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第8話 真魔に抗う最前線

 レイ達がダンジョンの調査へと向かう決意を固め、準備を進めていた頃。


 王都の北に地平線を跨ぐように存在する、対大侵攻防衛砦・ヴァルハラ。真魔が確認された今はそれまでの道のりも多くの馬防柵が並べられ、物々しい雰囲気が立ち並ぶ。

 その北部には真魔が蠢き、砦を打ち崩さんとする。

 百を超える数の真魔には様々な種類が混在しているが、あまりにも硬い甲殻と鱗に包まれているのは全てが共通だ。魔法を打ち消し、ろくに攻撃など通用しない、正真正銘の化物。故にこそ真なる魔物、『真魔』と呼ばれるに足るものだ。


「ガアアアアアアアア!!!」


 一番槍を切ったのは猿のような姿をした魔物だ。だが首回りにはたてがみが生えている分まるで猿には見えず、凶悪なおぞましく血走った眼光と合わせて身体が数倍大きく見える。

 その外皮は白く硬い鎖帷子くさりかたびらの如き体毛で覆われており、爪は長く鋭い鎌のようだ。


 鎌のような爪が砦の前に出ている、馬に乗る兵士に向けて振るわれる。


 だがそれに対し人類はただ食われるばかりでなく、対抗するだけの牙を持つ。

 それこそが熾剣。これは必殺剣でなく対真魔を想定するならば、持っていなければ戦えない大前提だ。


「熾剣・山斬やまきりィ!!!」


 馬上から地面に届くかと言う程の巨大な剣。それが巻き起こる風圧と共に薙ぎ払われると体毛を搔き分けて肉へと到達し、猿の真魔の身体を両断する。


「昨晩に続け、戦は本格化するだろう!だが恐れるな!

 お前達の前にはこの騎士団長・アウフヴィロ=ベルゼンが立っている!」


 猿の血がこびりついたその巨大剣を片手で持ち上げ、鼓舞する。それには強化魔法すらも使っておらず、規格外の膂力が窺い知れる。


「全軍、出撃ィィィイイイ!!!!」


「「「オオオオオオオオオオオ!!!!」」」


 地を鳴らすほどの雄叫びと共に王宮騎士団が進軍する。

 王宮騎士団の正騎士は、現在総勢73人。装備している武器・防具は様々だ。真魔から作られている装備は支給品とはまた違うものだし、武器は各人の『熾剣』に合わせて武器種すらも異なっている。

 五人一組になり、真魔へ交戦を開始する。彼ら王国騎士団は不確定な行動と状況に対峙する事ができる人数が五人とし、一部隊につき五人にするよう定めている。周囲の真魔が乱入してきても対応が可能で、真魔が予測不可の行動を行っても対応が間に合う。可能な限り被害を抑えて各個撃破を行い、数の上での逆転を目指すのだ。

 一部隊を調査に向かわせている為、現在十一部隊が展開している。番号が古くなるに従って古強者揃いであり、彼らがさらに率先して前に出る。


 それらとはまた別の部隊が二つ。遊撃部隊と防衛部隊だ。


「ハッハッハ!!行くぞ真魔共!!」


 遊撃部隊は団長のアウフヴィロ=ベルゼンを筆頭とした7人で構成された部隊である。

 団長アウフヴィロの体格に合わせた大型馬が戦場を駆け巡る。魔鉄鉱・真魔素材により作られた馬具が全身に着用しているその姿はまるで魔物のようであり、魔物の爪牙であっても通さずに振り切ってしまう程だ。

 その馬の動きに合わせて巨大剣を薙ぎ払うと真魔の身体が吹き飛んでいく。

 勿論真魔を相手にする以上は一撃で殺せない事の方が多いが、その一撃により大きく後退したり姿勢を崩すのはアドバンテージを生み出し、その取り零しを残りの六人が刈り取っていく。これらの連携を絶えず行う事で可能な限り真魔を殺す事で状況を打開し、優勢へと転じさせるのが目的だ。


 一方で防衛部隊は副団長のフィマール=フォン=ヘルテイトが指揮を務める。他の部隊と違って『盾の熾剣』を持つ者にその人員が限られる。

 こちらの部隊は全員が身体を隠してしまう程の巨大な大楯を装備しており、真魔の攻撃に対してもまったく怯む事がなく、はじき返してしまうほどだ。それと片手に持つ刃が特に長く作られた刺突剣を組み合わせる事で、安全性をまったく落とさないままに最低限の迎撃を可能にする。

