いて言うならばガルグイユは商人として否定するかもしれないが、そもそも彼は金にがめついが人当たりは柔らかく、それでいて利の面でも王宮騎士団に恩を売れるとなれば単に金以上の利益と言える。彼の目的は単純に金だけでなく、この国における名声もその一つであるからだ。


「この裂け目…。真魔は入ってこれなさそうだな。」


 真魔は小柄なものでも人間よりはずっと大きい。このような状況であるので未知の真魔が存在する可能性もあるが、彼らの持つ白い岩のような甲殻や鱗は超硬度と共に魔法を弾く為か巨大化しているからである。

 もしこの先に生存者が居るならば、そこは少なくとも安全地帯であるはずだ。


「おい、これ…。」


 足を踏み入れようとしたアンテノルが、しゃがんで地面を指でなぞる。

 彼の指の先にあるのは血痕だ。既に乾いており、ある程度の時間が経っているのは間違いないだろう。


「真魔も入り込めない安全地帯への抜け道に血か…。どうしても、嫌な事を想像してしまうね。」


 真魔由来の傷は回復魔法を使えない。王宮騎士は皆真魔との戦いに備えて止血用の薬草や包帯を常に持ち歩いているが、それもあくまでも応急処置に留まる。

 アンテノルの見つけた血痕は思いの外多く、それは中までずっと続いている。ここに来るまでにある訳じゃなかったから、きっとこの裂け目に逃げ込む時に負傷したのだろう。


「行こうか。」


 その血痕を上から踏みつける様にして奥へと進んでいく。横向きに身体を滑り込ませるようにしながらでないと入れないような隙間だ。剣や鞄は手に持ってようやく通る事が出来た。


「おっと…。これは…。」


 前を行っていたウィスタリアが言葉を濁したように驚きの声をあげる。レイも同じ場所を通り抜けた際、その言葉の意味が分かった。その場所はより一層多くの血が溜まっており、そこからは引き摺るようにして血痕が壁にもこびりついているからだ。


 やがて細い道を抜けていくと、小さな空間へと繋がっていた。

 五人だと少し手狭であるが、まるで身動きが取れないという程ではない。そこに、二人の騎士が居た。

 一人は腹部に大きな穴が開いて横たわり、もう一人はうなだれるようにして座り込んでいる。


「真魔じゃ…ない?」


 彼は既に死を覚悟していたのだろうが、レイ達の顔を見て驚きの色を見せる。

 顔は土気色をしており、彼の過酷な戦いを物語っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