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烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
5章 光の騎士
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第9話 露払い


 ヘドウェッジはレイが相手をする。ウィスタリアが子供達を誘導してくれる。

 であれば、自分はただ暴れるだけで皆の力になれる。

 バリガンは背負った両手剣を乱暴に引き抜き、振り回すと同時に構えた。元は廃れた講堂であるだけに中は大型の武器を振り回しても問題がない程広さがあり、ぶんぶんと空気を薙ぐその姿に周囲の男たちはいずれもたじろいでいる。


「なんだあ?来ないのか?」


「舐めやがって…!」


 真っ先に前に出たのは、先程ベンと呼ばれたヘドウェッジの側近の男だ。彼も強化魔法には覚えがあるようで、右手に剣を構えながら左手の盾に青い光・耐久強化を灯らせている。

 だが、その上で彼を含む者達は近付けずにいた。


 ベンは、ヘドウェッジに着いてきた元王宮騎士団の従騎士である。それ故に戦いに自信はある。少なくとも、そこらのごろつきよりはずっと強い。

 そんな彼がバリガンの立ち姿と剣を振る様を見ただけで、一見隙だらけのようでいて何処からでも柔軟に剛たる一撃を叩き込めると察し、まるで隙がないのが理解できる。


 バリガンはまだ十五歳の学生だ。だが、彼は年齢を理由に侮る事は絶対にいけないと知っている。

 それは、かつて見た()()()()()()()()()の持ち主がそうであったからだ。その少女が与えられた罪により姿を消してからも、それを一目でも見た人間は彼女を片時も忘れた事など無く、それは従騎士であるベンの油断を断つに至っていた。


「こんな所に来るぐらいなんだ、舐めんじゃねえぞお前ら!ナイフでも斧でもなんでもいい、投げつけてやれ!」


「げっ。」


 多対一であるのだから無闇に突っ込む訳にはいかないのはバリガンも承知の上だ。だからこそ、相手の出方を伺って攻めさせて各個撃破を狙っていた。投擲はシンプルながら一番の対策である。


「いけっ!ぶん投げろ!」


 ナイフ、手斧、周囲のがらくたやゴミ、空き瓶やら石まで。とにかく殺傷力があるものを片っ端からぶん投げる。彼らにとってはこれ幸いと床には物が散乱している。

 バリガンは青い光の耐久強化と共に投擲物を両手剣で扇ぐようにして払い除ける。


 砦における真魔との戦いでも、弓矢を引くのは従騎士が役割を担う事が多い。この号令もベンにとって手馴れたものだった。

 だが、投げるのは強化魔法すらまばらにしか使えないごろつきたちだ。連携などまともに取れていない以上、隙とて必然的に生まれる。


「今だあっ!!」


その切れ間を突いて床に両手剣を突き立て、そしてそのまま振り上げるようにして瓦礫を飛ばす。それらは文字通りの(つぶて)となって前線に居たならず者たちに襲い掛かった。


「ぐあっ」

「うわあ!?」

「ひいっ!」


 反応は口々ながら、確実に効果がある。元々訓練を積んでいないし戦う覚悟もないような者達である為に、驚くほど彼らは脆い。


「このっ……ガキ!!」


「ははー!どんなもんだい!」


 ベンは目の前の子供が、あの時の少女と同じように才に恵まれた側だと気付く。それは同時に、従騎士にしかなれなかった自分ではどう足掻いても勝つ事など出来ないと悟る事にも繋がっていた。



 2


「さあ、外へ走れ!」


「私の隠れ家まで行きましょう!安全だから!」


 ウィスタリアが後ろを守り、アリアが子供達を先導する。

 ベンと共にバリガンと戦わずこちらを狙ってきたのは三人。剣が一人、槍が二人装備している。槍を持っているのは片方は女だった。


(全員、構えがろくになっていないな。)