 どうしても狙われる事になる砦への攻撃を防ぐ部隊として、主に砦の出入り口を中心に構えている。致命的な大技を砦に詰めた従騎士達のボウガンと併せて食い止めるも彼らの仕事だ。

 副団長フィマールは団長とは真逆に、戦場全体のカバーへと回る。彼は両手共に大楯を持っており、その大楯を合体させる事でさらに巨大な盾としてしまう。盾をスケートボードのようにして戦場を掻き分けて進み、危険な戦況に割って入って攻撃を防いでやる。


 熾剣はその性質上同じ性能になる事が出来ず、統一できない為に個人戦が中心になってしまう。そこを団長・副団長が共に戦場全体の攻守を補強する事で、さらに有利に傾かせる。それが今の王宮騎士団の編み出した戦術だった。

 これは二十三年前の大侵攻による惨禍を受け、戦術を基礎から練り直した結果生まれたものだ。


 さらに続けて、学院騎士団の増員がやってくる。

 殆どは従騎士・従卒に混じって手伝いをするに留まるが、ロウェオンをはじめとした熾剣を持つ一部生徒のみが五人一組になり、王宮騎士に混じって戦場へと出る。

 ロウェオンが頭となる部隊の中には、かつて『鎌鼬事件』にてシーニャに切り裂かれたマルアードも含まれていた。


「お前達!王宮騎士団の者達の足を引っ張るなよ!」


「「「「はっ!」」」」


 その最も前に出ているのは勿論ロウェオンである。

 彼の武器は細い剣だ。だがそれが団長・アウフヴィロの持つ巨大剣に匹敵するほどに長く、それに合わせて刃も太く、持ち手も両手持ちが出来る構造になっている。

 言うなれば研ぎ澄まされた鉄の棒とでも言うような異質な外見をしており、彼の持つ武器に近しい武器はこの戦場に他にない。


「グギ、アアアアアア!!」


 学院騎士団の応援部隊に最初に立ちはだかったのは弓蜥蜴アローリザード

 四足歩行のトカゲで鱗が堅く、巨大な個体ほどその継ぎ目が隠れていき隙が無くなっていく。しかし最大の特徴は名前にもある弩のような尻尾だ。

 弦を引き絞るような動きと共に体内で生成した棘を発射する事が特徴で、この弓蜥蜴の放つ棘は砦の城壁に大きな被害を齎す事でも知られている。

 更には真魔の中でも非常に高い知能を持つ生物でもある。弓というのは非常に高度な知能があってはじめて扱える。魔物でありながらどうすれば命中するのかを理解しているのだから、この真魔が厄介であるのがよく分かる。


 今回ロウェオンの前に現れた弓蜥蜴はかなり大きな個体であり、今まさに棘を砦へと放とうとしている最中であった。

 本来は少し遠くから狙いを定めようとしていたが、騎士達が強引に中断させた事で逆に砦へと近付くように戦乱に紛れ込んだ。そこへ幸か不幸か、ロウェオンが現れたのだ。


「熾剣。」


 ロウェオンの発動した熾剣は風を纏い、円を描くようにして弓蜥蜴の身体を切り裂いていく。だが、その鱗に弾かれて刃が通らない。単なる熾剣では、この継ぎ目のない鱗の体表を簡単に貫く事は不可能だ。


 だがロウェオンは、続けざまに熾剣を再発動すると棘を発射しようとする弓尾の先を切り裂いた。攻撃の瞬間、棘を射出する為に鱗が開いて隙が出来ると考えたからだ。


「ガアアアアア!?」


「高い知能が仇になったな。熾剣を身体に向けられた時点で安心したのか?」


 当然、真魔は尻尾を潰された程度では死なない。爪牙に硬い鱗は今も健在のままだ。


「ガアアアアアアアア!!!」


「さあ最初の獲物だ。狩るぞ。」


 総じて多勢に無勢であった真魔の群れすらも乗り越えてしまえそうな、それほどに安定した戦況であった。元より優勢であったのを、ロウェオン達の応援でさらに盤石になりつつあるように見えた。

 しかし、それも長くは続かない。

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