第7話 レイの誓い
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結果から言うと三人は、命を取り留めた。
レィナータの咄嗟の行動により、三人が大事に至る前に薬師が到着したのだ。
真魔の襲来に備えた設備のある王都と違い簡易的な処置しか施す事は出来なかったが、それでも薬草と止血により一命を取り留め、アトリーズ家、つまりサリーの家に密かに通告する事で良質な薬などを輸送して貰えたのだ。
サリーの家としたのは、レィナータの判断である。
この状況、恐らくは自分のカルラシード家によるもの。そしてメリアスの家であるゲイルチュール家も恐らくはカルラシード家と多少なりとも繋がりがある。そうでなくとも、弱みを握られて従うしかないかもしれない。
政治的に領地を持たず、娘を純粋に応援しているとするアトリーズ家であれば助力を嘆願できると考えたのだ。レィナータの謝辞にもアトリーズ伯は娘の健闘とレィナータの判断を褒める言葉と、御身の無事を綴っていた。
この試みが功を奏し、メリアス、サリー、ツバキの三名は皆揃って死の淵より生還した。
ただし。
ツバキは胸の中心に傷が残った。左耳を失い、顔には真一文字の傷が残った。
サリーは左腕を喪失した。
メリアスは右脚を喪失した。
真魔による怪我は回復魔法で治癒する事ができない。彼女達は生涯、身体に欠損を抱えていく。
彼女達が傷口由来の熱に魘されている間、レィナータもまた魘されていた。
好調になりつつある自分の身体。そして不自然に現れる魔物。
これは、どういう事なのかレィナータは完全に理解した。してしまった。
これは、辺境であるウズの村すらも巻き込んだ暗殺計画であったのだ。
その為にレィナータをメイド三人と共にこんな村へと送り付けたのだ。
「私であっても、王位継承権は有している。それが、お父様や姉上にとってどうしようもなく不快なんだ。」
即ち、壁猪が襲い掛かって来たのは自分のせいである。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
2
彼女達に、どうしようもない傷を与えてしまったのは私のせいだ。
しかし腹立たしい事に彼女らが傷ついても、サリーしかその身を気にする者はいない。
そしてアトリーズ家は私を気にするなと手紙を送りつけた。きっと、愛する娘が傷物になって内心深く悲しんでいるはずなのに。
三日三晩泣き腫らした。
自分への理不尽以上に、彼女らに向けられた理不尽へ怒った。
メリアスも、サリーも、ツバキも。
皆私と共に殺すつもりだったのだ。殺しても良い人材を私と共に辺境へと追放したのだ。
胸の奥へ憎悪がひしめく。だが。
メリアスの騎士たらんとする清廉さを想う。
サリーの優しい母のような笑顔を想う。
ツバキの穏やかな姉のような暖かい言葉を想う。
彼女らを想うと、胸の奥の憎悪などちっぽけな程に暖かい光が溢れるのを感じる。
そして、決めた。
誰も居ない暗がりに包まれた屋敷の中、エントランスホール。その中心にある国母・フリッグ像へ向けて高らかに宣言する。
「だったら。」
「もしも、この国が彼女らを否定するというのなら。」
「私はそれを否定する。」
「この国の誰もが彼女らを不幸にするというのなら。」
「私が皆を幸福にする。」
「私が皆を幸福にし、私が彼女らを皆貰ってやる。」
「女が女を娶るのをこの国が許さないというのなら。」
「私がそれを変えてやるのだ。」
「そうだ。」
すう、と息を吸い込む。
レィナータは叫ぶ。
「レィナータは死んだ!!」
「僕はレイだ、この名は次なる王となる名だ!!」
「僕の願いは――3人のメイドと結婚したい!!!」
「その為になら、王にもなってやるとも!!」
「僕の知恵も、悪知恵も。メリアスと、サリーと、ツバキと。そして、民の為に使おう。」
かくして、レィナータ、いいやレイはあらゆる悪意と理不尽と運命を乗り越え、王となる事を誓ったのだ。
愛する三人の女性を娶る為に王に成る。
清々しく不純な動機に聞こえる願いは、間違いなく潔白にして清廉な美しさを秘めていた。
【1章 流転する運命・完】




