第3話 平民街の鍛冶工房
メリアスの紹介でやってきた鍛冶工房。敷地はかなり広く、この辺りで一番大きな建物だ。表口は武器屋でその奥には工房があり、トンテンカンと槌の音が今も鳴り響く。
工房の中に通されたレイは、修理に出していたガントレットと再会する。
修理はきっちりと終えていたようで、ガントレットはまるで新品のような仕上がりだ。早速それを着用すると、身体を伸ばす様にして動かす。レイの動きに合わせ、ガチャガチャとガントレットが音を立てる。
「うん。前とまるで同じだ。いい仕事だね。」
大きな髭を蓄えた、レイよりも一回り小柄ながら筋肉質な男が彼女へ話しかける。
彼は、鍛冶職人のヴンダット。元々ある貴族のお抱えの職人だったが、貴族に嫌気が刺し平民街へと降りてきたそう。
「依頼されていた通り、可能な限り元と同じ形状・構造になるようにしておりますぜ。少なくとも図面とはまったく同じになってらあ。」
「ありがとう。助かるよ。」
レイの『極光』は氷の武具を作り出すものだ。その内、鎧にも薄い膜を張るようにして氷を纏わせる事で、強化魔法の効果を行き届かせる。鎧の形状が変わると普段とは違う形状になってしまい、効力が落ちるのだ。
その為なるべく鎧は元通りに修復させる必要があり、代用する鉄の鎧も同じ形状のものを使用していた。
修繕には元通りに出来る腕が無ければいけないが、銀鎧は魔鉱・スヴァジルファリという特殊な金属を使用している為に加工が難しい。メリアスにより、王都内の腕利きの鍛冶屋を教えて貰ったのは幸運だった。
貴族嫌いという話はメリアスから聞いていたので、こう大人数でやってきた事には少し申し訳なさも感じていた。
「しかし悪かったね。君は貴族嫌いで仕事を受けてくれないと聞いたけれど友達まで連れてきてしまって。」
「ブワッハッハ!ただ茶化す訳でなく、このぐらいに気骨のある奴等なら構わんですとも!お忍びで見に来られる王宮騎士は多く居りますからな。」
「そう言ってくれて助かるよ。」
「ワシが貴族嫌いなのは事実ですが、全てを絶ってしまっては弟子まで仕事が無くなってしまいますからな。」
彼はこの工房で住み込みで仕事をしており、多数の弟子も抱えている。今も裏から聞こえる小槌の音は彼らによるものだ。
とはいえ、ヴンダットはレイの仕事を受けるのに嫌そうなそぶりは見せていない。
「ワシの嫌いなのは、装飾ばかりの実用に耐えない飾り剣などを頼んで来る連中ですとも。貴女のように戦う為に身に着けてこその武具でしょうに、あれはなんとも好かん!一本や二本ならまだしも、それが十、百と依頼も来れば嫌気が勝る!」
「あはは……。」
騎士の国であるからこそ、武具は蒐集品、もしくは嗜好品としても扱われる事がある。彼ほど腕のいい職人の品であれば、貴族の力を誇示する意味合いも持つだろう。
貴族達の気持ちはレイとて分かる。外交を有利に進める事は、引いては領地や民を援ける事に繋がるのだから、実質的には戦の為の武具と貴族にとっては変わりない。
いや、それ自体はきっとヴンダットとて理解を示している。だからこそ一本二本は許容したのだ。しかしそれでも武具本来の役目を果たす為に剣を打ちたいと思うのは、鍛冶職人にとって当然の事ではないか。
この地にて仕事を初めて何年かは分からないが、今やこれほどの工房を構えるほどに至り、弟子も多くを抱えている。ただ逃げて来ただけではこうはならないだろう。それらは仕事に真摯であり、そして誇りを持っている証だ。
「……王都でも、素晴らしい鍛冶師と出会えて嬉しいよ。」
武具の手入れはメリアスに任せているが、彼女もあくまでも手入れに留まる為本格的な修理は出来ない。こうして破損してしまっても直せる職人と巡り合えたのは何よりの幸運だ。
「そういえば、メリアスと面識があるようだけれど何かきっかけはあったのかい。」
「おうさ。メリアス様には真魔の素材まで用いて特注の剣を打った事がありましてね。あれほどの剣士はワシの人生で見た事がねえ。冤罪なんざで追放する気が知れねえぜ。」
どうやら、彼もメリアスを冤罪であると信じているようだ。その実力と人格、両面を知っているからこそだろう。
「ま、貴女に出会えたのなら幸運だったのかもしれませんが。単なる形式だけでなく主君を大切に思っているのは、ガントレットを見ればようく分かりまさあ。」
「はは。それはそれは有難い。」
武具の手入れを見てレイへの親愛を見透かすのは、鍛冶師ならではの視点だろう。
だからこそ、弟子に任せる事もなくヴンダット自身が修復を担当してくれたのかもしれない。無骨な彼の温かな思いやりに感謝の意を寄せる。
「そうだ。武器屋の方も僕も少し見ていっていいかな。」
「そりゃ勿論。」
工房から出ると、そのまま表の武器屋に繋がっている。
多種多様な武器防具が立ち並んでいる。裏の工房で打った品が並んでいるのだろう。そちらでは女の店員が店番に立っているが、彼女も弟子の一人なのだろうか。
そんな中でウィスタリアは剣を、バリガンは大剣や斧槍などの大型武器を中心に見て回っていたようだ。
「何か良い物はあったかい?」
「おお、レィナータはばっちしだな!」
すっかり直ったガントレットを見て、バリガンはニカっと笑ってグーサインをしてきたので、レイも同じくグーサインで返してやった。
ウィスタリアは武器に夢中になっていたが、レイが帰ってきたと同時に会計をはじめた。
「何か買うの?」
「ああ。この工房、中々良質なものが多い。鉄製のものを二本ほど買って置いておこうかと。」
「しかし、今買うと手荷物にならないかい。」
「送料さえ払えば学院まで送ってくれるそうだ。」
「へえ、そんなのもやってるんだ。それは有難いね。」
聞くと、王都の店では同じようなサービスを行う武器屋は多いという。
学院の生徒のみならず、王宮騎士団やこの街にやってきた旅人が手荷物から買い逃してしまわないようにと作られたのだろう。
レイは氷の武具をいつでも作れるとはいえ、それにはイメージとなる元の武器がある方が良い。その物流の恩恵に預からせて貰うこととした。
「じゃあ、僕もそれを利用しようかな。戦槌と斧槍は学院騎士団にも無かったし、買っておこう。」
「えっ二人とも買っちゃうのか!?俺もでっかい武器が欲しいなあ!」
結局、試し斬りを行った後にバリガンが両手剣を、レイが戦槌を、ウィスタリアが鉄剣を2本購入して学院へと送るよう手続きをした。
ウィスタリアとバリガンもこの武器屋は気に入ったようで、またしばしば足を運ぶことになるだろう。もし王宮騎士団となってからも通うのなら、学院よりも長い付き合いになるかもしれない。




