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烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
5章 光の騎士
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第7話 騎士くずれ

 1


 それから一日の間に、メリアス・サリー・ツバキの三人を引き連れて再び王都へ向かい、アリアにより郊外にある彼女達の隠れ家としている廃屋へと招かれた。そしてサリーにアリアの妹であるウェルナの容態を確認して貰った。

 やはり案の定サリーの回復魔法で治る筈も無く、ツバキによると国外の毒草の症状と似ているとのことだった。ただし投薬を止めても身体が回復するとは限らない、さらに一回りタチの悪い代物であるらしい。


「多分最初は怪我がきっかけで発熱か何かしてたんじゃないかな。

 そこを付け込まれて、毒をゆっくりと盛られていた。」


 その手口は計らずもかつてレィナータが父に毒を盛られていた事に酷似している。

 レイ自身、その頃のやり切れない思いが再び頭をよぎり、強引に頭をかきむしるようにして忘れ去る。

 一方で良い事もある。『回復魔法で治ると見せかけられていた』という事は、解毒薬か症状を緩和する薬も有しているだろうという事だ。元々彼らのアジトには用があったが、それがひとつ増えた。


 これから襲撃する犯罪グループについても詳細を聞いた。

 グループ名は『鼠の牙』。元締めの男の名前はヘドウェッジと言うらしい。

 元王宮騎士というのが確かであるのならば、メリアスが知っているかもしれないと彼女にも聞いてみた。


「いえ、覚えはありませんね。

 私が居たのはもう5年以上も前ですので、それよりも後に入って除隊になったか、それよりも早いか。」


 メリアスからしても、謂れのない罪から除隊になっても王宮騎士団という場所自体には誇りを持っているのだろう。自分のような冤罪であるかもしれないが、喩えそうであっても今は犯罪組織の中枢に居る以上その期待も如何程のものと言えるのか。怪訝そうな表情を隠そうともしていない。


「アリアに手引きして貰って、僕達が3人で襲撃をかける。近くでツバキには待機させ、子供達が逃げる先導をして貰う。メリアスはこの場でサリーと一緒にウェルナを守っていてやってくれるかな。

 自由に動けないウェルナをもしも狙われでもしたら厄介だ。そういう事も平気でやってくる連中だと思う。」


「承知しました。お気をつけて。」


 メリアスはそれ以上の言葉を発する事はない。レイがそのような者達に引けを取る筈がないと、確信しているのだろう。

 レイとしては元騎士でも自分なら余裕で圧勝できるなどと傲慢に考えているのではなく、アリアの手前であるから不安にさせる事の無いように表面上余裕そうに振る舞っているだけだ。そういったものまでメリアスには、なんならサリーとツバキにもバレている筈だ。

 それでも別行動をレイの言葉通りに良しとするのは、以前の鎌鼬騒動にも増して信頼を得ていると思ってよいのだろうか。


 続けて、根城としているアジトのおおよその地形を確認した。

 戦闘員として戦えるのが何人いるのかは分からないが、少なくともヘドウェッジは間違いなくアジトに居るだろう、との事。これまでも集金の時には必ずヘドウェッジが同席しており、自分の強化魔法を誇示するように見せつける事で部下は心酔させ、配下には恐怖を植え付けるのだとか。


「下衆め。」


「クソ野郎だなあソイツ!!」


 ウィスタリアとバリガンの口々に発した言葉は各々の性格こそ出ているが、意味する内容はまったくの同じだった。


 午後10時、週末の夜でまだ浮かれた者達の喧騒が聞こえる中アリアの隠れ家を出る。闇に紛れる様に厚手の外套を羽織る。

 レイは直したての鎧と剣を、ウィスタリアは昨日買ったばかりの二本の鉄剣、そしてバリガンも同じく鍛冶屋で購入した両手剣を持ってきたがあまりにも大きすぎるせいで外套からはみ出してしまっていた。




 2


 週末の休日。明日からの仕事があると分かりながらも親しき友と酒を酌み交わし、明日の労働へと向かうのだ。平民街はそんな人たちでどこもかしこも賑わっている。

 そんな表通りを避けるようにしてアリアはアジトへ向かう。レイ達はやや後ろを離れて隠れるようにして付いていった。

 アジトに近付いてきた為にツバキと別れると、ツバキはひょいひょいと器用に壁のとっかかりや低い壁を伝って屋根へと登る。


 アリアが一人離れてが裏路地を歩いていると、恐らく『鼠の牙』の構成員なのだろう男に声を掛けられた。


「遅かったなアリア。まさか金が用意できなかったんじゃねえだろうな?」


「そんな訳ないでしょ。あたしの腕知ってるでしょ?」


「頼りになるねぇ。へっへ……。」


 そう言うと、彼はアリアを見送った。他の連中となるべく出会わないようにと遅れてやってきたが此処に居るのは、彼が見張りを兼ねているのだろう。アリアは構わず、躊躇わずに進んでいく。


 今回アリアの役目は、子供達をうまく逃がすことだ。

 団員の集まる今日でなくては『鼠の牙』を一網打尽に出来ないが、今日はアリアのようにスリをさせられている子供達が呼び寄せられる。そのまま乱戦になれば子供達を巻き込んでしまうし、人質にされてしまうかもしれない。

 彼女に上手く手引きして貰い、ある程度安全を確保したところでレイ達が突入して制圧するのだ。


 そんな使命を背負うアリアはアジトへと歩みを進める。そのまま後ろを着いていくと、あの見張りにはレイ達が居るのがバレてしまう。


「(奴は騒がせないよう凍らせて、その後は縛っておく。殺す必要もないからね。)」


「(了解。)」

「(うっし任せた。)」


 呑気にあくびを噛み砕いている見張りに物影を伝いながら忍び寄る。光って目立ってしまうので、強化魔法は使っていない。白銀のブーツも石畳で音が鳴らないよう、上から布を巻き付けてある。

 すぐ傍の木箱の裏から飛び掛かると、口周りを凍らせて呼吸を止め、酸欠にさせて動きを止める。ぐったりした所を手足を縛って口に布を噛ませ、周囲のがらくたの間に放っておいた。殺す必要はないが、それと同じぐらい手加減してやる必要もない。最小限の労力で制圧を図る。


「これでよし。」


「見事。」


 もうこれから先に見張りは居ないようだ。アリアに続いてアジトへと潜入する。


 アジトの目の前は小さな広場になっており、このアジトとして使われている建物もかつて使われていた講堂のようだ。アリアの隠れ家もそうだが、再開発が進んだ関係でこのような建物は王都のあちらこちらに点在している。それが悪党にとっては都合が良いのだろう。

 アジトの前が拓けている為に下からは視認が出来ないだけで見張りが立っているかもしれない。用心して広場をぐるりと迂回して近付いていく。

 壊れた窓枠から中をちらりと覗くと、多くのならず者に囲まれて薄汚れた子供達が立っている。あれがスリをさせられている少年少女たちだろう。その中にはアリアも入っていた。


 黒い鎧を着た男がならず者たちの中心に立っている。干し肉を齧りながらその少年少女たちをじろりと睨む。

 周りの者よりもその体躯は一回りほど大柄ながら、肉付きはやや細身。長い黒髪は脂ぎってごわついており、骨ばった顔に髭が生えているのが特徴的だ。


(あれがヘドウェッジか。)


 手に握った干し肉を強引に噛み千切ると、集めた子供達に呼び掛ける。


「あァ、ご苦労ご苦労。俺達は家族みたいなモンさ。困ったら助ける。だろ?

 おらベン、徴収しろ。」


「はっ。」


 明らかに心にもない言葉に続いて、金を巻き上げる。

 アリアを含めた子供達は順に金をヘドウェッジの部下に渡していく。金を数える中で、一人だけ明らかに袋の膨らみからして小さな子供がいた。


「ファミリーなんだからさァ、困るんだよ。」


 ヘドウェッジは立ち上がり、その少年を蹴りつける。

 強化魔法こそ使っていないが、鍛え上げた大人に蹴られたのだ。無事で済む筈もなく、物の散乱するアジトの床に転がされる。

 他の子供達はそれを遠巻きに怯えながら眺めている。次にああなるのは自分かもしれないからだ。『鼠の牙』のならず者たちはその様子をニヤニヤと嗤い、酒をあおる者も居た。


「う…うう……!」


「こうやってちょろまかしたりされるのは信頼を損なうワケ。分かる?」


 何が信頼だ。ふざけた真似を。

 レイが憤るが、それよりも隣のバリガンが今にも飛び込んで殴りかかりそうな程に怒っている。ウィスタリアも平静を装って仏頂面を保っているが、怒りからかわなわなと拳を震えさせる。


(このまま突入するにも、場所が悪いな。)


 ならず者たちとヘドウェッジが離れてしまっている一方で、蹴られた少年以外はならず者に囲まれていて人質にされてしまうかもしれない。このまま無策に突っ込む訳にはいかない。

 ヘドウェッジはそのまま蹴りを少年に浴びせる。少年はうずくまってどうにか耐えようと必死だ。もし腹部に命中でもしてしまえば命の危機だ。流石に殺されるのを黙って見ている訳にも行かず、危険を承知で突入を試みる。だが、


「待ちなさいよ。」


「んァ?」


 その時、ヘドウェッジにアリアが声を掛けた。

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