 最前に出ていた剣を持った男は筋力強化を発動してウィスタリアに襲い掛かる。だが、緑の光――敏捷強化と共にその剣技を悉く打ち払った。


「なっ」


「弱い!」


 ウィスタリアは持ち手である右手と両足を素早く切り裂く。切り落とす訳ではないが、その深手では武器を握る事も走る事も出来ないだろう。

 こうして可能な限りの最善手にて戦闘能力を奪うのは殺したくないというよりは、殺す必要もないからだ。


 だがその切り裂かれた男に槍を貫通させて、筋力強化の上で槍を持った団員二人が槍を突き刺す。当然この男は死ぬだろう。彼らにとって仲間同士の繋がりすらこの程度でしかないのだ。

 剣を持っていた男は血を吐き、その血はウィスタリアの左肩に僅かに付着する。


「下衆共が。」


 素早く身をかがめて血濡れの槍を躱すと、槍を持つ男女の両手を切り飛ばす。


「が、あああああああ!?俺の腕がぁっ!!」


「やかましい!」


 ウィスタリアはそれぞれ悶える男と女を躊躇いなく蹴り飛ばし、物の散乱した床へとべちゃりと倒れ伏せた。


「大した奴は居ないが、汚い手段を躊躇いも無く取る奴らばかりだな。気は抜けない。」


「ウィスタリア?怪我はない?」


「ああ。傷ひとつない。」


 左肩の返り血を見たアリアは心配そうにウィスタリアへと聞く。ウィスタリアはアリアを気遣って気丈に振る舞っているという訳でもなく、本当に一太刀も受けて居なければ傷などかすり傷すらない。


 子供達を引き連れて外へと走る。

 レイとバリガンの入ってきた壊した壁はその前でレイがヘドウェッジと剣戟を繰り返している為、正規の出入口を目指す。

 廊下を走りながらアリアへと尋ねる。


「アリア。あそこに居たメンバーで全員か?」


「ううん。でも、今日居ないだけかも。」


 バリガンは二十人ほどを相手取りながらもまったく苦戦していない。せいぜいやりあえているのはあのベンとかいう側近らしい男だけだ。強化魔法を使っている上で構えが正しいだけあっておそらくはヘドウェッジと同じく王宮騎士団と関係があるのだろう。

 しかし、ヘドウェッジとあのベンだけしかろくに戦えないとすると、自警団が手出しできないほどの一団と言えるものだろうか。


 そう聞いたウィスタリアは事前に聞いていたこの廃講堂の間取りを思い返していた。


(確か、2階が事務所になっていると言っていたな。金を置いているために団員しか入れず、アリアはよく知らないらしいが…)


 もし居るのだったらこの騒ぎを聞き付けて降りてこない筈がない。だが、玄関口前の二回行きの階段にも降りてくる様子がない。


(もし潜んでいるとすれば…。)


 玄関前までたどり着いた子供達へ、ウィスタリアが呼び掛ける。


「少し気になる事がある。俺は2階の方を確かめてくる。

 外に出ればツバキさんが誘導してくれるはずだ。この闇夜に紛れて逃げろ。アリア、行けそうか?」


「うん、大丈夫。」


 アリアはこくりと頷くと、子供達へと外に出るよう促す。もっと混乱するものと思っていたが、ここで仕損じると死んでしまう事すらあり得るのは皆理解しているのだろう、驚くほど素直に従った。

 彼女達が向かいの屋根の上にいるツバキと落ち合う背中を見届けると、ウィスタリアは2階への階段へ足を運ぶ。


「さて。大物を任せたんだ。露払いは俺達がやらないとな。」


 レイが剛胆に振る舞っていたが、それが表面上のものであるのはウィスタリアも分かっている。

 その上で一人で戦うと言ったのだから、せめて彼女が存分に戦えるよう場を整えてやるべきだ。

 両手に握る双刃へ力を込める。次なる戦いは、先程のように楽には済まないだろう。

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