第14話 その焔は刃に宿る
12人もの元王宮騎士団の従騎士・従卒を斬り伏せた熾剣。間違いなく強力であるのに疑いはない。
これほど離れた距離で使用したのだから、ヘドウェッジの熾剣・毀壊大蛇のように単発で繰り出す技というよりは、自在に発動した熾剣の効果を発揮する類のものに見える。だが、あの炎を破砕の一撃のように投擲する可能性はある。油断は出来ない。
氷の剣を構え、ウィスタリアの次の行動へ絶えず警戒を怠らない。対しウィスタリアは両手の剣を逆手へと持ち替えた。
(―――――来る!!)
「噴迅。」
ウィスタリアがそう呟くと同時に、熾剣の炎がさらに大きく噴き上げると、その場へ熾剣の残光を残しながら猛スピードで近付いて来る。
「っ!!」
氷の剣と炎の剣がぶつかり合い、周囲の床には冷気に当てられ凍り付く部分と炎が舞い散り焼けこげる箇所の両方をその場に残す。
その斬撃は速く、レイは手元で剣を翻すようにしてどうにか受け止めると、体当たりをするようにして距離を強引に作り出す。
(剣に宿る炎を燃焼させて、その勢いで高速移動!単純だが厄介だ!)
純粋な剣を振る力ではなく、推進力が乗っている。速さを突き詰めた結果、それは攻撃力としても大きく作用し、強化魔法を使ったのにも関わらずぐらついたのはレイの側だった。
しかも、熾剣の焔は多少小さくなったが未だ尚燃え盛っており、再使用が出来るようだ。粘り勝ちを狙うのも厳しいだろう。
「噴迅!」
レイがそう考えを巡らせる間にもウィスタリアが再び熾剣を燃焼させて襲い掛かる。
ただ純粋な速さ。だからこそ応用の幅が広い。
(だったら、その分急には止まれないんじゃないのか!?)
剣を構え、投擲の要領で振りかぶる。『破砕の一撃』だ。
熾剣の炎を推進力にしている為に反応が遅れ、破砕の一撃に突っ込んでくる事を期待した。そうでなくとも熾剣で切り裂く事で反応すれば僅かな隙が出来る。そこを足掛かりにしたいと考えた。
だが、ウィスタリアはそれを思いもよらぬ方法で解決してしまう。
「反転!……噴迅!」
推進力としていた右手の炎を逆方向に噴射し、ウィスタリアの動きは回転へと変わりながら止まる。
それにより空中で停止し、さらに再発動により空中で捻るような動きを見せた後、軌道を変えて飛び立つと素早く破砕の一撃を迂回するようにして回避した。
「な…!!」
とんでもない挙動だ。凡そ、ただの剣技ではない。飛び掛かってくる今もまるで剣技を遥かに超越している。
レイは二つ目の花弁を、氷の槍に変えると敏捷強化を使用してどうにか受け止めようとした。武器のリーチという優位を以てこの競り合いを制そうと考えたのだ。
だが、それは悪手だった。ウィスタリアの剣はこのような挙動を見せるのならば、即ちあらゆる姿勢からでも攻撃が可能だ。
二刀奉焔の炎が舞い上がると、ウィスタリアは下段へと身体ごと潜り込む。槍の穂先を見事に躱すと、再び旋回するようにして足で地面を蹴って切り上げた。
「焔刃!」
右手の剣の炎は、その剣と同化するようにして刃の一部となり、赤熱した剣は切れ味を遥かに増す。
そのまま放たれた斬り上げは、レイの氷の鎧の表面を切り裂いた。
「ぐうっ!」
「ウィスタリア、一本!」
鎧が容易く切り裂かれるとは想定外だった。疑似的に攻撃力そのものも底上げ出来てしまうのか。そのようにして思案を巡らせていると、不安げなサリーの顔が見えた。
「レ、レイ様……。」
「ああ、大丈夫さ。」
この鎧は切り裂かれたが、その刃は身体にまでは通っていない。だが、鎧が破損した以上は審判を務めるメリアスは一本と捉えたのだ。
勿論、さらに一歩深く踏み込んでいれば先の一撃でレイを絶命させる事も出来た筈だ。
