第12話 希う
鼠の牙へレイ達が殴り込みをかけて潰す事には成功したものの、後始末にはそれ以上に苦労した。
元王宮騎士が頭領の犯罪組織『鼠の牙』。
警備を務める王都自警団は把握しながらも手出しが出来なかったようだ。彼らは武装こそしているが強化魔法は最低限の習得に留まっており、よくて元従騎士しか居ない。それでも街の治安維持や国外から来た旅人程度なら余裕で対処できるのだが、今回の相手は流石に分が悪かったらしい。
強引すぎる押し入りにも、第六王女という高貴なる身分がよく効いた。レイは無闇に権力を振るうのは好きではないが、平民や貴族の身分であれば難しい事に飛び込むのに役立つのであれば、寧ろ活用してやるべきだ。
また、平民街の民衆が困っていたのを『烈氷の剣姫』が解決したというのだから皆喜び、放課後にレイが顔を出した時にはすぐさま人だかりが出来た程だった。
ヘドウェッジは偽名であり、その本名をエドージク=ヘルダンというらしい。
その才能から戦貴族の養子として引き取られるもその粗暴な性格から数々の問題行為を引き起こした挙句、学院卒業と共に半ば縁を切られ、そのまま王宮騎士団に入団。着服により3年で退団させられるも、それまでに自分の着服で利を得ていた元従騎士・従卒たちの証拠を半ばわざと押さえさせて共にクビにさせる。そしてそのまま『鼠の牙』に引き抜いたという。
子供達を使った軽犯罪も含め、他者を上手く使う事に特化したその手口は凶悪極まりないものだ。人死にも出ているとの事で、極刑は免れないだろう。
アリアをはじめとした子供達は、ヘドウェッジによる犯罪組織の使い走りをさせられていたという事で罪を帳消しにした。
これから行く当ても無かったところへ、
「なら、僕の領地に皆で来ると良い。
ウズの村はここと比べると寂れてはいるけれど、穏やかで良い場所だよ。仕事も山ほどあるさ。」
と、レイの言葉に促されて子供達の住む場所が決まった。ウェルナの毒薬で衰弱した身体も、薬代を合法的にアリアが稼ぐ事も出来る。これからは快復へと向かうだろう。
このような処置に決めたのは、彼女達の風聞もあっての事だ。
いくら罪を無しにされたとはいえ、実際に被害を受けていたのは平民街の人々。全てを割り切れるかは怪しいところだ。そしてそれは不当なものでもない。
なので、今回『鼠の牙』を壊滅させた第六王女直々に彼女達を許す事で、平民街の人々にもその感情のやり場を与えた。少しひねくれた人ならば辺境に追放されたとも受け取るだろうし、罰を完全に無しにしたとも言い難い落としどころであるのも重要だ。
また、あの襲撃の晩には逃げる子供達へならず者が数人襲ってきたらしい。人質にしてレイ達を脅そうとしたのだろう。
しかし、闇夜の中で屋根の上からツバキが弓矢で狙撃する事で全て撃退した。耳の魔導器の集音機能により暗闇でも関係なく的確に狙い撃ち、鏃には痺れ毒を塗ってあったそう。
隠れ家で待っていたウェルナの方にもやってきたが、当然メリアスに敵う筈もなくあえなくお縄となる人数が増えただけだった。暗い夜道で無理に走った結果転んだりぶつかって怪我をした子も多く、そんな子達にはサリーの回復魔法が大きく役立った。
メイド達の活躍は子供達がウズの村に行く事を快諾する一因にもなったようだった。
一週間の間、こうした事後処理に追われて奔走していた。授業の合間を縫っては書類に可能な限りに目を通す。講義など、休める授業は休んで強引に時間を捻出する。これまで挙げたものの他にも、ウズの村との連絡により子供達の移住後の受け入れ態勢を整え、王宮とのやり取りや鼠の牙残党に対する掃討の確認など、雑務はいくらでもある。鼠の牙に良いように使われていた子供達の不安の全てを払拭する為にも、ここは手を抜きたくない。
ウィスタリアとバリガンも可能な限りに手を尽くしてくれたが、特に子供達の移住周りに関しては領主のレイや代行官であるサリーが直接対応しなければならないものばかり。
それでもウィスタリアはベルヴェルク家に連絡を取って子供達のウズの村までの移動手段を確保してくれたし、バリガンはしょっちゅう子供達と顔を合わせにいっては遊んでくれた。レイもまた、彼らに大きく助けられたのだ。
忙しさのあまり学院騎士団にもろくに顔を出せていない。どうにか一日出れた際には団員達に質問攻めにされたし、やたらとロウェオンは興奮気味だった。しかし妹を気遣う殊勝な心遣いなど彼にある筈も無く、彼の興味は熾剣持ちを破ったという一点のみだろう。レイからしても彼の率直な物言いは好ましいものだった。
こうした忙しい日々が過ぎ去り、一週間後にようやく暇が出来、明日には子供達の出発の準備も整うという時の事だった。
「レィナータ、少し良いか。」
放課後、授業終わりにウィスタリアに声をかけられる。
「どうしたんだい。明日の見送りには君も来るだろ?」
「ああ……。」
てっきりその話かと思っていたが、どうにも煮え切らない返答だ。
不思議に思っていると、ウィスタリアはレイに話を切り出す。
「レィナータ。俺と、決闘をしてくれないか。」
「決闘?試合じゃなくてかい?何かを賭けたいのか?」
「そうじゃない。
…………強いて言えば、誇りそのものの話だ。」
話す内容はなんとも曖昧だが、その眼には確かな信念が宿っており、冷やかしなどでは決してない。今レイに伝えられないだけで、彼の中に理由はあるのだろう。
「分かった。今からで良いかい?」
「すまない。」
「観客はどうする?」
「俺が申し込んだんだ、お前の従者たちは勿論連れてきていい。ただ、バリガン達は勘弁してくれないか。」
いったい彼が何故今、レイへ決闘を望むのか。その理由は分からないが、バリガンにも見せたくないような事だという。レイは心を読める訳でないから、彼の心情全ては見通せない。いくら考えてもそれを推し測るには材料が無い。
(まあ、闘ってみればそれも見えるか。)
騎士にとって剣を交わす事は時に言葉以上に雄弁に心情を吐露する。
あるいはウィスタリアにとっても、そうせねば伝えられない・消化しきれない何かがあるのかもしれない。ならばまだ出会って一月であっても、友として彼に応えてやらねばならないはずだ。




