表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
5章 光の騎士
60/61

第15話 悔恨を断つ刃

 氷の両手剣を右下から薙ぐように切り上げるレイ。

 凍った床を飛び越えて両手に焔をたたえたまま飛来するウィスタリア。


 氷の両手剣はウィスタリアを捉える……事は無かった。さらに空中へと直線的に移動する事で氷の両手剣を躱したからだ。


刃焔(じんえん)!!」


 その斬撃を躱すと同時に空中でそのまま右手の剣に宿る炎を刃と一体化させる。先程、レイの鎧を容易く切り裂いたあの剣だ。そのまま、剣を振り下ろす。

 この試合は二本先取。もう一度鎧を裂かれればレイの敗北だ。

 氷の両手剣に躊躇いもなく振り下ろす辺り、彼には打ち合った時に負ける事はないという確信があるのだろう。

 氷の両手剣と赤熱した刃がぶつかり合う。その瞬間、氷の両手剣へじゅわりと音を立ててめり込んでいく。


 だがその刹那――氷の両手剣のさらに下より、氷柱が飛来する。


「っ!?」


 氷の両手剣が視界を遮り、このように氷柱を形成しているのが見えなかった。咄嗟に逆噴射で躱そうにも、右手の剣は既に攻撃の為に焔を転用している。左手の炎は推進力にしている以上反転もさせられないだろう。


 レイの目的はこれだった。空中でも関わらず動き回れるこの熾剣は見事なものだが、飛んでいる間は自らの足で制御が出来ず二本の剣にその身を委ねている。

 なので床を凍らせて下段から切り上げるように両手剣を振る事で、上空から攻撃をするように仕向けたのだ。そうすれば動きは制限されてしまっている。


「っ……刃焔!」


 もう片方の剣も同じく赤熱化させる事で対処すると決めたようだ。あの剣は猛烈な切れ味を誇るだけでなく、破壊力と熱を伴う事で攻防一体と成る。

 其処へ、レイもさらにダメ押しを叩き込む。


「『破砕の双撃』!!」


 左手で持つ氷の両手剣。赤熱化した右剣が食い込んでいる。

 右手で放つ氷柱。ウィスタリアはそれに対して赤熱化した左剣で防ごうと構えた。

 その両方をまったくの同時に破砕の一撃として撃ちだす事で、対処を間に合わせない。


「がっ……!!」


 結果、ウィスタリアは耐えきれず後方へと吹き飛んだ。

 受け身を取れずに地面へと叩きつけられ、武器も落としたようでカランカランと二度音が響く。


「一本!レィナータ!」


 武器は破損していない為に決闘を決着するには至らないが、落としてしまったために一本として判定された。とはいえ、それが無くとも受け身を取らずにもろに落ちていったのはそれだけで一本として有効だっただろう。

 背中をさすりながら立ち上がると、ウィスタリアは落とした剣を拾い上げる。


「今のは効いたよ。まさかそこまでしてくるとはな。

 だが……。」


 ウィスタリアはレイへと視線を向ける。いや、正確にはレイのさらに背中に浮かぶ氷の花弁だ。

 言いたい事は分かっている。残る花弁の枚数だろう。


 一枚目は最初の剣に。ウィスタリアに投げつけた破砕の一撃は逆噴射で回避された。

 二枚目は氷の槍にし、その後破砕の一撃で床を凍り付かせた。

 三枚目は両手剣を形成、四枚目は氷柱。その両方を破砕の双撃として打ち砕き、ウィスタリアのガードを打ち破って一本を取って見せた。


 だが、その手法は床を凍らせた為に動きを一時的に制限でき、破砕の一撃を二発同時に叩き込めたからこそだ。それには合計で三枚もの花弁を使ってやっと可能とした。レイに残る花弁は二枚しかなく、同じ手法はもう使えない。

 先程凍らせた床も既に溶けてしまっている。なるべく範囲を広くするために表面のみを凍らせるようにしていたので、無理からぬ事ではある。


(ただそれらが生きていた所で、ウィスタリアを相手にもう一度同じ策は通じないだろうな。)


 ウィスタリアほどの腕であれば一度見た動きを馬鹿正直に繰り返した所でいくらでも対応が可能だろう。

 花弁二枚で同じ事がもし出来たとして、レイは同じ行動をするつもりは無かった。


 ウィスタリアが初期位置へと移動する。レイもそれに続いて定位置に戻る。


(単純な地力は完全にウィスタリアが勝っている。その中で少ない花弁から勝利を手繰り寄せるには、何か決定打となる機転がなくてはならない。)


 開始が告げられるまでの数刻、それを見出す為につぶさに観察を欠かさない。

 彼は大きく怪我もしていなければ、どこかに付け入る隙がある訳でもない。欠点らしい欠点も存在しない完成度。強引に弱点を突くには花弁を複数枚行使して場を整える必要がある。


「三本目――はじめ!」


「熾剣・二刀奉焔!」


 メリアスの声と同時にウィスタリアは熾剣を使うが、レイに動きはない。

 レイピアを突き詰めたままくまなく観察する事で少しでも情報を集め、光明を見出そうとしている。


 ウィスタリアの方も熾剣を発動こそさせたものの、それ以上はレイの出方を窺っている。それは、先程見せた『破砕の双撃』の圧倒的な威力を見ての事だ。彼の機動力ならば回避する事が可能なのも事実だが、 一方で危うく受けてしまえば最早敗けは免れず、守勢に回れど受けきれないほどであるのは先の戦いの通りである。

 レイの極光はまさに変幻自在。あらゆる状況に対応し、武器や氷の形成を考えればその用途は多岐に渡りどこから仕掛けてくるか分かったものではない。それを理解しているウィスタリアは攻めあぐねていた。


 だがそれは、レイの方も同じ事だ。


(…………駄目だ、隙なんて無い。熾剣の完成度が高すぎる。)


 極光はひとつしか持てず、その代わりに心の変容により手を加える事が出来る。その為に魔法使いにとっての珠玉の品であり、奥義と言える。

 しかし熾剣は複数の所持が可能である代わりに、はじめに決めた『悔恨を断つ刃』のイメージからほぼ弄る事が出来ず、せいぜい微調整に留まる。

 そういった違いからレイは応用できるものを編み出す為に先に極光を習得した。なるべく様々な状況に対応したかったから、そこまで踏まえて決めた。


 だからこそ熾剣はどこか綻びがあって当然なのだ。

 あのヘドウェッジも人格はさておき腕は確かにも関わらず、熾剣・毀壊大蛇には圧倒的な破壊力の代価として『発動時は三連撃になる』『威力が乗るまで攻撃回数が必要』としてそれぞれデメリットを背負いながら成立させていた。


(何故だ、何故これほどの完成度の熾剣を作り出せたんだ?)


 ウィスタリアはレイと同じ年齢だ。レイも相応に波瀾万丈な人生を歩んできたつもりだったが、熾剣の悔恨を断つイメージがそれを上回るというのはレイを超える程に激動の十五年を送って来たのだろうか。


(…………いや。待てよ。)


 ひとつだけ気にかかる事があった。


(そうだ。何故彼は始めに、メリアスの剣技と同じ構えをしていたんだ?)


 メリアスの実力は人並外れており、最早余人の範疇にない。故に彼女と同じ構えをしてもまったく同じ挙動など出来ないのだ。剣を下げる彼女の構えは完全に独学であり、まるでセオリーから外れている。メリアスを師とするレイも彼女の構えをベースにしてはいるものの、あくまで人の範疇で扱える程度に留める。

 であるにも関わらず、何故かウィスタリアはメリアスと同じ構えをした。それでは実力を発揮しきれないだろうに。


(まさかこの熾剣に、メリアスが何か関わっているのか?)


 ちらりと審判を務めるメリアスを見る。

 彼女は人の顔を覚えるのが苦手で、名前を知らなければろくに判別もつかない。だがその一方で、彼女の並外れたその剣は多くの人の脳裏に焼き付いて生涯忘れる事はないだろう。それがたとえ、彼女と敵対したものであってもだ。


(この熾剣にもしもメリアスが関係しているなら――)


 瞬間、追憶する。

 厳しい修行の日々を。メリアスの人並み外れたその剣を叩き込まれ、理解の範疇を超え過ぎて悔しさから涙を堪えた日々を。


(メリアスの剣にこの世で最も近く、最も識っているのは僕だ。)


 もしもそうであれば、ウィスタリアの熾剣はレイでも破れないのではない。レイだからこそ破る事が出来るのだ。

 そしてその理由が自らの愛しき者に依るのであれば、意地でも破らねば罷り通らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