(甘く見ていたつもりは無かったんだけどね…。)
これはレイが何か考えを上回っていたのではなく、試合という形式に助けられた。
純粋に身体能力を飛躍的に向上させ、それを自在に操る事が可能で、しかも剣そのものを強化すると転用が効く。
かなり研ぎ澄まされた熾剣だ。熾剣は元々複数持てる一方で改良が出来ない。作り出した時の性能で固定されてしまう。であるのにも関わらずこれほどまでの性能を持っているのは、『彼の悔恨を断ったイメージ』がより明確であった事を示している。
(まったく。改良がしたいから僕は極光から習得しようと思ったのに。)
そんな思いを入り混じらせながら初期位置に戻る。
ウィスタリアの剣に視線をやると、右の剣は赤熱をやめて元の銀をたたえている。一方で左の剣はまだ熾剣の効果が残っていた。
(切れ味が上がるのは、あくまでもあの一瞬だけか。しかもあれを使うと使った側の剣の熾剣は解除される。)
先程の戦いにおいてはレイは成す術なく敗北を喫した。だが、それをただの敗北とするのか糧と出来るのかはこれからの戦いに懸っている。
「二本目、はじめ!」
メリアスの掛け声と共に、ウィスタリアとレイは相手の動きを見るよりも先に動く。
「熾剣・二刀奉焔!」
「破砕の一撃!」
ウィスタリアは熾剣を再発動させ、炎の無くなった右の剣・炎の小さくなった左の剣をそれぞれ再点火させる。あらゆる動きを熾剣が重要になる為、ウィスタリアは狙われるだろうリスクを踏んでも優先すべきだと考えたのだ。
レイはそこへ間髪入れずに破砕の一撃を叩き込む。ウィスタリアの憂慮の通りだが、もしも攻撃への対処で熾剣を即発動しなければ熾剣が遅れてレイのペースに巻き込む事が出来る。即発動をした場合には対処に一歩遅れると考えた。
飛来する氷を躱す為、再びウィスタリアは二刀奉焔を推進力へと変える。
「噴迅!!」
咄嗟に氷を躱す為、噴出させた炎により後ろへと下がるようにして躱した。
だが、氷はそのまま真っ直ぐには飛ばず、ガクンと地面に下がって地面にぶつかると、そのまま床を凍らせる。シーニャのように自在に遠隔で操る事は出来ないが、この氷が魔法である以上は事前に挙動を入力しておく事で重力に逆らった挙動も可能となる。
床の表面を薄く凍らせ、その範囲は舞台中央部を覆うほどだ。
「……床を凍らせれば、俺が動けないと思ったか?」
「どうだろうね。だけど、そのままの動きをされると僕に勝ち目は無いんだ。」
新たな氷装を作り出して対応するにはウィスタリアの熾剣はあまりにも速く、それでいて氷の鎧を断つ手段もある。しかもそれが単発の技ではなく継続して発動する。ただ戦うにはレイとあまりにも相性が悪い熾剣だ。
だからこそ、レイの持つ極光の応用幅の広さの見せどころだ。
『氷装華フルード』は武器を作り出すだけのものではない。こうして床面を凍らせる事で相手の動きを制限させられる。
「噴迅!!」
ウィスタリアは氷の上を、噴射する炎の急加速により飛ぶ。
いや、飛んでいるのではない。空中であっても直線的に移動していると言うべきか。ただジャンプして跳ぶ事は飛ぶ事ではないように、噴射の推進力で空中でも一時的に移動が出来るだけだ。
レイもそう来るだろうとは考えていた。氷を迂回するか、氷を飛び越えるか。そのどちらかは分からないが、無策で氷の上を歩く必要はウィスタリアには無い。
(それを待っていた…!)
レイピアの護拳を背に浮かぶ氷に当て、三枚目の氷の花弁を使用する。
次なる形は巨大な両手剣。それはレイの上背を超えるほどの大きさを有している。
氷の上を、炎と共に冷気をかき分けて真っ直ぐに空中を進むウィスタリア。
彼に向けて氷の両手剣を左下から薙ぐように振り抜く―――!




